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エンジェルダスト  作者: 鈴雪
第九章 もう一人の自分
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第六十四話 はやなさんとデート

 僕ははやなさんに誘われて郊外の遊園地に来た。近場で割と有名であり、そこそこの人の入りようである。

 本当はアルトも連れてきたかったけど、はやなさんの雰囲気から朱音さんとお留守番してもらっている。

 今度は一緒に来たいなあ。

「で、どこから行く?」

 僕が聞くとはやなさんはうーんと悩んで、

「いろいろいってみよー!」

 と元気よく腕を振り上げた。

 いつも通りに見えるけど、なんか僕にははやなさんが無理してるようにしか見えなかった。


 いくつかのアトラクションを回る。ゴーカート、メリーゴーランド、そして、

「よーし、次はあそこ!」

 次にはやなさんが指したのは定番オブ定番ジェットコースター。

「乗ってみたかったんだよねえ」

「そうなんだ。なんで?」

 ジェットコースターは定番なのに。

「ここのジェットコースターは最近リニューアルしてね」

 ふむふむ。

「日本二番目の高さと角度を誇るレーン!」

 なに?

「魔の四連続ループが待ってるんだよ!」

 ちょっと待て。

 確かに高い。目測で高さを計測。次に四連続ループを見る。

 でも、このくらいなら、自分で飛んだり跳ねたりするほうがなあ。

「じゃあ、乗りましょうか」

「おー!」

 そして、僕ははやなさんと並んで……


 コースターが高みに登っていく。

「なかなか高いなあ」

「うんうん、これは楽しめそう」

 高さを計測した程度じゃわからないけど、思ったよりも高く感じる。

 そして、

「ぎゃーーーー!?」

「わーーーー!!」


「ひいぃぃぃぃ?!」

「やっほーい!」


「のぉぉぉぉぉ!!」

「すごいすごーい!!」


 ジェットコースターを降りる。うっ、くっ、おかしい。

 オートバランサーがいかれたのか、足元が覚束な……ああ、膝が笑ってるせいか。

「悲鳴上げまくりだったね」

 言わないで。あとあれは悲鳴じゃない。魂の慟哭だ。

 にしてもなぜだ? 数回しか飛んでないとはいえ、自分で飛ぶのと変わらないくらいの勢いだったけど……体が固定されてたからか、それともアトラクションだから?

 それらの疑問がいくつか浮かぶけど答えは出ない。

「にしても、すごかった……体と魂が離れるかと思ったよ」

「あはは、そんなに?」

 はやなさんはうーんと首を捻り、そばにあった休憩所を見る。

「えっと、そこで休もうか?」

 はやなさんの言葉に僕は頷いた。


 夕方、帰りの電車で、

「あ、ノエル、ちょっと寄りたい場所があるんだけどいいかな?」

 その提案に僕は頷いた。


 一つ前の駅に降りるとはやなさんは町が見渡せる高台に向かった。

「ここはね、私のお気に入りの場所なんだ」

 町を見渡せる場所でぐっと伸びをするはやなさん。

 僕はその横に並んで、なんとなくはやなさんを見る。物憂げな表情で夕日を見つめていて、その顔にドキッとする。

「ねえ、はやなさん」

「なにノエル」

 僕は少し悩む。聞くべきか聞かざるべきか。

 そして、

「なにかあったの?」

 結局聞くことにした。

 はやなさんは一瞬目を見開いてから、寂しげに笑った。

「やっぱりわかった?」

「付き合いはそこまで長くないけど、友達だからね」

 そういえばまだ三カ月くらいか。

 そっか、とはやなさんが笑う。

「ふられたんだ」

 ぽつりとはやなさんが呟く。

 ふられた? つまり……

 途端に空気が重くなる。

「勇気を出してお兄ちゃんに告白したんだけど『妹としか思えない』ってね」

 まあ、当然っちゃ当然の返事だ。

「なんか、突然だね」

「まね、誰かが言えるうちに言えって言ってたから」

 ふーん……って、それ僕じゃん。

 な、なんか罪悪感に似た何かを感じるんだけど……

「まあ、だから気晴ししたくてノエルに声をかけたんだ」

 そう言ってはやなさんが笑う。その少し影のある笑顔に、僕はなんとか笑い返すしかできなかった。

 まったく、一馬さんの反応は当然とはいえ、もったいない。

 はやなさんははっきり言ってかわいい。それに元気でそばにいて楽しい。僕が男ならはやなさんをほっとくなんて考えられない。あーあ、なんで僕は女に産まれたんだろ?

 ――あれ? なんだろ。今なにか違和感が……

「今回のことは私やっぱりショックだったんだ」

 はやなさんの言葉に現実へと帰る。

 まあ、そうだよな。ふられたんだもん。

「でも、少しすっきりしたんだ。ちゃんと自分の気持ち言えたんだもん。まあ、明日からどんな顔して会えばいいか悩んでるけど……」

 僕は黙ってはやなさんの独白を聞く。

「今日は付き合ってくれてありがとうノエル」

「ううん、僕も楽しかったよ」

 はやなさんがほほ笑み、僕も微笑み返す。

「じゃあ、帰ろ」

「はい」


 そして、僕の家につくと、一馬さんが待っていた。

「よ、はやな」

「お兄ちゃん……」

 はやなさんが顔をそむける。さっき言ってたもんなあ。どんな顔してあえばいいのかって。

 だけど、一馬さんはずんずんとはやなさんに近寄ると、手をはやなさんの頭にのせ、がしがしと撫でる。

「わきゃきゃきゃきゃ!?」

 突然の一馬さんの行動にはやなさんが悲鳴を上げる。

「たく、帰るぞ」

「う、うん」

 はやなさんが頷くと、よしと一馬さんも頷く。

「テスタロッサさんも、妹に付き合ってくれて今日はありがとう。じゃあ、また」

「あ、はい。それでは」

 そうして二人は連れ立って帰った。

 一馬さん、はやなさんのことが心配だったのかな……そう考えたら少し笑みが浮かんだ。

 さて、僕もそろそろ家に入るか。

「ただいまー」

「おかえりー、ママー!」

鈴:「エンジェルダスト、はやなに関する話です。こういう何気ないものがノエルの物語には重要。ほら、思い出がまた一つ増えた」

刹:「一馬め、はやなをふってしまうとは……」

鈴:「君はどっちつかずだもんねえ」

刹:「わりいか?」

鈴:「いんや。ただ一言、シスコンめ」

刹:「うっせえ」

鈴:「では、みなさん、次回もお楽しみに」

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