第三十三話 帰宅しましょうか
ようやく泣きやむとかなねえは僕に微笑んでくれる。
「ありがとう。けーちゃんのことで泣いてくれて」
今のは友達が死んだのを悲しんでるように見えたのかな? 少しずきっと僕の心は痛んだ。
そこで少し申し訳なさそうな表情の柏木さんがぱんぱんと手を叩く。
「じゃあ、湿っぽいのはこのぐらいで、そろそろ教室に戻らないと次の授業に遅れちゃいますよ?」
あ、本当だ。もう昼休みも終わりそう。
「それじゃあ、また今度か……香苗さん」
やべー、危なくかなねえって言いかけたよ……
僕は冷や汗が出そうになるが、そんな僕を不思議そうに見てからかなねえはにこっと笑う。
「うん。またねノエルさん」
かなねえもまた僕の名前を呼くれた。少し嬉しかった。
それから五時間目、HRと滞りなく今日一日の内容が終了する。
「疲れた〜」
僕はぐで〜っと椅子の背もたれに寄りかかる。久しぶりの学校は思ってたよりも疲れた。
しかも、休み時間には何度か教室の外で僕と言う外国人転校生を見ようとやってきた連中もいて、なんか動物園にいる珍獣にでもなった気分だった。
くっと伸びをしていたら、
「ねえ、テスタロッサさん」
柏木さんに声をかけられる。
「なんですか?」
ぐりと柏木さんの方に顔を向けると彼女に、
「一緒に帰らない?」
と、誘われた。
そんで帰り道、柏木さんと話しながら家路に着く。途中まで他の人たちも何人かいたけど、僕と柏木さんは他の人よりわりと離れた方に家があるみたいで、途中で別れて今は二人だけで世間話だ。
「ふーん、柏木さんのお父さんってFUGAKUで働いてるんだ」
「そうなんだよ。びっくりだねテスタロッサさんの知りあいも同じ会社なんだ」
FUGAKUで柏木って人を一人知ってるけど、まさかね……
そんな風に話していたら道が二つに分かれてる場所に差し掛かる。
「私はこっちだから」
「あ、あたしはこっちだから、じゃあねテスタロッサさん」
そう言って別れる前にちょっと出来心で、
「また明日、はやなさん」
と名前で呼んでみた。さっきも名前でいいよって言ってたし、女の子って親しくなった相手を名前で呼ぶみたいだからね。
少し驚いた顔をしたけど、すぐにはやなさんは嬉しそうに笑ってくれる。
「うん、また明日ノエル」
ありゃ、いきなり呼び捨てか。
そうしてはやなさんと別れて家に向かった。
そして、家に着いて。
「ただいま〜」
ドアを開けて、家に上がろうとするとぱたぱたと足音が近づいてくる。
「ママおかえりなさーい!」
「ア〜ルト〜♪」
僕は走り寄ってきたアルトが抱きついてくるのをなんとか受け止める。っと、危ない危ないバランスを崩すところだった。
それから、アルトに遅れて朱音さんが出迎えてくれる。
「おかえりノエル」
「ただいま朱音さん」
お互いに笑顔で挨拶を交わした。
「今日いきなり香苗姉さんに会って焦っちゃったよ」
「あ〜、そのうち会うかな? って思ってたけどもう会っちゃったんだ」
「へ〜、その人、ママのしりあいなの?」
晩御飯の時間、三人で今日一日のことをいろいろと話した。
アルトは朱音さんに買い物に連れて行ってもらって、いろいろ買ってもらったらしい。
むう、それは母親役であるはずの僕のするはずのことなのに。朱音さんにはお世話になりっぱなしだなあ。次は僕がしてあげられたらいいんだけど。
それから、晩御飯を終えて、食後のお茶を飲んでるときだった。
「ノエル学校は楽しかった?」
と、真剣な表情の朱音さんに聞かれる。それに対して僕はできる限り嬉しそうに笑う。
「楽しかったですよ。さっそく仲がよくなれそうな相手ができましたから」
そう言うと、朱音さんも表情を緩める。
「そう、ならよかった」
それからお互いの顔を見ながら声を出して笑って、アルトに「なにかおもしろかったの?」なんて不思議そうに聞かれたのだった。
こうして、僕の新たな学校生活が始まる日が終わった。
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