第五十九話 小型種襲来!
旅行から帰ってきてすぐ数日後、僕はすぐにお仕事に呼ばれることとなった。
具体的にはまたヴェノムの発掘隊の警護。
先日の原因不明の覚醒がまたないとも限らないというわけだが……ぶっちゃけ暇だった。発掘作業は手伝えないし、朱音さんは監督を指揮するアグニと話している。
アルトは……念のためにはやなさんに預けてきた。
外に行けば篠原隊長たちがいるけど、厳重に警戒している人たちに話しかけるのもなあ。
今回、警護部隊には自走砲に装甲車、果てにはアパッチまで導入されてる。よっぽど前回のが印象深かったんだな。
でも……
「蒼窮、ヒマー」
『マスター、はっきり言わないでください』
僕のボヤキに隣に立てかけた蒼窮が難色を示す。
まあ、不謹慎な発言なのは認めるけどさー、僕は数ヶ月前までただの一般人で
こんなことするなんて夢にも思ってなかったし。
警備がこんなに暇なんてなあ、だからといって何かが起きられても困るけど……
どれくらい時間が経っただろうか?
体内時計を確認すれば、二時間半くらい。
くあっと何度目かの欠伸。うー、早く終わらないかなあ?
そんなことを願っていたら……センサーが高エネルギー反応を捉えた。すぐに蒼窮をとって身構えるけど、目の前に反応はない。
いや……反応は――
「上?!」
僕は振り仰いだ。
上から何か来る!
次の瞬間、何かがテントが引きちぎり、静かに地面に降り立った。
「なんだ?」
アグニの言葉が聞こえたが、無視。
僕は目の前に現れたそれを凝視した。
真っ黒な人影。二足歩行で腕も2つ、ちゃんと頭もある。
四つの角が王冠のように頭部から伸び、二つの目らしき器官がその下にあり、口と思われる部位は鋭い牙が並んでいる。
体は非常に生物的ながら鎧のような見た目、手足はスマートながら力強いという相反する二つの印象が同居し、腕と足からは、刃のようなものが伸びている。
肩も非常に鋭角的でタックルを受ければまずズタズタに引き裂かれるだろう。
まるで昔見た仮面ライダーをもっと生物的にしたような見た目だ。
そこまで観察してから身構える。各種センサーから得た情報から目の前にいるのはヴェノムの小型種だと識別される。つまり、通常の機械天使と同等の相手。
全然中型と雰囲気が違う。なんというか強い威圧感を感じる。
「まさか、小型種?!」
朱音さんの声が響くとともにそれはじゃりっと地面を踏みしめながらこっちに向き直る。僕は身を固め、朱音さんも大鎌を構える。
そして、
──お前、主の匂いがする。主がどこにいるか知ってるか?
一瞬、なにを聞かれたか、いや正確には誰が聞いてきたか認識できなかった。
……えっと? しゃべった? 誰が? ヴェノムが?
「えええ!?」
「ちょっとノエルどうしたの?」
いきなり叫んだ僕の肩を、朱音さんが叩く。
いや、なんであなたは冷静なの!?
「だだだだ、だってしゃべったじゃないですか! ヴェノムが喋ってますよ!? 僕そんなの聞いてない!!」
僕は逆に朱音さんの肩を掴んで揺さぶる。確かに喋ってた!
だけど朱音さんは訝しげに眉を顰める。
「え? なに行ってるの? ヴェノムが喋った?」
『マスター、ヴェノムが喋るなんて聞いたことありません』
……え?
──答えろ。主はどこ?
再びヴェノムが問いかけてくる。
「ほら! 今喋った!!」
僕はそう言って目の前のヴェノムを示すが朱音さんは首を振る。
「もしかして疲れてるんじゃないかね?」
哀れむように僕を見るアグニ。なぜか冷静に重要な資料を集めていた。
それを睨んでから、僕は再びヴェノムに向く。
確かに喋ったよなあ? 日本語で。でもみんなに聞こえないとすると……
「もしかして、あのヴェノムテレパシー使えるとか?」
朱音さんが僕の思いついた答えを口にする。
だったら声が聞こえるのもわかるけど、なんで朱音さんたちには聞こえないんだ? 僕が機械天使だから? それとも、単に僕に問いかけてるから?
でも、ヴェノムの主ってことは女王級のことかな? でも、僕はどこにいるか知らないし、話す気もない。
五人の隊員がテント内に入ってくる。
そして、外から準備されていた自走砲やらが動く音が聞こえてきた。ヘリのプロペラ音まで聞こえてくる。そういえば、他にも機関銃とかが設置されてたっけ。
でも、それが動いてるって……
「隊長が一斉攻撃の準備してるんだよ。以前の反省から今回は俺が設計した対ヴェノム用火器の持ち込みが許可されている。ああ見えてやる時はやる男だから、俺や君がいても構わずぶっ放す。頑張れ、ノエル」
なるほど、どうりで冷静なわけだ。
本当にアルト連れてこなくてよかったー!
