第三十九話 発掘
現在、僕は朱音さんの車に乗って郊外に来ています。周りにはあまり民家がなく雑木林ばかり。
理由はそこでヴェノムの死骸が発見されたらしく、僕もその発掘を見学することになったからです。
そして、少し緊張する僕に対してアルトは楽しそうに外の景色を眺めている。その余裕がちょっと羨ましい。
「ん〜、そろそろかなあ?」
朱音さんが呟くと、でかいテントが見えた。
「ああ、あれあれ」
そう言って朱音さんは車の速度を上げると開けた場所に出る。そこは、山のふもとで、ちょうど開けた場所だった。
立て看板に『がけ崩れ注意!』とかかれ柵が張り巡らされている。朱音さんは作業車搬入口を通って中に入る。
そして、テントに付くとその傍に車を止めた。僕らが降りると、すぐに篠原隊長が駆けつけてきた。
「朱音さん、お疲れ様です!」
「お疲れ様篠原君。状況は?」
そして、二人がいくつかやり取りをしてるのを僕は見る。
なんていうか、こういうところを見ると普段は気のいい人たちだけど二人がその道の人なんだと納得できた。
「それではこちらに」
そうして案内されるのはテントの中だった。
ごくりと息を呑む。緊張するのは、そこにいる人類を衰退させた敵への恐怖からか、それともかつての敵がいるのに気づいたこの身体のせいなのかわからない。
とりあえず頭をぶんぶん振ってその考えを払う。
入ってみると、テントの中は照明とかのおかげでだいぶ明るい。そして、中心には巨大な穴。おそらくあの下にヴェノムがいるのだろう。
そして、穴から延びたケーブルの先にNBC防護服に身を包んだアグニと柏木先生がいた。
そこにはたくさんの機材があり、たぶんそこでヴェノムの状態やらなんやらを見てるのだろう。
「どう? 今回のヴェノムは?」
「まあ、『死んで』いるな。内部からエネルギー反応は完全にゼロ。いつもと同じだね」
と、アグニが言う。
「まあ、死んでるにこしたことはないよ。生きていたら厄介だからねえ」
柏木先生がぽりぽり頬をかきながらそんなことを言ったけど、
「こちらとしては生きてるサンプルも欲しいところだがね」
こらこらアグニ。危ないこと言うな。
にしてもヴェノムかあ……あれ? そういえば、
「なんでヴェノムって名前なの?」
ヴェノム、その意味は毒であるが、なんで毒なんて名前を?
星の命を糧にする。そこから毒ってことなのか? とか、いろいろ考えていたら、
「それは、連中の体液が猛毒だからだよ」
あー、猛毒かあ。だから二人ともそんな仰々しい格好を……え? 体液が猛毒?
って、ことは……
「は、は、早くここから出ないと〜!!」
僕はアルトを抱きあげ、大慌てで走り出す。このままじゃアルトが、アルトがあああ!!
「落ち着きなさーい!!」
だけど、朱音さんに一括されて僕は動きを止める。
うう、確かに。落ち着いて、落ち着いて防護服を着ないと……
「そもそも君らにはヴェノムの毒は効かないから。仮にも決戦兵器として作られたものがそんなのでやられたら洒落にならないでしょ?」
……言われてみれば。
僕は安心してアルトを下ろす。あれ? でも……
「隊長も朱音さんも防護服着てないですね?」
僕とアルトが着なくていい理由は分かったけど、なんで二人はアグニや柏木先生と違って防護服着てないんだろう?
すると、朱音さんは腕を上げる。
「私は免疫があるの。それに現代人は多かれ少なかれ持ってるから。篠原君や、隊員のみんなも事前調査で平気な人だけを集めてあるしね」
あー、なるほど。そうだよね。それくらいするよね。僕は胸を撫で下ろす。
それから改めてアグニたちの作業を見学するが……専門用語ばかりでさっぱりわからなかった。
理解は早々に諦めアルトの相手をしようと思ったら、いつの間にか穴の縁から下を覗き込んでいた。危ないなあもう。
僕は慌ててアルトのそばに行く。
「アールト、ここは危ないよ?」
僕がアルトに声をかけると、アルトが振り向く。
で、楽しそうに下を差す。
「ねね、ママ。あれきれいだよ」
なんのことだろう? 僕も身を乗り出してアルトが示すものを見る。
底に、何か硬質ななにか、おそらくヴェノムがあって、その周りの土が光を反射してきらきら光っていた。なにか土に混じっているのか?
なるほど、アルトの言う通り綺麗だった。でも、ヴェノムがなあ……見ててなんか怖いし、
「アルトあっちに戻っておやつ食べようか」
そう誤魔化すと、アルトはぱっと朱音さんたちの方に向かって駆け出した。は、早いな。
「ママー、早くー!」
「あ、うん。ちょっと待って……」
手を振るアルトに答えて、
足元が崩れた。
重力の法則に従って僕は穴の中に落ちていく!
「んな!!」
いきなりの事態に僕は反応できず……底に叩きつけられた。
い、いたひ……僕は痛む背中を押さえる。ビル三階分の高さを落ちたと思うけど、特に大きな怪我はない。
さすがは機械天使ってこと? 痛いけど……
僕が起き上がると上から声がする。
「ノエルー、だいじょーぶー?」
「ママー、だいじょーぶ?」
朱音さんとアルトの声だ。二人とも心配そう。
「うん、大丈夫。すぐ上がるから!」
僕はそう答えて、ごつごつしたものを支えに立ち上がる。足はふらついてないし大丈夫。
すぐに『天使の羽』を展開。飛び上がって、穴の外に出る。
「ただいま」
「ママー!」
アルトが抱きついてきた。
「だいじょうぶ? けがないよね?」
「ははは、大丈夫だよアルト」
まあ、普通の人なら大けがだろうなあと僕は人ごとのように思う。
僕はアルトと朱音さんとアグニたちのところに戻ろうとして、二人が慌てているのに気づいた。
「エネルギー反応増大! な、なぜ!?」
「ふむ、なぜだろうな。死骸と思っていたのだが……」
え? それって、まさか……
「全員退避! ヴェノムが目覚める!」
その言葉と同時に、後ろで、何かが動く音がした。
鈴:「ついにヴェノムと出あうことになる圭一」
刹:「さて、彼の運命は?」
鈴:「あと、ここで謝罪です。昨日投稿したものはもうちょっと後で出すつもりのものだったものだったので削除しました」
刹:「もう少ししたら改めて投稿します。それでは!」
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