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エンジェルダスト  作者: 鈴雪
第十章 文化祭
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第七十三話 夫婦

 最近、朱音さんの機嫌がいい。

 カレンダーを気にしたり、鼻歌歌いながら料理をしたりと、いつもと違う。

 アルトも気づいてるのか、不思議そうに朱音さんを

「朱音さん、なにかあったんですか?」

 取り敢えず聞いてみることにした。

 まあ、悪いことじゃなさそうだし教えてくれるでしょ。

「ああ、わかっちゃったか。突然だけど明日、刹那が帰ってくるのよ」

 と、朱音さんが嬉しそうに答えてくれる。

 刹那? 誰だっけ、聞いた覚えがあるけどって、ああ!

「朱音さんの旦那さんが?」

「うん!」

 そっか、だから機嫌がよかったのか。微妙に返事が幼くなった感じがするのもそのせいかな?

 朱音さんの旦那さんかあ。僕も会うのが楽しみだな。


 そして、翌日、食卓には数々のごちそうが並んでいた。なんでも、刹那さんの好きなものを取り揃えているらしい。

 寿司や麻婆豆腐、コロッケ、ハンバーグ、餃子、コンソメスープ、色取り取りのサラダetc.etc.どれも非常においしそうだ。

 てか、和食、中華、洋食と国籍に一貫性が無いな。中には見たことないのもあるし。

 それらを並べながら朱音さんは楽しそうに時計を気にしている。朱音さんって待ち時間を楽しめるタイプなんだ。

「楽しそうですね朱音さん」

「うん、楽しみよ」

 と、僕が言うと、朱音さんは満面の笑みで答えた。

「せつなおにいちゃんはいつ来るの?」

 なんてアルトが聞くと、朱音さんは時計を見て、

「後、十二分と三十六秒かな」

 細かいよ。


 それから、僕たちは刹那さんを待っていたんだけど、時間になっても現れなかった。

「あはは、道が混んでて遅れてるのかなあ?」

 なんて朱音さんが笑って、同時に電話が鳴った。

 目の前から朱音さんが消える。

 えええええ! は、早すぎる!!

 遅れて僕も席を立つと、

「え? 仕事が立て込んで帰ってくるのが難しい? ちょ、ちょっと刹那!!」

 しばらくの間、朱音さんは呆然と立っていて、ゆっくりと受話器を置いた。

 そして、ゆっくりと僕らの方を向いて……アルトが僕の腰にしがみついてきた。

 そこに、満面の笑顔の朱音さんがいた。でも、怖い。すごく怖い。目が欠片も笑ってない。

 頭の中でワーニングが鳴り響き、朱音さんをエネミー設定しそうになる自分を必死になって止める。

「二人ともお腹すいたよね? 先食べちゃおっか?」

 朱音さんの提案に僕らはこくこくと頷いた。


 そして、一時間後、僕はアルトに話し相手として蒼穹を渡してから、部屋に避難させた。

 そして現在、リビングにはひどい惨状が広がっている。

 とっておきと言っていたシャンパンをグラスに注がず、ごくごくとラッパ飲みする朱音さん。

「ぷっはあ! 刹那のばあか! 甲斐性なしい!!」

 ……すっごく逃げたい。

 ていうか、朱音さんってこんなに酒癖悪かったっけ?

 そんな疑問を浮かべながらも、僕は朱音さんに立ち向かう。気分はゴジラに挑む自衛隊(戦車)だ。

「あ、朱音さん、そろそろお酒は……」

 ちらっと床を見ると、すでに四本ほど空になったビンが転がっている。

「なあに? こんな不幸な私からお酒までとるなんて……ううう、鬼だよ犯罪だよ」

 いい感じに出来上がっている朱音さんは両手で顔を覆って泣き真似なんてしてくれる。

 く、だが、引けない、引いてなるものか!

「ま、まあでもさ、もっと味わって飲まないとお酒もかわいそうだよ?」

 と、言ったら、ぴたっと朱音さんが止まった。そして、

「それもそうね」

 うおっしゃああ! 適当に言ったけど、うまく言った!!

 朱音さんがボトルを置いて……二つのグラスに注いだ。って、結局飲むんかい! それに、二つ?

