第三十二話 再会
現在僕は追いつめられています。いや、突然何言ってるん? と思われると思われますが、順番を追って説明しましょう。
僕は柏木さんに案内されて部室棟と呼ばれる古めの建物に訪れました。そしたらいきなり柏木さんが僕の手を引っ張って、端にあるこの部屋に連れ込まれたんですよ。
もしかして……
※ 以下圭一の妄想です。
「テスタロッサさんってかわいいね〜」
「あ、あの……柏木さん」
「ねえ、食べていい?」
「か、柏木さんホントに待って!!」
「ダメ、待たなーい」
「いやーーー!!」
※ 以上、圭一の妄想でした。あくまで妄想です。
僕はガタガタ震えだす。
「あ、あの柏木さん、そ、そういうのはホントにす、好きあった相手同士でするべきで、まだ僕らは知り合ったばかりなんですから、だからまずは友達から……」
僕は部屋の角まで逃げる。こ、これで後ろからなんてことはないはずだ。
だが、彼女は呆れたように僕を見る。
「なにか壮絶な勘違いしてるみたいだけど違うよ」
えっ? よかったあ……
僕がほっと息をつくと、彼女はぱんと手を合わせてくる。
「お願い! うちの部の危機を救って!」
……はい?
柏木さんの話によれば、彼女の所属する漫研は去年、部員の殆どが卒業してしまい、現在柏木さんと三年の部長一人の計二名が所属しているだけだそうだ。
しかし、この学校では部として認められるのは三人からで、このままでは同好会になってしまい、部室から立ち退かなければならないらしい。
「だからお願い! 名前貸してくれるだけでいいから!」
どうしよう。僕だと本当に名前を貸すだけになるし……
「他の人は?」
「何人か頼んでみたんだけど漫研ってだけで敬遠されちゃって」
柏木さんは首を横に振る。
うーん、困っている人を見捨てるのもなあ……うん、仕方ない。
「滅多に部活に出れませんけどいいですか?」
「本当!? ありがとう!」
僕がそう言うと柏木さんは嬉しそうに僕の手を取って上下に振った。
ま、いいか。そう思ったところでドアが開く。
柏木さんが振り返る。
「あっ、部長! 新しい部員捕まえましたよ!」
「えっ、本当に?」
そして聞こえるのは、聞き覚えのある声、なぜなら部室に入ってきた人は僕がよく知る人物だったから。
腰まである綺麗な黒く長い髪、少し赤みがかった目。おっとりした雰囲気と優しそうな顔立ちのその人は僕の従姉妹で、よくお世話になった人……
「あれ? あなたはけーちゃんのお葬式にいた……」
かなねえ……
かなねえって、漫研に所属してたんだ。しらなかった。
少し思考がフリーズしかけたが、気を取り直し、朱音さんが考えといてくれた作戦を実行する。
「会うのは二度目でしたね香苗さん。私はノエル・テスタロッサ。よろしくおねがいします」
ぺこっと一礼。少し胸が締め付けられる。
「あ、……どうも。草薙 香苗です」
慌ててかなねえも頭を下げる。
柏木さんは僕らを交互に見てから首を捻る。
「あれ? 知り合い?」
「まあ、そんなところです」
ポリポリと頬をかく僕。うまく笑えてるか自信ない。
「けーちゃんとは友達だったの?」
「ええ。こっちに越してきた時にたまたま友達になりまして」
それが『草薙 圭一』と『ノエル・テスタロッサ』の『関係』。事故が起こる二週間前にビデオショップで『たまたま』知りあって、アニメ談義をしたら意気投合して友達になった、というものだ。
「圭一くんからあなたのことは聞いてました。頼りになるお姉ちゃんだって」
「そ、そうなんだ」
かなねえは複雑そうに表情を曇らせる。
僕はそのままなんとかこの場を乗り切ろうと話をしようとして、唐突に涙が零れた。
「あ、あれ?」
「テスタロッサさん?」
僕は涙を拭うけど一向に収まらない。次々と涙が零れる。柏木さんとかなねえが心配そうに僕の顔を覗き込んできた。そして、かなねえの顔を見るとまた涙が零れそうになった。
ああ、でもなんとなくわかった。なんで自分が泣いているのか。
自分がよく知ってる相手なのに、関係を最初からやり直すことになったのが、すごく悲しくて、寂しいんだ。
少しの間、僕は柏木さんとかなねえの前で泣き続けた。
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