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エンジェルダスト  作者: 鈴雪
第六章 ヴェノム
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第四十話 目覚め

 穴の周りから地面が崩れ始める。

 慌てて僕はアルトを抱えて崩壊する地面から離れる。朱音さんも大きく後ろに跳ぶ。崩れる地面に引っ張られていくつかの機材が倒れた。

 アグニや柏木先生がいる場所まで崩壊は伸びなかったが、二人とも装備を棄ててすぐに撤収する用意を始めている。

 僕と朱音さんはそれぞれ武器を装備を出す。僕は蒼穹を転送して戦闘服を展開、朱音さんも鎌を取り出す。

 そして、それが穴から這い出してきた。


 最初に見えたのは長い角。それから全体が出てくる。

 言ってみればその姿は甲殻を持つ昆虫にそっくり。だが、サイズが全然違う。昆虫は十メートルもないし、借りにそんなサイズに膨れ上がっても自重を支えきれずに死んでしまう。

 頭は一回り小さく、長い角と小さな角が一本ずつ。目らしきものは見当たらず、その甲殻は棘々しく、毒々しい。

 生理的な嫌悪感を抱かせる色だ。なるほど、ヴェノムと言う名前も納得できる。

 僕はアルトを庇うように前に出る。

 と、自動的にヴェノムの情報が呼び出される。目の前のヴェノムは中型サイズだということと、いくつかの攻撃手段。これで中型……

 少しの間、ヴェノムは周りを見るように首を巡らせる。そして、僕の方を見た瞬間、がぱっという擬音が似合いそうな音を立てて頭の一部が開く。そこには目の様なものが……その眼が光った瞬間勝手に左腕が動く!

 手甲の一部が展開、力場誘導端子によって前面に防御フィールドが展開される。これが左腕に装備された防御システム、『イージス』

 防御力は高く、前面だけではあるが、かなり堅いフィールドが展開される。まあ、それでもこれはデッドコピーであり、オリジナルには劣るらしい。

 ヴェノムは目のような器官から光線を放つ。僕はイージスによってヴェノムの光線を防ぐ。くっ、強い! 弾かれそうになる左手を右手で抑える。後ろでは怯えたアルトがぎゅっと僕にしがみつく。大丈夫。大丈夫だから。

 弾かれたレーザーが機材やテントを破壊する。一瞬でテントが燃え上がる。

 十秒間の照射をなんとか防ぎきるけど、くそ……左手の回路の一部やられた。腕は動かせるけど、イージスの出力が五十パーセントに低下。もう一度防げって言われても無理だなたぶん。試す気にもならない。

 ヴェノムが動く。だけど、足が竦む。

 怖い。怖い。怖い。自然と息が荒くなる。目の前でヴェノムが動くけど僕は動けない。そしたら、

「ノエル!」

 肩をとんっと朱音さんに叩かれた。

「しっかりしなさい」

 不思議だった。その一言ですうっと僕の肩にあった重しがなくなった気がした。

 やるしか、ないんだな……僕は目の前の敵を睨む。

 左手に武器を転送する。機械天使用の装備は一つだけできたってアグニが言ってたはず……

 転送したのは二連装のガトリング砲。正直、あんなのと蒼穹で斬りあう気にはなれない。

「アグニ! アルトを連れて早く逃げて!」

 僕はヴェノムの気をこちらに逸らすためにガトリングを撃ちつつ三人から離れる。朱音さんも雷の弾を生成して僕の反対側に回り込みながら撃ちこむ。とりあえず、アルトたちが逃げたら僕も逃げるぞ!

 ヴェノムが煩わしそうに僕の方を向く。う、こっちむくなよ! あ、だからと言ってアルトや朱音さんの方に向けってことじゃないからね! 弾が当たって甲殻にダメージはあるみたいだけど、砕けない!

 対してヴェノムがその鋭い前足を振るう!

「うわ!」

 身体を投げ出すように避ける。危な!

 転がりながら態勢を立て直し、銃口を向ける。が、再び翻った前足に弾かれる。

「しまった!」

 銃身が歪んでこれ以上撃てそうにない。くそ!