「ほら、同伴しなさい」

 ずいっと朱音さんがグラスを僕に突き出す。

「えっと、僕は未成年だから……」

「十分成人じゃない」

 と、胸のあたりを見ながら朱音さんが無理やりお酒を渡してくる。

「身体はですけど、脳はまだ未成年です!」

「大丈夫。前にも言ったけど、その体には浄化装置あるから、アルコールもアセトアルデヒドも脳には行かないから」

 ああ、そういえば言ってたっけ。確かにあの時は酔わなかったけど、それって、これから一生、酔えないってことなのかな?

 僕の考えを置き去りにして、朱音さんがグラスを差し出してくる。

 無言のまま僕はグラスを受け取る。

 それから僕は朱音さんから愚痴をえんえんと聞かされる羽目になった。


「まったく、あいつって、いっつもそう。あんまり連絡してこなくてさあ、今回みたいなこと昔もあったのよ」

 はあ、と頷く。ついに五本目の酒瓶を開けてグラスに注ぐ朱音さん。もう真赤だ。

 確かに朱音さんの言うとおり、僕は体内の浄化装置のおかげでまったく酔わない。

「でさあ……」

 まだまだ続く朱音さんの愚痴にため息をつく。ここで酔えた方が幸せかなあとか思ってしまえるよ。

 ゆらゆらと朱音さんの頭が不規則に揺れる。本当に大丈夫か? もしかして意識もなくて、ただ、愚痴だけが出てるだけとか?

「『愛してる』なんて甘い声で囁いてくれたっていいのに、あいつそれもしないし」

 朱音さん、約束破られたって言うのもあるんだろうけど、刹那さんに不満多いなあ。夫婦ってそういうものなのかな?

「あいつ『口にしないで胸の奥に仕舞っとく言葉だ』なんてかっこいいこと言ってたけど、実際は恥ずかしがってるだけよ」

 ああ、その気持ちはなんとなくわかる気がする。でも、子供みたいなんて思ってしまう。

「子供なのよ。いつまでもね。でも、そこが好き」

 と、そこでバタンと朱音さんが勢いよくテーブルに突っ伏した。

 って、大丈夫なのか?

「あ、朱音さん?」

 心配になって顔を覗き込むけど、その眼は焦点が合ってない。いや、なにも見ていないのだろう。

「何かとかっこつけたがるし、子供みたいな言い訳する時もある。でも、一緒にいて居心地いいの」

 えっと、意識あるのかな? かなり酔ってるみたいだけど……

 でも、朱音さんは止まらない。

「刹那は絶対に私を裏切らない。ずっと一緒だって、もう離れないって約束してくれた。姉さんとの約束なのに……私とね。でも、それが嬉しかった」

 僕は黙って朱音さんの独白を聞き続ける。

「だから、私は刹那と一緒にいる。どんなに離れても最後は刹那と一緒に…………」

 だんだんと声は小さくなって、そこで言葉は途切れた。

 そっと顔を覗き込むと、安らかな寝顔。やっと終わったからか、なんかほっとした。

 僕は朱音さんを抱えて部屋に連れて行く。

 そして、ベッドに寝せてから、古びた犬のぬいぐるみ、『せっちゃん』を抱かせて僕は部屋を出た。

 にしても、明日、朱音さん大丈夫かな?


 翌日、リビングでは少し機嫌のいい朱音さんが朝ごはんの用意をしていた。

 ……あんだけ、意識を失うまで飲んだのに、なにもないって、どんだけすごいの?

「お、おはようございます朱音さん」

「おはようノエル、昨日はごめんね?」

 苦笑気味に朱音さんが謝ってきて、いいですよと僕は返す。

 それから、椅子の一つに座っている見たことのない人形が目に映った。

「あの、それ」

 ああ、とかなりの大きさのテディベア朱音さんが微笑む。

「新しいメンバーの『はやなちゃん』だよ」 

鈴:「お前なあ……」

刹:「いやいや、ちゃんと帰ったよ? ノエルやアルトは知らないけど、ちゃんと深夜に一度帰ってきたよ?!」

鈴:「それでテディベアだけ置いて行ったのか?」

刹:「あ、ああ……」

鈴:「……甲斐性なし」

刹:「う、うるさーい!!」

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