第五十一話 夏休み始まる
僕は今朝の夢について考えていた。
夢じゃないって言われたら信じてしまいそうなほど、あまりに現実感のある夢。
やっぱり僕は先代の記憶を夢として見てるのだろうか?
だとしたら、何というか申し訳ないと言うべきか、自分からじゃないけど勝手に見てごめんなさい。
でも、考える。夢を見た直後『母さんごめんね』と確かに僕はそう言った。
ごめんねと謝った。そして、夢の内容から約束を破った。つまり彼女は妹を守りきれなかったのだろうか?
他人が人の過去を覗き見するのはいいことじゃないと思うけど、なにがあったのか知りたいし見てみたいと思ってしまう。
「ねえ、ノエル。難しい顔してどうしたの?」
はやなさんに声をかけられた。
「あ、ごめん。ちょっと今朝変な夢見ちゃってね」
誤魔化すように笑う。はやなさんはふーんと頷く。
前から思うことだけどこの考え込む癖もなんとかしないと。
「でも明日からが楽しみだね」
「うん」
はやなさんの言葉に頷く。だって明日から。
「夏休みですが、みんなあまり羽を伸ばさず節度を持って生活してください」
そう、夏休み! うーん、楽しみ。予定でははやなさんたちと旅行に行ったりするしね。
「海に行くの楽しみだね〜」
「ですね。思いっきり泳ぎますよ」
現在、部室で僕、はやなさん、かなねえが集まって夏休みの話をしている。
そういえばこの体泳げるのかな? 体重は変わらないけど確か骨格とか金属製だったはずだし……
「えっと、海に行くのはあたしにお兄ちゃんにノエルと香苗さん、朱音さんとアルトちゃんの六人。部屋取れるかな?」
うーんとはやなさんが考え込む。
「あ、朱音さんが言ってたけど別荘あるから宿の心配いらないって」
『あるんだ別荘!?』
二人が目を見開いて驚く。まあ、普通そうだよなあ。僕も始め聞いたとき驚いたし。
でも朱音さんだしね。
それからそのうち集まる約束をしてから家に帰宅。
「ママおかえりー」
「ただいまアルト」
家に帰るとアルトが迎えてくれる。はあ、アルトはやっぱりいい子だよ。
その頭を撫でながら家に上がる。
「朱音さんは?」
「お部屋でお仕事してるよ」
締め切り近いらしいからなあ。かわりに晩御飯作るか。
なにがいいかな? 朱音さん、徹夜らしいから体力付くものを……冷蔵庫になにかないかな? なければ買い物に行って、あ、そうだ。
「アルト、明日お買い物行こっか?」
「お買い物?」
アルトが首を捻る。
先日、朱音さんから受け取った通帳には僕が今まで見たことのない金額が載っていた。ふっ、最初はゼロの数を間違えたかと思ったよ。
まあ、そういうわけで今は手元にお金があるし、アルトになにか買ってあげるのもいいよな。
「服とか色々買おうと思うんだけど」
アルトがぱあっと表情を明るくする。
「うんいく!」
よし、明日はたくさん買ってあげよう。
それから、アルトと一緒に遊んでから疲れて寝てしまったアルトを寝かしつける。
で、そうしてから僕は電話の前に立っている。
はあっと息を吐いてから受話器を取る。確か非番な筈だから……教えられた番号をプッシュする。少し待つとがちゃっと音がして、
『はい、立花です』
知らない女の人の声が出た。ああでも、奥さんいるっていってたしな。
「テスタロッサと言います。あの、アグニ先生はご在宅でしょうか?」
『あ、主人にですか? 少々お待ちください』
電話越しにアグニを呼ぶ声が聞こえた。それから少しして、
『ああ、ノエルか。どうしたのだい?』
アグニが出たものの少し僕は黙っていた。
『どうしたんだい?』
アグニが問いかけてくる。うん、そのために電話したんだ。黙ってちゃだめだ。
「ちょっと相談あるんだ。今朝、僕夢じゃない夢を見たんだ」
『? 言っている意味がわからないのだが』
だよね。僕も言っていることがわからないし。
「僕が他の機会天使と一緒にヴェノムと戦ってた」
『……それで?』
アグニが続きを促す。僕は夢の内容を話すか考えたがそれはいいだろうと決めた。アグニは精神科医ってわけじゃないし。
「うん、よくわからないけど、目を覚ましたら僕は泣いてて、ごめんって謝ってた」
向こうも黙る。やっぱりわからないかな。
だけど、少ししてからアグニから返事が返ってくる。
『……おそらくそれはコアのメモリー内に残った先代の記憶の残滓を夢として見たのだろうな。謝ったのもその影響かもしれない』
「そうなのかな」
『あくまで多分だ。確証はない』
アグニの返答に小さく笑う。まあ、そうだよな。
「そっか、ありがとう。ごめんねいきなり電話して」
『かまわないさ、ではまた』
「うん、また」
僕は電話を切った。少しの間それでじっとしてからふうっと息をついて思考を切り替える。
さてと、ご飯を作るかな?
鈴:「夏休み~」
刹:「どうでもいいが、夢の話について考えるのと一緒にするものか?」
鈴:「やあ、ちょっと必要な理由もあるのだよ」
刹:「ああ、そう。まあいいや」
鈴:「それでは、また次回!」