第三十八話 お届けしましょう!
さて、皆さん僕は重大な危機に直面しています。なぜならば……
「ママ〜」
教室の入り口で手を振るアルト。その横にはかなねえ。
なんだこの状況?
それは些細なミスだった。
「あれれ?」
アルトはテーブルの上においてあるものを見つけました。
ママががっこーにもっていくおべんとうです。
わすれてっちゃったみたいです。
あかねおねーちゃんに言おうと思いましたが、今はとてもいそがしそうです。ママもじゃましちゃダメって言ってました。
うん。だからアルトがとどけてあげよっと!
お昼になりました。さっそくお弁当です。
「ノエル、ご飯食べよ」
「うん」
僕ははやなさんと机をくっつける。
さらに数人の人と机をくっつけてお昼タイム……あれ?
僕はカバンの中を開けたんだけど、弁当箱がなかった。
「あー、弁当忘れた」
僕はぺしっと額を叩く。どうしよう? 家に連絡して……ダメだ。朱音さん少し前から締め切りが近いって焦ってたっけ。
実は朱音さんは漫画家でもあったのだ。しかも現在超売れっ子の『黒瀬トワ』の正体で、僕はかなり驚いたものだ。どうりで漫画買ったとき嬉しそうだったのね。
「あちゃー、ならああたしの分わけよっか?」
「んー、いいよ。混んでるかも知れないけどちょっと購買まで行ってきて」
僕が席を立とうとして、
『マスター、マズい反応です』
いきなり首にかけた待機状態の蒼窮が報告してきた。
マズい反応? 僕は問い返そうとして、
「ママー!」
そこで聞き慣れた声。もしや……
僕とはやなさんが振り向くとかなねえに連れられたアルトがそこにいた。
『遅かったですか……』
私が授業を終えて教室に戻る途中になんとなく校庭を見た時だった。
「えっ?」
私はピタッと止まって正門の方を凝視する。そこに五歳くらいの金髪の女の子がいたから。
えっと……
「あれ? 草薙さんどうしたの? あれ? 誰だろ?」
それを聞いた瞬間、私は駆け出した。
「ごめんなさい! 急いでますので!」
私は階段でぶつかりかけた相手に謝りながら駆け降りる。
そして、げた箱を出ると、そこにアルトちゃんがいた。
「あ、アルトちゃん!」
「あ、かなえおねえちゃん」
「それで、連れてきてくれたんですか……」
「う、うん」
僕はアルトを見る。
「ママ、はい、おべんとー!」
わざわざ届けに……少しどころかかなり感動。だけど、ちゃんと母親としてしなければ、
「ありがとうねアルト。でも……」
僕はアルトの頬をひっぱる。
「一人は危ないから、家を出るときは誰かと一緒じゃないとダメって言ったよね〜?」
「ひたい! ひたい!」
僕はういんういん頬をひっぱる。ああ、柔らかくて気持ちいい。
しばらく堪能してからぱちんと放すとアルトは涙目で頬を押さえた。
「いいアルト? ママのためにしてくれたけど、こういうことしたらママ心配するからもうしちゃダメだよ?」
「うん……ごめんなさい」
しゅんとうなだれるアルト。僕はその頭を撫でてあげる。
「と、ここまでは建前で、ありがとうねアルト。すごくうれしかったよ」
すると、さっきまでうなだれていたアルトはきょとんとしてから嬉しそうに頷いた。
「うん!」
一方後ろでは……
「どういうことなのかな?」
「ママってことはあの子、テスタロッサさんの子?」
「はー、だから……」
まずい。このままじゃ妙な噂が立ってしまう。
「みんなーちゅーもーく!」
と、突然はやなさんが壇上に立つ。
はやなさん! やっぱり持つべきは友だね!
だが、
「ノエルはね、昔ロリコン親父に」
「はやなーー!!」
僕は大声で怒鳴る!
「アルトは姉さんの子! 単に姉さんが義兄さんと旅行中事故で亡くなっちゃったから僕が引き取ったの!」
はあはあと僕は息を荒く吐き出す。
「あ、そうなんだ」
「そりゃそうだよね」
「だね〜」
あははとみんなが笑うとみんなが肩を順番に叩き、「がんばって」「負けないでね」「応援するよ」と労ってくれた。
それから、突然頭の中に、
『ノエル大変! アルトが書き置き置いていなくなった!!』
大音量のテレパシーが届いた。余りに大きな音に思わず顔をしかめてしまう。
かなねえが「どうしたの?」と聞いてくれたけど何でもないと返す。
『大丈夫です。ここにいます』
『本当に? よかったあ。すぐに迎えに行くから』
プツッとテレパシーが切れる。
それから十分後……
車のエンジンの音が聞こえてきた。中庭を見ると紅いスポーツカーが急停車していた。朱音さんの車だ。
僕はアルトと一緒に中庭に出る。
「ごめんねノエル! 私が目を離した隙に!」
「いえ、大丈夫です」
朱音さんは目元にクマができ、若干やつれていた。大変な時に少し申し訳ないなあ。
そして、アルトは朱音さんに僕と同じように叱られてから、朱音さんと帰って行った。
「がんばってねママ〜!」
と元気に手を振るアルト。僕は手を振り返した。
まあ、その一件で僕に告白してくる男子は少なくなった。
うん、それはいいけど……
「なんでこうなるのよ……」
僕は頭を抱えた。ぽんっとはやなさんが肩を叩いてくれる。
現在、学校中で僕に子供がいることが噂になっていた。しかも、一部に根も葉もないものまで……泣きたくなる。
「私、そのうち引きこもっちゃうよ?」
「まあ、そのうち沈静するよ。うん」
はやなさんがそう言ってくれたが、全校集会で改めて説明するまで僕の苦行の日々は続いたのであった。
刹:「圭一あはれ……」
鈴:「まあ、話がこじれるよりはいいんじゃね?」
刹:「そうだけどさ……」
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