第五十四話 夏だ、海だ、水着だ!
「海だ、海だよー!!」
「うみーー!!」
アルトとはやなさんが今にも飛び出さんばかりに窓にへばりつく。
現在、僕らは朱音さんの運転する車で、朱音さんの所有する別荘に向かっている。
メンバーは僕にアルト、朱音さんにかなねえとはやなさん。そして一馬さんの六人で、後部座席は僕ら女の子グループ、助手席に一馬さん。アルトは僕の膝に乗っている。
みんなで旅行、実は楽しみで昨日はよく眠れませんでした。
かなねえは二人の様子を微笑ましそうに、一馬さんも二人ほどじゃないけど嬉しそうに海を見ている。
「もうすぐつくからね」
朱音さんの言葉に僕らはおー! と答えるのでした。
そして、朱音さんの別荘に到着。
うちより小さいが十分な広さを持つ青い屋根に白い綺麗な家だった。すごいなあ、こんな別荘持ってるなんて……本当に何者なんだろう?
「り、立派ですね……」
はやなさんは恐れおののくように感想を零す。
「そう言って貰えると嬉しいよ」
はやなさんの言葉に朱音さんが嬉しそうに笑う。
さて、まずは荷物、一馬さんがトランクを開けて荷物を下ろしてくれる。
「はい、はやな、次、草薙さんで天野さん、テスタロッサさんどうぞ」
自分の荷物を受け取り持ち上げる。
アルトとセットになってるから、バックはそれなりに大きいけど重さはまったく感じない。やっぱりこの体便利だわ。
中に入って荷物を置く。部屋割は車の中と同じ。僕、アルトにはやなさんとかなねえが同じ部屋。
朱音さんと一馬さんはそれぞれ別室。
僕らが荷物を片づけていると、アルトが僕の袖を引っ張る。
「ママ、早く海に行こ!」
痺れを切らしたアルトが少しむくれた顔でお願いしてくる。
今日をずっと、楽しみにしてたからなあ。
「うん、準備ができたらすぐに行こうね」
アルトの頭を撫でながら、僕はこの前みんなで選んだ水着を取り出した。
熱い日差し、ごみの目立たない綺麗な砂浜、そして、押しては返す澄んだ青い海、なんとも美しい光景が広がっている。
「やっほー!」
「わーい!」
海につくと、僕が選んであげたフリル付きのワンピースを着たアルトと、水色のビキニのはやなさんが砂浜を駆け出す。
すぐに水際で水をかけあう二人。こう見ると、似てないけど姉妹かなんかみたいだな。
砂浜を踏みしめる。ビーチサンダルを履いているけど、指をくすぐる砂が心地よい。
「元気だね」
「ですね」
その後に黒を基調にした大人っぽいビキニの朱音さんに、薄紫のワンピースのかなねえが続く。で、僕は二人の後ろをついていく。いや、だって恥ずかしいんだもん。
僕が着るのは白のセパレートタイプの水着。腰に水色のパレオを巻いてるし、そこまで露出してないさと自分に言い聞かせるが、やっぱり恥ずかしい。
家で何度か試着してポーズを決めたりして馴れるよう頑張ったけど、やっぱり中と外じゃ大違いだ。
でも、一度深呼吸し、大丈夫、男なんてパンツ一丁じゃないかと言い聞かせて心を落ち着かせる。なんとか落ち着いて、頭を上げて二人に並ぶ。
一馬さんは先に来て、てきぱきとパラソルやイスを準備してくれている。ありがとうございます。
と、なんか周りから注目されているのに気づいた。ま、まあ自分で言うのもあれだけど、かなりレベルの高い美女、美少女が揃ってるからなあ。
なんか注目されるなんて、こそばゆいというべきか。
ふう、ともう一度息を吸う。焼けた砂の香り、磯の匂いが鼻孔を擽る。さて、遊びましょう!
「ビーチバレー!」
「バレー!」
はやなさんとアルトがボールを掲げる。
二チームに別れてビーチバレーをするのは事前に決めていたことで、チーム分けもすでに済んでいる。
一試合ずつローテーションで交代、一回目はAチーム、はやなさんに一馬さんでBチームは僕と朱音さん。かなねえは審判でアルトは見学。
はやなさんは、なんで慢研にいるのか不思議なくらい運動できるけど、一馬さんはどうだろうか? と、一馬さんを見る。ボクサータイプの海パンを履いた一馬さんの体は筋肉質でがっしりしているし、運動は得意そうだ。
「では、試合開始!」
はやなさんの号令の元、試合が始まった。
試合はどっちかが点を取れば相手も取り返すという様相を見せる。
たぶん身体能力やらなんやらはこっちが上だろうが、二人は息のあった動きを見せる。さすがは兄弟。だが!
「ノエル!」
朱音さんがトスで高くボールを上げる。すぐに僕は飛び上がって背を逸らし、
「一撃入魂!」
弾丸スパイクを撃つ。狙いははやなさん。
この力なら、はやなさんじゃ打ち返せないのは計算済み! 勝った!
