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エンジェルダスト  作者: 鈴雪
第七章 夏休み
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第五十八話 夏祭りに行こう!

 別荘に帰ってきて、晩御飯を食べてから僕らは浴衣に着替える。

 僕は着付けの仕方がわからないからはやなさんに手伝ってもらう。

「ん~、よし!」

 そう言ってはやなさんがぱんと背中を叩いてくれる。

 僕の浴衣は薄い蒼に、あちこちに白い羽と黒い羽が舞うように描かれているデザイン。金糸銀糸がふんだん使われた白と黒で上下に別れた帯。髪を結っているリボンも右が白で左が黒に分かれるように調節されている。

 うん、いい感じ。ちょっとすずしいけど、夏だからね。

 くるっとその場で一回転してみる。なんか、綺麗に着飾ってくれるのは嬉しい。

 アルトは朱音さんに気付けてもらっている。

「はい、できたよ」

「えへへ、お姉ちゃんありがとー!」

 ぺこっと頭を下げてからアルトはこっちに駆け寄ってくる。

「ママ、どう?」

「うん、すごく似合ってるよ」

 そう言ってあげると、アルトは嬉しそうに笑った。

 アルトの浴衣は薄桃色の地に、八分音符や十六分音符が飾るというデザイン。普段は僕を真似して結っている髪をおろしている。それから、アルトは手を差し出す。

「ママ、これお願い!」

 そう言って差しだしたのは、八分音符の形の飾りがついたゴム。

「はい、じゃあ後ろ向いて」

 そう言うと、嬉しそうにアルトは僕に背中を向ける。

 その柔らかな髪をそっと取って、きゅっとゴムで纏める。

「できたよ。うん、かわいい」

「ありがとうママ!」

 振り向くアルトの頭を撫でてあげる。

「じゃあ、準備も終わったなら行きますか!」

『はーい!』


 祭りとは様々な音が踊る場所だ。

 景気のいい呼び声、行きかう人の足音、たぶん、音だけでも飽きることはないだろうと思うくらいに音が満ちている。

「よー、お姉ちゃん綺麗だね? 一つ買ってくかい?」

「あ、じゃあ二つ」

 そうして受け取ったリンゴ飴をアルトに上げる。

 今みたいに何度も呼び止められるし注目されてる。まあ、見た目は綺麗な外国人の姉妹だから注目されるかな?

「えへへ、楽しいねママ」

 嬉しそうにリンゴ飴をなめるアルト。

 その頭には狐のお面に、片手には綿飴。うーん、お祭りに必要な神器が少し欠けてるような……

 そこで、危うく通り過ぎるところだったのは水風船。

「そうだこれ!」

 僕はぐるっと振り向いてそこに向かう。

「おっちゃん、挑戦者二人ね」

「あいよー」

 小銭を渡して、紐の代わりに細い紙が持ち手の釣り針を受け取る。

「アルト、これはね、この釣針でこうやって、風船についた輪ゴムをひっかけて吊り上げるゲームなんだよ」

 そう言って僕がつってみせるとアルトはおーと口を丸くして目を輝かせる。

「アルトも!」

 そう言って、アルトも挑戦する。

 釣り針を水の中に垂らして、ゴムにひっかける。そして一気に引っ張って……ぷつんと切れてしまった。

「あー」

 と残念そうに表情を曇らせるアルト。

「残念だったね。はい」

 僕は最初につった風船をアルトに渡す。と、さっきまでの沈んだ表情を一変させるアルト。

「ありがとうママ!」

 ふふ、アルトが笑ってくれてよかった。でもこっから僕の超絶技能を見せてやるぜ。

 そして、僕は袖をまくるとまだ切れてない針を垂らして次の獲物をすくい上げた。


 数分後、屋台に浮かぶ風船の半分ほどで釣糸が耐えられなくなって切れてしまった。

 むう、三分の二は釣るつもりだったのに。屋台のおっちゃんもずいぶん驚いてたなあ。

 とりあえず、釣った風船のほとんどは返還、僕とみんなの分だけもらっていく。あんなに持ってても意味ないしね。

「ノエルって、変な特技持ってるね」

 驚きを通り越して呆れた顔をしているはやなさん。浴衣は水色の地にいろんな鳥が飛び交うデザインでよく似合っている。

 僕の技に驚きながらも、膝を屈めて猫にポップコーンを食べさせていた。

 器用な人……。

「あはは、そういえばけーちゃんも得意だったね」

 と、笑うのは紫陽花がポイントとして配された白い浴衣のかなねえ。

 またやってしまった。まあ、大丈夫大丈夫と自分に言い聞かせる。

「本当にノエルさんて面白いね。でも本当に外国人?」

 一馬さんははははと笑ってから首を傾げる。

 すいません。中身生粋の日本人です。納豆、漬物に刺身みんな大好きです。

 嬉しそうにぼんぼんするアルト。ああ、すごくかわいい。やっぱり祭りに来た子供はこれ持ってなくちゃ。

 朱音さんも苦笑を浮かべている。これくらいコツを掴めが楽勝なのになあ。

 そうして僕らは今日のメインイベントである花火を見る。

「たーまやー!」

「かーぎやー!」

 空中で炸裂する花火を見つめる。本当に綺麗。たった一瞬の美だけど、だからこその美しさなんつって。

「綺麗だねえ」

「そうだね」

 はやなさんが返事を返してくれる。

「花火に願い事したら叶うなんてものがあればいいのに」

 ぽそっと漏らすはやなさんの言葉に苦笑を浮かべる。

 やっぱりはやなさんのお願いって一馬さんとのことかな?

 まあ、友達としては叶うことを願うけど、でも……

「はやなさん」

「なに?」

「……言葉にしないと伝わらないものもありますよ」

 こっちを向いたはやなさんの眼をできる限り真剣に見る。

 はやなさんはじっと僕の眼を見返してくれた。僕は小さく笑う。

「はやなさんは、僕みたいにできなくなる前に実行してくださいね」

 僕にはもう恋愛なんてできないだろうからさ。はやなさんは頑張って。

 僕の言葉にはやなさんはうんと頷いて、また花火へと目を戻した。僕も花火を見る。

 本当に綺麗だな……


 翌日、僕らは朱音さんの運転する車で陣内町に戻った。

 アルトがイルカさん~と寝言を呟くのを、頭を撫でてあげながら微笑みかけ、それから僕は海を見つめる。

 海をみながら、またこんな風にみんなで遊びに来たいなと小さく願った。

 

鈴:「久々にエンジェルダスト投稿しました」

刹:「遅かったな」

鈴:「いろいろあって、ね」

刹:「まあ、いいや。今回で旅行編終了」

鈴:「次回は真面目パートになる予定です」

刹:「それでは、また」


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