第三十一話 学校です
教室に入って、ふと思った。新人役者のオーデションってこんな感じなのかな? と。本物なんて知らないけど、要するに自分たちの仲間になるかもしれない人を見るんだし同じようなものかな?
そして、壇上に立った自分に教室中から集まる視線。うう、恥ずかしい。
「はじめましてノエル・テスタロッサです! よろしくお願いします!」
僕は強ばる顔でぎこちなくとも笑おうと努めつつ、自己紹介して勢いよく頭を下げる。
そして教室は静まり返る。も、もしかして、なにか失敗しちゃったかな?
僕が心配になって顔を上げると突然歓声が鳴り響いた。思わず引いてしまっていたら、「赤くなってる! かわいー!」「髪きれー!」とか主に男子とほとんどの女子が騒いで、何人かは品定めするような目を向けてくいた。
ああ、でもよかった。歓迎されてるみたいだ。ほっと溜息をつきながら僕は笑う。そしたら、みんなぽけっとこっちを見たと思ったらなんかさらに歓声が大きくなった。な、なんで?
「はいはい、みんなそこまで。テスタロッサさんはあそこの空いてる席をどうぞ」
古屋先生が指すのは窓際の一番後ろの席だった。
補足すると古屋先生はまだ若そうな肩まで髪を伸ばした利発そうな女の先生だ。
「わかりました」
僕は教壇を降りて、その席まで歩き、座る。カバンの中から教科書や筆記用具を取り出していたら横からトントンと肩を叩かれる。
そっちに向くと隣の席の女子がひらひらと手を振っている。整った顔立ちでセミロングのかわいらしい人だ。
「よろしくテスタロッサさん。困ったことがあったらなんでも聞いて」
と言ってくれる。僕は「ありがとう」と返す。少し嬉しくて頬が緩むのであった。
そしてHRが終わると予想通り転校生なら必ず受けるであろう洗礼、質問タイムが始まった。
「テスタロッサさんってどこの出身ですか?」
「ヨーロッパの出身だよ」
質問してきた女子に心の中で謝る。本当は僕、外に出たことすらないです。すいません。
「日本語すごく上手だね。どこで習ったの?」
「習ったんじゃなくて覚えたが正しいかな? 私、物心付いた時から日本に住んでたから」
中身が日本人なんて言うわけにいかないしね……
「なんでですか?」
「お父さんがこっちで仕事しててね。それにうちの両親日本が好きだったから」
両親はうん、こっちで働いていたよ。それは本当だから。
さらにいろいろ聞かれるがなんとか誤魔化しつつ心の中でずっと謝り続けた。ごめんなさいほとんど嘘なんですよ……
そして一時間目の授業、数学。目の前で中年ほどの先生が因数分解についての説明をしているのだが……うわ、ダメだ。見ただけで問題の答えがわかる。まあ、僕自身が高性能コンピューターみたいなもんだからなあ。
この身体になる前は少し苦手だったのに反則級だなと思わずくすっと笑ってしまった。
それから僕はなんとなく教室全体に目を向ける。なんか久しぶりだなあこういう雰囲気は。
先生が前で話しながらも前後の人間で話していたり、真面目にノートをとって鉛筆を動かす音とか、教室がいろんな音で満ちている感じは、前の学校とはまた少し違って感じたけどまたその輪に入れるようで、ちょっと嬉かった。
んでお昼。朱音さん手製のお弁当を取り出していたら、
「テスタロッサさん」
また隣の女子から声をかけられた。
「あ、えっと」
そう言えばまだ名前聞いてないや。
僕が何に困っているかすぐに気づいたのか彼女は小さく笑う。
「はやな、柏木はやな。よろしく」
「あっ、どうも柏木さん」
僕が頭を下げると柏木さんははやなでいいよと言う。
柏木さんは日本人らしい黒髪を肩ぐらいで切りそろえている僕より少し背が低いくらいの小柄な女の子で、整った顔立ちをしている。
「で、なんですか?」
「テスタロッサさんはまだ校内のことよくわかってないよね? よかったらこの後案内しよっか?」
笑いながら柏木さんが提案してくれる。確かに、見取り図は見たけど実際に見といた方がいいよな。
僕はありがたく柏木さんにお願いをするのであった。
陣内高校の構成は校舎左手に一回り小さい建物に体育館とその横にプール。右手奥にちょっと古びた建物がある。話ではその建物が学食だそうだ。
柏木さんはまず授業に使う教室を案内されてから、校舎の左にある建物にある学食に案内してくれる。
「だいたい見て回ったかな。あとは……こっちかな?」
そう言って案内されたのは右手奥にあった古びた建物。
「ここが部室棟に使われている旧校舎だよ」