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エンジェルダスト  作者: 鈴雪
第九章 もう一人の自分
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第六十五話 朱音さんが大変だ!

 私、朱音が朝ご飯の用意をしていた時だった。

 食卓の彩りはほぼ完璧。だけど……あれ? ソースがない。

 ノエルは目玉焼きにソース派なのに。

 どこ片付けたっけ? なかなか出てこない。

 うーん、なんか嫌ね。この小魚の骨が引っかかっているような感覚。

「あ、そうだ」

 その時、ふと思いついた。

 暗示系の術と探査系の術を組み合わせれば記憶を遡れる術ができるかも!

 さっそく試してみましょう。


 それから十分後……

「うん、こんな感じかな?」

 出来上がった術をさっそく使ってみる。

 記憶を遡る。えっと最後に使ったのは多分昨日の晩御飯だけど……

 頭の中にイメージが流れる。ああ、間違えて冷蔵庫に入れたんだ!

 ふう、やっと思い出した。

 即席にしてはなかなか……ってあれ?

 どんどん頭にイメージが浮かび上がる。こ、これって術が暴走してる?

 大変。止めないと。

 だけど止めようとする間に指数関数的に術が加速していく。

 う、うーんこれは……忘れてたような恥ずかしい思い出まで再生されるのは困るなあ。どうしよう?

 そうこうしてるうちに、今まで出会った人々の記憶、そして、私の大切な人が……


 僕はふわっと欠伸をしながら起き上がった。はあ、今日もよく寝たなあ。

 アルトを起こさないようにベッドから出る。

 それからシャワーを浴びるために部屋を出て、ふと気づいた。

 あれ? いつもなら朱音さんが忙しく動き回ってるのに今日は静かだな……

 不思議に思ってリビングに向かう。いつもならそこで朱音さんが朝ご飯の用意をしてるんだけど……

 リビングに入ると、朱音さんは椅子に座ってボーっとしていた。

「おはようございます朱音さん」

 声をかけるが朱音さんは反応しなかった。

「朱音さん?」

 どうしたんだろう。そばによると朱音さんがこっちを向いた。

 そして瞑らぬ瞳で小首を傾げる。

「お姉ちゃんだあれ? ここどこ?」

 へっ?

「朱音、さん?」

 僕が声をかけると朱音さんはますます首を傾げた。

「朱音ってだあれ?」

 ……えっと。どういうこと?

「なに言ってるの朱音さん。あなたの名前でしょ?」

 するとぷうっと子供みたいに朱音さんが頬を膨らます。

「あたしアリスだよ。朱音なんて名前じゃないんだから」

 ふざけてる……わけじゃないよね?

「えっと朱音さ」

「アリス」

 朱音さんが訂正する。

「あか」

「ア、リ、ス」

 はい、わかりました。

「アリス、ちゃん」

 僕がアリスと呼んだ途端に朱音さんが嬉しそうに笑う。

 その笑顔は、いつもの華やかな笑顔とは違う、お日様のような笑顔だった。

「お姉ちゃんのお名前は?」

「ノエル……」

 僕の返事に朱音さんが頷く。

「ノエルお姉ちゃん。よろしくね!」

 朱音さんの言葉に僕は引きつった笑みしか浮かべられなかった。


「という訳でアグニ、状況はわかる?」

 あの後、さんざん朱音さんと話したけど、結局ふざけてるんじゃなくて本当にアリスという女の子になってるとしか思えなかった。

 そして、どうすればいいのかわからずにすぐアグニに電話した。

『おそらく幼児退行だと思うが……原因はわからないな』

 そりゃそうか。

 にしても幼児退行ね。リアルで見る日が来るとは思わなかったよ。

『まあ、ほっとけば勝手に治るわけないか……ちょっと待ってたまえ。今からそっちに行く』

 お願いします。


 で、朱音さんもといアリスちゃんの相手をしてるんだけど、

「ママ、おねーちゃんどーしたの?」

 起きてきたアルトが、アリスちゃんを見て、僕の袖を引っ張って聞いてきた。

 うーん、なんて説明するべきかなあ。

 と考えてたら、アリスちゃんは自分の体をマジマジと見ている。そして、

「おっきくなった!?」

 びっくりしていた。いや、最初に気づこうよ!

 それからたぷっと自分の胸を持ち上げてわーっと目を輝かせる。

「せっちゃんにみせにいこー!!」

 と、部屋を飛び出す。

「ちょっと待ってーー!!」

 大慌てで僕は朱音さんを止める。

 せっちゃんが誰かはわからないけど、今出歩かれるとまずい! いろいろとまずい!

「はなしてノエルお姉ちゃん。あたしせっちゃんのところに行くんだから!」

 ぬお?! アリスちゃんのパワーの前にリミッターを外すが、ずるずる押されていく。

 つ、強い! 機械天使とため張れるパワーがある?!

 驚きの展開に混乱するけど、状況を打開するために頭を回す。

 どうすればいい? 考えろ!

「あか、アリスちゃん落ち着いて! なんでいきなりせっちゃんに会いに行くの?」

 とりあえず原因と思われる相手の名前を出して尋ねる。

「えっとね、あたしね、せっちゃんとおっきくなったらね、けっこんしようって約束したの」

 えへへと嬉しそうに笑うアリスちゃん。

 まあ、子供にありがちな微笑ましいエピソードだな。

「だから、せっちゃんに会いに行くの!」

 またずんずんと進む。みしみしと床が悲鳴を上げる。これ以上は床を踏み抜きかねない!

 ど、どうしよう。どうすればいいんだ?

 その時、ぴーんと思いついた。

「アリスちゃん落ち着いて! あなたは病気かもしれないの!!」

 僕の言葉にピタッとアリスちゃんが止まる。うおっしゃあ!!

「びょうき?」

 僕はこくこく頷く。

「そうよ。いきなり大きくなるなんておかしいと思わない?」

 僕の言葉にアリスちゃんは目尻に涙を浮かべる。

「あたしびょうきなの?」

 ありゃ、意外と効果抜群だな。

 腕を離す。

「大丈夫。今お医者さん呼んだからね」

 僕はにっこり笑いかけた。

「だから、家を出ないで待っててね?」

「うん」

 こくんとアリスちゃんは頷いた。

 ふう、なんとかなった。

 僕は家を壊さずに済んだことを喜んだ。


鈴:「うーみゅ、改めて朱音が全然違うキャラだなあ」

刹:「ま、まあな。性格昔と今じゃ全然違うんだよあいつ」

鈴:「ふーん、ちなみにどっちの朱音さんがいい?」

刹:「どっちもだな。どっちもかわいい!」

鈴:「そ、そうか」

刹:「そうなんだ」

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