第四十六話 旧友との再会
目の前にいるのはよく知る友人。久しぶりにあった彼は全然変わらない。
「前田くん?」
かなねえが問いかける。と、前田くんが笑う。
「お久しぶりです香苗さん。元気でしたか?」
前田くんの言葉にかなねえが頷く。
「まあ、ゆっくり話すのは後にしましょう。まずは」
そう言って、男たちの方を向く。
「なんだお前?」
男の一人が前田くんに問いかける。
「ただのお節介かな?」
それに前田くんがそう答える。
その言葉に男が動く。
「なら引っ込んでろ!」
拳を振り上げて殴りかかる。フォームもなにもなっちゃいない動きだ。そして、男がパンッと前田くんの後ろのアスファルトに倒れた。
僕以外なにが起きたか理解できず唖然としている。前田君がしたことは何てことはない。相手の殴りかかってきた腕をとり、投げたのだけだ。
前田くんは実家が柔道場で本人もかなりの腕だ。そこいらのチンピラではかなわないだろう。実際、以前にお節介で絡まれていた女の子助けるの見たことあるし。
「な、なにしやがった、てめえ!」
そういってもう一人が飛び掛るものの、またあっさり投げられてしまう。こいつら弱いな……
そしたら、一人が懐からナイフを! って、おい!
「危ないだろ!」
僕はその手に蹴りを入れてナイフを弾き、足を振りぬいた勢いで左の後ろ回し蹴り。
男はあっさり気絶した。ふう、これで一安心。そこでとんとんと肩をたたかれる。はやなさんだ。
「終わったみたいだけど、早く逃げよ?」
そういわれて周りを見ると野次馬がたくさん。あまり注目されたくないし、もしかしたら他にも仲間がいるかもしれないから、はやなさんの言うとおり逃げますか。
というわけで、僕たちは急いでその場を離れてとある公園まで逃げました。 前田君も一緒だ。
「ここまで来れば大丈夫ね」
思わず悪役の言うようなセリフを言ってしまう。と、それから僕は前田君に向き直る。
「わざわざ助けてくれてありがとうございます」
僕は『ノエル・テスタロッサ』という女の子として軽く頭を下げる。かなねえの経験もあるし、知り合いを偽ることには慣れてしまった。……本当は慣れたくなかったよこんちくしょう。
「いえ、俺も知り合いがいたから割って入っただけだから」
そうなんでもない風にいってくれる。ふう、やっぱりいい人だよ前田君。
「ところで、君って……」
「あ、申し送れました。私、草薙香苗さんの友人のノエル・テスタロッサといいます」
以後お見知りおきをと、僕は手を差し出す。嘘をつかないとならないから、僕はちょっと心が痛かった。
前田君はどうも、と言って僕の手を握る。それから手を離すと不思議そうに首を傾げた。
「そういえば、どこかで前に会ったことないかな?」
一瞬ドキッとしてしまう。もしかしたら、僕が元・草薙圭一ということに気づかれたのかと思ったけど、そんなことないだろうから葬儀のことかな?
「たぶん、けーちゃんの葬儀の時じゃないの? ノエルちゃんも来てくれてたし」
と、かなねえが助け舟を出してくれる。
「ああ、そういえばいたね。車椅子に乗ってたっけ」
そう前田君は頷く。もしかして、こういう時のために朱音さんは僕を葬儀に連れて行ったのかな?
と、考えてから前田君がちょっとさびしげな微笑を浮かべる。
「草薙に外国人の友達がいたなんて知らなかったよ」
僕も知らないなあ。僕に外国人の友達がいたなんてのは。
「いい奴だったのになあ」
と、寂しそうにつぶやくのが、僕のことをそういってくれる人がいて、不謹慎だけど少しうれしかった。
その後、少し話してから僕らは分かれることとなった。
「じゃあ、またね」
「また」
そう言って分かれるとき、かなねえの時も感じた寂しいような悲しい気持ちが占めていた。
なぜなら、またあった知り合いは僕が草薙圭一とは認識できないから、僕は僕で『ノエル・テスタロッサ』の仮面を被って嘘をつくしかないから。
そして、それはより自分が『草薙圭一』ではなくなったことを意識させるから。
「どうしたの? ノエル?」
はやなさんが不思議そうに僕の顔を覗き込む。
なんでもないよと僕は首を振った。
ちょっと更新遅くなりました。
ふう、少し、ノエルが旧友の反応に悩む姿を描けたかな?
それでは、また次回でお会いしましょう!
あと、よいお年を。