第七十五話 空中戦
はやなさんを抱えたまま、目の前に山の斜面が迫る。
「こんのお!!」
翼を広げてスピードを殺しつつ、しっかりとはやなさんを抱えなおして、地面を抉りながら斜面に降り立つ。
数メートルほど速度を殺すために滑ったが、なんとか、倒れずに踏ん張りきった。
な、なんとかなったけど、はやなさんは大丈夫か?!
「はやなさん大丈夫?」
と、はやなさんに聞くと、目を白黒させていた。よかった怪我はなさそう。
かなり強引に助け出したけど、安心した。
「え、えっと、ええ。大丈夫よ、ノエル……で、合ってるよね?」
一瞬誤魔化そうかとも思ったけど、今更無理だなと考えて頷く。
「い、いったいなにがどうなってるの? それにその羽なに? すごくかっこいい!!」
はやなさんが一度にいろいろと聞いてくるが、先に下ろす。
「うん、ちゃんと説明しないといけないのはわかるけど、その前に……こっちを先に片づけないとね」
後ろを向くと、ヴェノムがこっちに迫ってくる。
蒼穹を構える。
「はやなさんは隠れてて!」
僕の言葉にはやなさんが頷いて離れる。僕はヘルメットを投げ捨てて、翼を広げて飛び上がる。地上で戦うより空中のほうが周りに被害を与えないでしょ。
上空に上がって、ごうっと流れる風に一瞬、目を細めてしまう。風が強いな。空中戦初めてだけど、ちゃんとできるかな? まあ、先の一撃で二つある前腕の片方を奪って、残り一本。少しは戦いやすくなってると思いたい。
空に飛び出した僕に対し、ヴェノムの顔の甲殻の一部が開き、動物の『瞳』のようなものが現れる。
『警告、敵熱量増大、ビーム発射体勢、確認』
その警告に狙いを定めないようにバレルロールしつつ、撃ちだされた極太のビームを回避。接近する。一瞬、青空が視界に入って、なんでか、その光景に綺麗だなあなんて感想が浮かんだ。
再び空が上になった状態で前進して、ヴェノムが今度は一気に急加速してきた。
げえ!?
慌てて翼を振って上に向かって急加速し逃げる。ごおっと空気を切り裂く音に急激なGに視界が狭まって、さっきまで僕がいた空間をその巨体が押しつぶす。
と、突撃型って言うのはちゃんと検索したけど、あの加速はびびった……
さらに旋回して、こっちに迫りながら残った鎌のような前腕を叩きつけようとしてくる。それを避ける。
その背中に特注弾を撃ちこもうとして、背中の甲殻が『割れた』
新たに現れた四つの『瞳』がこっちに向けてビームを撃ってくる。
「うわっとお!?」
ギザギザに飛び、急制動してから再び加速とランダムに動いて四つのうち三つをなんとか回避。地平線、空、地面と、捲る捲る視界が移り変わる。だが最後の一発を避け損ねて左腕のイージスで受けた。
以前のより出力が低かったようで回路は焼き切れなかったが、体が跳ね飛ばされる。
「ぐううう!!」
空中で錐揉みしながら、ばたばたと翼を振ったりして体勢を整える。
く、空中戦って思ったより難しい! 高速で地面と太陽のある空と視界が移り変わっていく。
それでもなんとか姿勢を回復させようとして、視界の中でこちらに迫るヴェノムが見えた。大きく鎌を振りかざしている。
だめだ、タイミング的に避けられない。せめてイージスを張って少しでもダメージを軽減しようと考えて……
「うぉわっ!?」
突然、横合いから凄まじい衝撃が僕を襲い、その突撃から救ってくれた。
気づけば、僕は誰かに抱きかかえられていた。
硬い鎧のような甲殻に包まれた、ほんの少し暖かい腕。見上げると、逆光の中、そこに四つの角が王冠のようなものを持つ凶悪な顔が浮かぶ。
「き、君は……」
僕を救ったのは、以前戦った小型種だった。
――大丈夫か?
