第三十七話 はやなさんの家
今日、学校の休みの日に僕ははやなさんの家に遊びに行くことになりました。理由としては朱音さんが「家に遊びに行くのは大切だよ!」と言ったため。まあ、僕もそうした方がいいよなと思ってたし、ちょうどよかったかも。
「いらっしゃいノエル。ここがあたしの家だよ」
というわけで、彼女の家に到着。まあ、よくありそうな二階建ての家だ。
「おじゃましまーす」
家に上がると居間に案内される。何の音もしないけど、確か前に聞いたけどはやなさんの家はお父さんとお兄さんの三人家族らしいが、今日はいないのかな?
家に入るとちょうど誰かが階段を下りてくる。
「おかえりはやな」
そう言ったのは大体大学生当たりの男、中肉中背という言葉が似合いそうな背格好。その顔ははやなさんに少し似ていて髪は短めだった。
「ただいまお兄ちゃん。ノエル紹介するね。あたしの兄の柏木一馬」
「はじめまして。はやなさんにはお世話になっています」
ぺこっとお辞儀するが、返事がない。あれ?
顔を上げるとすでに目前まで迫っていた。
「うお!」
驚いて身を引いてると、彼はいきなり僕の手を掴んできた。
「付き合ってください」
「お断りします」
きっぱりはっきりお断りさせていただいた。何度も言うが男と付き合う気はまったくない。友達ならいいけどね。
がくっと一馬さんの肩が落ちるが気にしない。
「もう、お兄ちゃん。バカなこと言わないでよ」
それから少しもじもじして、
「そ、それによかったらあ、あたしが付き合っても……」
……はい?
妙な発言が聞こえたような気がしないでもないが、うん。気にするな僕。
「にしても、はやなの友達が女子大生とは思わなかったよ」
あう……
「僕、ぴちぴちの高校生なんですが……」
え? っと一馬さんが固まる。
そう僕は割と歳を間違えられる。まあ、この身体が女性にしては背が高く、プロポーションもいいせいでもあるんだけどね。
「あー、その……ごめん」
「いいんです。慣れてますから」
ひらひら手を振って否定する。
「じゃあ、あたしの部屋はこっちだから」
一馬さんに礼をしてから階段を上るはやなさんに着いていく。二階にはドアが三つ。そして、右手側の奥がはやなさんの部屋だった。
「ここがあたしの部屋だよ」
実を言うとはやなさんの部屋に入る時、割とわくわくしていた。
女の子の部屋と言えば、(僕の理想だが)優しい色合いの壁紙か何かでふかふかの絨毯が敷いてあって、ベッドの上には人形が飾られていて本棚には女の子らしい恋愛小説があるんだろうなと想像していた。
……うん。絨毯はあったね。ベッドにかわいい人形も置いてあった。さすがに壁紙を換えてはいなかったけどこれも想定内。だけど……
壁に男の子に人気のロボットもののアーケードゲーム『ウォーズリンク』のポスターが貼ってあり、視線を向けた本棚に男の子が好みそうな漫画。
「僕の理想半分返せ―!!」
「い、いきなりどうしたの?」
少しはやなさんに引かれる。
「いや、理想の『女の子の部屋』が五十パーセントしか存在しなかったから」
「……まるで初めて女友達の家に遊びに来た男の子のような心境だね」
的確に僕の心境を言い当ててくれるはやなさん。
「なんていうか、君本当に女の子なの? たまにお兄ちゃんみたいな男の人相手にしてる気がするんだけど」
ドキッと心に言葉が突き刺さる。
「いや……その僕、両親に男の子として育てられてたんだ」
「そうなの?」
「そうそう、本当は男の子が欲しかったらしくてね。小学校まで自分のこと男の子だと思ってすごしてたんだ」
少し苦しい言い訳かなと思ったけど……
「あー、だから『僕』なの?」
「そ、そうそうなの。まあ父さんのが移ったっていうのもあるんだろうけどね」
僕は苦笑しながら頭をかいていたら、にこにこしながらはやなさんが僕を見ていた。
「どうしたの?」
「えっと、ノエルがかわいいなって」
え?
いきなりのはやなさんの言葉に僕は少し考え込んで、引いた。や、やっぱりはやなさんはそっちの気があるんじゃ。
「そういうことじゃないの。なんていうか……ギャップがね?」
ギャップ?
「なんか最初、ビスクドールとか、そういう人形のような感じがあったんだけど、付き合ってみるとすごく人間ぽい印象になったんだよね。今の百面相も面白かったし」
「そうなんだ……」
なんとなく人からそう言われるのはむず痒かった。
「ほら、ゲームやろ? この前発売したウォーズリンクの家庭用移植版あるんだよ」
……うん、やっぱりはやなさんは女の子というより男の子の嗜好の持ち主だ。
僕らはその後少しの間ゲームをしてから遊びにいくのであった。
ゲーセンでウォーズリンクが主だったけどね。それでも楽しかったよ。
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