確かに篠原隊長たちの装備は自動小銃と各種装備が基本、一応何人かはヴェノム用のロケットランチャー。ヴェノムと戦うのは言ってみれば戦闘機と戦うに等しいから地上兵士は最小装備らしい。
自動小銃の方はアグニが開発した弾で、ひるませるのがやっとらしいし。
一時期、僕が使ってる弾を人間用の火器に使えないか? という話もあったそうだが、もし流用したら、反動で狙いは付かない上に、脱臼すら起こす代物らしく、しかたなく人間が使えるレベルにデチューンして作ったとか。
まあ、その制約も薄い砲台とかは専用の大型爆弾を搭載してるとか。まあ、僕が失敗したらその全てを使ってヴェノムを殲滅するんだろうな。負けられないなあ……
そして、ヴェノムがまるで武闘家のように足を開き、腰を下ろし、そして拳を構える。
堂に入った構えで隙なんか見えない。なんかイメージと全然違う。
──答えないなら。力ずくでいかせてもらう
力ずくですか。僕は乾いた笑みを浮かべながら構え直す。
「ノエル、気を付けて。彼、手練だよ」
朱音さんの忠告とともにヴェノムが動く。地を蹴り、一気に僕に接近、右拳振るう。
右腕の刃を蒼窮で受ける。が、その状態でヴェノムが踏み込み、左足が迫る。
脇腹! 足でガードするが、勢いに押され後退する。
横手から朱音さんが手から雷撃を放つ。
ヴェノムは素早い動きで右へ、左へとステップを踏みながら攻撃を避けつつまた僕に迫る。
数発だけ当たるが外郭の数ミリの所で弾かれるのが見えた。そういえば、力場で弾くんだったっけ。
真っ直ぐ早い右拳が迫る、紙一重で避けながら蒼窮を振るうが左の刃で受けられる。
すかさず右足が迫る。一歩後退するが、肩と頬に掠る。さらに止まらずに振り上げた足で踵落とし。
反射的に肩から体当たりして逃げるが、敵は崩れたバランスのまま体を独楽のように回し拳を突きだす。
ギリギリ蒼窮でガード。重いがなんとか受けきる。
追撃に対し、僕は飛びのきながらライフルモードにした蒼穹で牽制。ヴェノムは後ろに飛んで離れる。
強い……体が反応してくれなかったらとっくに終わってた。
「いい動きをするね。いい師匠に恵まれたのかな?」
朱音さんは目の前の相手にそんな評価をしている。いや、なにそんな冷静に……
ヴェノムの小型種ってこういう風に厄介なんだ。
『いえ、違います』
だが、蒼窮が否定した。
『こんな戦い方のヴェノムは初めてです。小型種は確かに高い知性を持ち合わせますが、奴らはもっと動物的な動きをします』
なんだって?
「なら、こいつは?」
『わかりません』
まあ、でも目の前のヴェノムが、どうやら少し特殊らしいということだけはわかった。
ソードに戻した蒼穹を構え直し、息を整える。
このまま、引いてくれたらなあ……
そう、考えるけど、彼をほっておいてなにかが起きても目覚めが悪そうだ。できるなら、ここでどうにかしたいけど……
じっとヴェノムはこっちを見つめて、
──お前、人間ではない?
と、再びテレパシーを送られた。
……は? まさか、こいつ知らないで襲いかかってた?
──なら、手加減はしない
い、今まで人間と思って手加減されてた? や、やばいよな。
朱音さんに注意しようとして、先にヴェノムが動いた。反射的に僕も動く。
さっきよりも早く真正面から向かってくるヴェノムに向かって蒼穹を振りおろし、ヴェノムは伸ばした手で蒼穹の側面を押して、軌道を変える。
んな?!
さらに、ヴェノムは蒼穹を流した手で僕の腕をとり、伸ばした手で服を掴みながら、体重移動をすると……すぱんと僕を投げた。
せ、背負い投げ?!
僕は投げ飛ばされ、地面に叩きつけられる。
「ノエル!!」
そして、痛みに耐えながらも立ち上がろうとして、眼前にヴェノムの足の裏が迫る。なにかをする暇もなく、僕は顔を踏みつけられ、朱音さんの叫びを聞きながら意識を断ち切られた。
鈴:「バトル編です~!」
刹:「少しテンション高いが、まあ、書きたがってたからな」
鈴:「いやー、今回は難産でした。なお、ヴェノム小型種のイメージは仮面ライダーギルスと仮面ライダークウガ・アルティメットフォームに仮面ライダーシンです」
刹:「なんども直したもんなあ」
鈴:「この場を借りて、自衛隊という組織、及び考察を手伝っていただいた知人にお礼を申し上げます」
刹:「それでは、楽しんでいただければ幸いです」
鈴:「では、また次回にお会いしましょう」
刹:「それでは~」