第三話 僕の葬式……
僕は朱音さんが運んできた車椅子に乗って、押されながら外に出た。
アグニは興味がないと、家に残ることに。
周りに民家は見当たらず、少し小高い場所にこの家は存在した。アグニの研究所は外から見ると普通の家に見え、どうやら僕のいた部屋のあそこだけが病院みたいになってたようだ。
朱音さんは車庫から車を出してから、僕を助手席に座らせる。
それから、朱音さんはシートベルトを確認したり、ガソリンのメーターをチェックしたりしてからハンドルを握る。
「じゃあ、いくよ」
朱音さんがそう言うのと共に、車は走り出した。
葬儀の場所は、車に揺られて一時間ほど。うちの近所にあった少しだけ新しそうなお寺でだ。朱音さんはその近くの有料の駐車場に車を置くと、僕を車椅子で押して葬儀場まで移動する。
着く前に確認したけど、耳の方はなんらかの処置がされたのか普通の耳のなっている。
意外と人が来ている。その半分はうちの学校のクラスメートだ。大人は少ない。
まあ、親は僕が中学生の頃に他界して、親戚も叔父夫婦ぐらいしかいなかったから当然か。
クラスメートのみんなは、戸惑った感じだが泣いてる人はいない。高校に入ってから知り合って一カ月の相手がほとんどだしな……中学の連中もいるけど、そいつらも困惑といった感じだ。
そして、僕の死よりも、むしろ、朱音さんという超絶美女が訪れたことに面食らっているっぽい。
僕らが進むと次々とクラスメイトたちは道を開けた。まるでモーゼにでもなった気分だった。
そして僕らは式場に入って、すごく泣いてる人を見てしまった。
「けーちゃんが何で……何で」
かなねえ……
泣いていたのは僕の従姉弟の香苗姉さんだった。
僕は昔から彼女に世話になりっぱなしで、僕の両親がいなくなってからは、ちょくちょくうちに遊びに来ては、ご飯を作ってくれたりしてくれてもいた。
僕のために泣いてくれてる人がいるのは少し嬉しくて、だけど悲しい。
ぶるぶると首を振る。今は余計なことを考えたくない。
それから朱音さんと敷居を跨ぐ。朱音さんは叔父さんたちに頭を下げると、ご霊前に線香をあげる。それから朱音さんに促されて、僕も僕に線香をあげる。
自分に自分で線香をあげるという状況はなんとも不思議な気分だ。
僕はここにいる。だけど、目の前の棺桶の中身も自分で、僕はここで僕自身に線香を……あげている。なんだろこの矛盾は?
ああ、だめだ。頭がごちゃごちゃになってきた……思わず頭を押さえる。線香をあげただけだけど、ここにいたらどうにかなってしまいそうだ。早くここから出たい。
顔をあげる。朱音さんにもういいですと眼で言って立つけど、バランスを崩して朱音さんに支えられる。
「それでは」
そう言って僕らは式場から去っていった。
帰り道、朱音さんが運転する車の中。
「なんか……」
助手席に座っていた僕はぽつりと呟く。
「自分の葬式を見るって、複雑ですね」
朱音さんは答えない。黙って運転している。
だって、と僕は続ける。
「自分のことなのにひどく他人事にしか感じないんです」
朱音さんは答えない。カーブを曲がる。
だけど、と僕は続ける。
「自分が死んで人が泣いてたのは、なんかすごく……嬉しいけど、悲しいです」
膝の上の手をぎゅっと握る。視界が霞み、ポタポタと膝に涙が落ちる。
朱音さんは……
「この車には私しかいないし、マジックミラーだから外からも中は見えずらい」
答えてくれた。
「だから、好きなだけ泣いていいよ」
朱音さんの声は、ひどく優しかった。
そして、僕は朱音さんの言葉に甘えて、少しだけ泣いた。
どうもー、エンジェルダスト更新です。
ちょっとしんみりした話になってしまいましたね。
僕は本当の葬式に行った事ないんで、イメージしかありませんし、描写もあまり出来てませんのでしたので、よければ誰かご指摘していただけたら嬉しいです。
それでは。