テレパシーで問いかけられる。ちょっと顔が赤い気がする。か、かっこいいじゃないか。
「ああ、うん助かったよありがとう。でも、なんでここにいるの?」
僕は腕を下りながら問いかける。
確か、彼(?)は僕、というか、たぶん『彼女』と協力して中型種を倒してからどっかに飛び去ったんだっけ。
――たまたまだ。主を捜していたらお前たちを見つけた。
主ね。
そういえば探しているみたいなこと言ってたっけ。
「そう、あのさ、そっちも忙しいだろうけど、今はちょっと手伝ってくれないかな?」
――そうだな。あれを放っておくわけにはいかない。
こくっと頷いてくれる。よし。
試しに頼んでみたけど、助かった。
まあ、そんなあっさり頼んだり、信じていいのか? と言われるかもしれないけど、彼は信用できると思う。ほとんど直感だけど。
「よろしく」
そうとだけ言って僕らは左右に別れて飛ぶ。と、ヴェノムがこっちに向かってくる。
まあ、こいつにとって彼はおそらく仲間であるのだろう。だけど、その横から一条のビームが突き刺さり、毒々しい色の甲殻を焼く。彼の攻撃だ。
それに気を取られたのか動きが鈍る。その隙にピッチアップ、さらにロールして、縦方向にUターン。ごうごうと耳元で風が鳴る中で再加速。そして、交差する瞬間に蒼穹で斬りつける。
若干できた高低差による位置エネルギーと、加速エネルギーによって破壊力を増した一撃が残った前腕を砕く。弾き飛ばされた腕は、くるくると放物線を描きながらそばの山の斜面に突き刺さる。
かぱっとさっき見た四連装の『瞳』が開いて、
――迂闊だな。
一気に接近した彼によって四つのうち一つが蹴りで潰され、一つが腕から伸ばした刃に貫かれる。
身悶えるヴェノム。今!
ヴェノムの上を取り、くるっとロール。そして、
「空断・煌き!!」
なんでかそんな名前を叫びながら一瞬、蒼穹を突き出し、地上に向かって全力で突撃する。
そして、悶えるヴェノムのその背に僕という鉄槌が突き刺さった。
地面に降り立つ。その後ろで真っ二つになったヴェノムの死骸が轟音を立てて地面に叩きつけられた。
な、なんとかなった。はあはあと荒く息を吐く。
そういえば、『僕』自身がヴェノムを倒したのは初めてだな。
倒した、つまり……殺した。命を奪った。
「うっ」
そう考えた途端、気持ち悪くなるけど、頭を振る。あれは倒さないといけないもの、なによりはやなさんを浚おうとした。
そう自分に言い聞かせて、
「ノエル、だ、大丈夫?!」
すぐにはやなさんが駆け寄ってきた。
「う、うん、なんとか」
なんとか笑いかける。あ、返り血浴びた状態で笑うのって、すごく不気味じゃないか? なんて変に冷静な自分が問いかける。
彼も僕の横に降りてきた。そして、はやなさんを一瞥して、
――主?
「え?」
え? 主?
彼はゆっくりとはやなさんに近寄ると、ざっと片膝を付き首を垂れる。
まるで、古い騎士が主君に傅くように。
――お久しぶりです。十年ぶり、でしょうか?
はやなさんはえっとおと戸惑って、あ! と声を上げた。
「もしかして、クロ?」
はやなさんが問いかけるとクロと呼ばれた彼はこくっと頷く。
えええ? な、なんなの? この二人いったいなんなのお?!
あまりのことに僕は朱音さんやアグニからの通信に気づかず混乱するのだった。
鈴:「遅くなりました。いやあ、空中戦書くのむずかしかったあ」
刹:「そして、話も一気に加速したな」
鈴:「このために戦闘機のマニューバをネットで調べました」
刹:「いいよな空中戦、ガンダムは最近少し飛びすぎ感あるけど、マクロスのバルキリーの飛行シーンはかっこいいよな。イサムとガルドの口喧嘩しながらの戦闘とか、アルトとブレラがクイーンに挑むシーンとか」
鈴:「ここでZOIDSのアーラ・バローネの名を出してみる」
刹:「古い!」
鈴:「と、会話が明後日の方向に言ってるしそろそろ終わらそうか」
刹:「それでは、また!」
鈴:「感想、コメント、なんでもお待ちしております」