 ガトリングを棄てる。

 僕はライフルモードにした蒼穹を構える。まだ僕の能力の熟練度では朱音さんのように攻撃には使えないとのことだ。

 だけど、その時に上から足が迫る! 鈍重そうな外見のくせに素早いな! 横っ跳びで避け……

「そっちはダメ、ノエル!」

 え? 朱音さんの声で気づいた時には、遅かった。もう一つの足が真横から迫ってる。

 天使の羽……ダメだ間にあわない! 蒼穹を盾にしてガード。だけど、重い。弾き飛ばされ、地面に強く叩きつけられる。さっき穴に落ちた以上の衝撃。肺から空気が絞り出される。苦しくはないけど、ぶつけた背中がかなり痛い。でも、まだなんとか大丈夫。

 僕は起き上がろうとして、


 ヴェノムがアルトたちの方を向く。おい、ちょっと待って。狙ってるのはアルト? なんで?

 篠原隊長たちが援護してるがそっちには向かない。やっぱりアルトの方へ向いたままだ。だから待てって、なんでアルトなのさ。

 アルトはアグニに庇われるように逃げてるけど、とてもじゃないけど、逃げ切れるとは思えない。その顔は不安そうに僕の方を見ている。

 なんでその子を狙うの?

「うっ!」

 頭が痛くなる。でも、すぐ気にならなくなる。

 その子じゃなくこっちに来てよ。ほら、私の方に……さっきまで僕が相手だったでしょ?

 おかしな感覚。僕なのに僕じゃない。他の誰かが一緒になにかを考えてるような感覚。ただ……今はあまり気にならない。私がなんなのかよくわからない。

 またあいつの目が開く。だめだ。だめだよ。その子を攻撃するな。

 だからダメ。その子は、僕の、私の、大切なものなんだから!

「あ、あああああ!!」

 飛び出す。翼を振ってその反動で加速。と、同時にその横っ面を蒼穹で叩く。顔の向きが逸れ、上空に光線が飛ぶ。

 その隙は逃さない。蒼穹を腰のアタッチメントにセット。空いた両手に短刀を転送。無骨な柄だけのものだけど、出力することで、プラズマで出来た十センチほどの刀身が展開される。

 投擲、目に突き刺す。苦しそうにのたうつ『蟲』

 さらに僕は飛び出すと同時に武装を転送。私が好んで使っていた装備、『月輪』を両手に執る。月輪は六十センチほどの長さの薄い刃を数枚重ねてある武器で、小型な分、蒼穹よりも振りやすい。

 右の一刀目で首の隙間に刃を潜らせて切る。噴き出す紫色の体液。苦しげに振りまわされた前足を左手の刃で受け流し、返す刃で切断。

 さらに月輪を展開。刃を一回転させる頃には刃で出来た華が咲く。私はそれを回転させながら『蟲』に向かって投げる。

 本来はこれはこうして投擲武器として使うのが正しい。だけど私はこれを好んで剣のように使っている。

 そして、二つの月輪が『蟲』の甲殻を抉る。苦しむ『蟲』

 その隙に僕は蒼穹を執って飛ぶ。高く、でも隙を逃さない程度に。そこでくるっと、頭を下に足を上に入れ替え、蒼穹を構える。

『蒼穹、第三、第四機構解放』

『イエス・マスター』

 私の指示に蒼穹が答え、ブースターがせり出し、同時に各部が展開する。そして、『天使の羽』とブースターで地上に向かって一気に加速。と、同時に蒼穹の展開した部分から蓄えといたエネルギーを放出。全体をコーティングする。

 出力は五十パーセントだけど十分!

 地上の『蟲』に高速で接近。これでおしまい!

『空断・煌き』

 その脳天に私という彗星が突き立てられた。その頑丈な甲殻に覆われた頭が砕かれ、縦に断たれる。これなら、もう動かない。

 緑色の体液の汚された地面に降り立つと、みんな驚きの顔で僕を見ている。そういえば、途中から援護がなかったな。

 その中で朱音さんだけが僕に近づいてきた。

「大丈夫?」

『大丈夫です』

 私はそう返したけど、彼女は首を捻った。ああ、そうか私の言葉は彼女に通じないんだ。

「大丈夫です」

 改めてそういう僕に朱音さんはなにか言ってるけど……

 あれ? 朱音さんなんて言ってるの? うう、なんか眠い。どうして? ああ、もう時間切れみたい。

 これ以上は僕の人格を圧迫してしまう。もう戻らないと……

 そして、私は再び眠りにつく。と、同時に僕も意識を失った。

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