でも、二人は僕の予想を裏切った。
僕が撃つ瞬間に、一馬さんは後ろのはやなさんのポジションに、はやなさんはさっきまで一馬さんのポジションに向かう。
なっ!
一馬さんが僕の球を、レシーブではやなさんのところに上げる。そのボールを、飛び上がったはやなさんが、隙だらけになった僕に向かって叩き込んだ!
「ふぎゃ!」
ボールは僕の顔面にめり込み、明後日の方に飛んでいく。どすんと僕は背中から砂浜に倒れた。
何だ? 何だあれは?! 一瞬の交錯の後、お互いの役割に目標をスイッチ。信じられないが、目配せ一つもなくやって見せた。
この二人、とんでもないコンビネーション! さ、さすがは兄弟……、倒れながらも見えた二人のハイタッチする姿はとても様になっていた。
こうして第一回の試合はAチームの勝利で終了した。
ビーチバレーを楽しんだ後、僕はアルトと砂の山を作っていた。いや、山じゃない。先端に向かって正方形が絞られるような四角錘は……
「できたピラミッド!」
「できたー!」
スコップ片手に喜ぶ僕とアルト。だが……
後頭部になにかが直撃して僕は、ピラミッドに顔面を叩きつけてしまった。
「すいません! 大丈夫ですか?」
ずぼっと顔をピラミッドから抜く。顔の砂を払うと、そこにビーチボール。どうやらこれがぶつかったらしい。
「ええ、大丈夫ですよ」
にっこり笑いながらその相手に答える。その人はもう一度すいませんといいながらボールを持って去っていく。
顔の土を拭う。ううう、口の中がジャリジャリして気持ち悪い……
「はい、テスタロッサさん」
そこに一馬さんが声をかけて何かを渡してくれる。これは、ペットボトルか。
すぐに蓋を開けて中の水を顔にかける。顔の砂を落としてから口を濯ぐ。
「災難でしたね」
「ええ、水ありがとうございます」
答えながらピラミッドを見る。綺麗な顔型が出来上がっていた。あーあ、せっかく作ったのに。でも、ちょっと顔型は面白いな。
アルトも悲しそうにピラミッドだったものを見る。僕はアルトの頭を撫でる。
「また作ろっか」
そう言ってあげると、嬉しそうにアルトが顔を上げる。
「うん!」
そして作り直そうとして気づいた。砂浜の一角に人が集まっている。
なんだろう?
「なにかなあ?」
アルトも気になるみたいで、手をつないで一緒にそこに何があるのか見に行く。
人だかりを掻き分けると、そこに、砂の城が建っていた。
「うわあ」
「すごおい……」
人一人分の高さを持つ、西洋風の城。これは一つの芸術だ。
一体誰がと思って、せっせと城を作っている人物を見る。抜群のプロポーションを誇る体に黒い水着を装着した、ピンク色の長い柔らかそうな髪を持った女性、って……
「朱音おねーちゃん」
嬉しそうにアルトが声をかけると朱音さんが振り向くと、にかっといい笑みを浮かべる。
「あ、ノエル、アルトちゃん。ちょっと待ってね。これで仕上げだから」
そう言って朱音さんが白の頂点に旗を刺した。
「かんせーい!」
朱音さんの宣言に、どよめきながら周りから惜しみない賞賛と拍手が送られる。
確かにこれはすごい。朱音さんは満足そうに額の汗を拭って……
ボールが中心の塔に命中した。
崩れた塔が下の建造物を巻き込みながらただの土の塊に変わる。って、このボールは……
「あ、すいませーん。ボールとってくださ……」
その場の人間の非難が籠もった視線に尻すぼみになったのは、予想通り、さっき僕にボールをぶつけた人だった。
朱音さんは黙ってボールを拾って、その人に歩み寄る。
「はい、気をつけてね」
そう言われボールを渡された人は謝りながら去っていった。
僕はじっと朱音さんの背を見ていて、唐突に朱音さんが振り向いた。
「ノエルたちも一緒に作る?」
少し残念そうだけど、いつもの笑顔を僕らに向ける。
力作が壊されたって言うのに……僕は微笑む。
「はい」
「おねーちゃん、アルトもやるー!」
アルトも嬉しそうに手を上げて答える。
僕らが手伝ったせいか、朱音さんだけの時より少しバランスが悪いかもしれないけど、僕らは泥だらけになりながら城を作り直したのでした。
鈴:「久しぶりに投稿しました鈴雪です」
刹:「どうも、刹那です」
鈴:「夏休み旅行編突入です」
刹:「こういうイベントなら後は、夏祭りに肝試し! 稲川〇二のCDで百物語!!」
鈴:「そこまではやらないけど楽しみにしてもらえたら嬉しいです。それでは」
刹:「また」
評価、感想楽しみにしております。