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エンジェルダスト  作者: 鈴雪
第七章 夏休み
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第五十五話 カレーを作ろう

 ぱしゃぱしゃと波打ち際を歩く。押し寄せる波、素足に触れる冷たい水と一緒に流れる砂の感触が気持ちいい。

 すでに日は沈み始めた黄昏時だけど、昼の日差しが肌を焼く感じも心地よかった。女の子の肌はデリケートって言うし、敏感にいろいろと感じるのはそのせいかもね。

 にしても、女ものの下着をつけた時にも感じたけど、水着も男と違う。

 なんというかフィットするのだ。水を吸ったせいか余計にそう感じる。

 男の場合、ボクサータイプはだぼっと余裕がある。学校指定の水着が近いかもしれないけど、あれとも別格。

 このフィット感は違う。なんか体の一部みたいな感じがちょっとするけど、だからといって裸とは違って、不思議な感覚だ。下着を着たときも感動してしまったが、これはまた別の感動がある。

 って、なにそんなことで感動してるんだろう僕……

 なんとなく周りを見るが、ちらちらとこちらを伺う視線にも、最初の恥ずかしさはない。遊び始める前に比べると、この格好の羞恥心を感じなくなった気がする。それこそパレオを持ち上げても平気な程度には。

 ふむ。

 ちょっと小走りに、あははうふふと彼氏から逃げる女の子風に駆け出してみて、何やってんだろとすぐに自己嫌悪。

「ノエルー、そろそろ戻るよー!」

 と、そこに片付けを始めている朱音さんに呼ばれる。

「はーい!」

 すぐに僕は片付けを始める朱音さんのところに戻った。


 遊び終えた僕らは別荘に戻って、シャワーを浴びてから、一馬さんにアルトの相手をそてもらって、みんなで晩御飯のカレーの準備。

 みんなで材料を切ったり、具材を追加したりします。

「朱音さん玉ねぎこの位でいいですか?」

 飴色になるまで炒めた玉ねぎをはやなさんが朱音さんに見せる。

「うん、こんな感じ」

 朱音さんは一欠片だけ、口に放り込んでぐっと指を立てる。

「朱音さんってここまで玉ねぎに火をいれるんですか」

 肉を手頃な大きさに切って、下味を付けていたかなねえが感心したように鍋を覗き込む。

 そうだよーと答えながら、はやなさんのフライパンをコンロから下げて、底の深い鍋で、かなねえが用意した肉や人参を炒め始める。

 その横で、僕は沸騰するお湯に鰹節を潜らせて出汁を取る。

 いい感じに出汁が取れたら網で鰹節を掬う。この時、鰹節を絞ったりしないように注意。生臭くしなるからね。

「朱音さん出汁入れますねー」

 その出汁をカレーに混ぜる。

「へー、ノエルってカレーに鰹出汁を混ぜるんだ」

 僕が出汁を入れるのにはやなさんが興味深げに覗き込む。

「うん、意外と旨いよ」

 前、マンガに本場では鰹節に似たものを、スパイスとして入れると載ってたから、試してみたんだけど以来気に入った作り方だ。

 和風出汁が入ることでマイルドな感じになるし、具は海鮮風が一番マッチするけど肉とも相性はいい。

「でも、それってカレーうどんに近いよね?」

 ふと、はやなさんが呟く。

 ……言われてみたら、量は違うけど同じことしてるだけだな。

 と、かなねえが複雑そうな顔で僕を見ていた。

「香苗さんどうしたの?」

 声をかけるとかなねえははっとして頭を振る。

「ちょっと昔のこと思い出しちゃった」

 そう言って笑うかなねえ。

 昔……あ゛、そういえば、鰹出汁カレーって、昔かなねえに食べさせたことあった。完全に忘れてた。

 これだけでバレるなんてことはないだろうけど、気をつけないと、な。ちょっと自身を戒めた。


 そして、完成したカレーが白いマットを敷いた食卓を彩る。

 皿に炊いておいたご飯を盛って、その上からルーをかけて並べる。辛いのが苦手なアルトとはやなさんには福神漬けも大盛に。

 うーん、いい香り。各種スパイスの香りがなんとも食欲をそそる。

 待っていた一馬さんを呼んで、全員イスに座って手を合わせる。

「それでは、いただきます」

『いただきます!』

 スプーンを取って早速一口。

 うん、旨い。

 煮崩れした柔らかい人参にジャガイモとたまねぎ、下味として付けた肉から香るスパイス。

 美味しい蜂蜜でふんわり辛さを抑えつつも確かな各種スパイスの香りと唐辛子の辛さ。そして、それらの中で底辺からひょこっと顔を出す鰹出汁の旨味。

 なんとも言えない味わいだ。

「おいし〜!」

 アルトがギュッとスプーンを握りしめてニコニコ笑顔を浮かべながら、美味しそうにカレーを頬張る。

「ほんと、みんなで作ったから特にね」

 はやなさんも嬉しそうにカレーを食べる。

「うまい」

 一馬さんは若干プルプル震えながらカレーを口に運ぶ。そ、そんな震えるほどうまいのか?

 ああ、美味しいなあ。みんなで楽しく食べてるから余計にそう感じるのかも。

 賑やかにみんなで囲う食卓を、僕はカレーと一緒に頬張った。


 ご飯の後はお風呂。男の一馬さんは後になったがいいよと言ってくれたので、遠慮なく風呂場に向かう。

 これだけの別荘だから風呂場もスゴいんだろうな。と期待する。

 だが、僕は一つ忘れていた。同年代の女の子とお風呂に入るのはこれが初めてだということを。


「ノエルのブラかわいいねー」

 脱衣所で服を脱いでいたら、いきなりはやなさんが僕のブラを覗き込んでくる。

「僕ははやなさんの方が、かわいいと思うけど?」

 僕は薄い桜色の装飾のあまりないブラ。対してはやなさんのは水色のフリルをあしらったかわいらしいデザイン。

 僕はそういったほうがかわいいと思うけどなあ。はやなさんがかわいいって言うのも色だからだと思う。

「そうかなー?」

「そうだよ」

 はやなさんが首を傾げる。 それを見るとまだ女の子の感覚が分かってないのかも、と後ろに手を回してホックを外しながら考える。

 でも、少なくともこんなやり取りはできるようになったなあ、と少し感慨深くなる。体育とかで着替えるたびに、恥ずかしくて真っ赤になっていた頃が懐かしい。

 下着も脱いでタオルを取る。さあ、いざお風呂に!

鈴:「どうもー、今回カレーの作り方どうでしょうか?」

刹:「お前の好きなカレーの作り方だな」

鈴:「いいじゃんいいじゃん。うまいんだから」

刹:「まあ、確かにそうだけどさ、人によって好みもあるし」

鈴:「それでは、また次回!!」

刹:「逃げるな!!」


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