第一話 僕、女の子?
僕が眼を覚ますとそこは見知らぬ天井だった。
「あれ?」
首を動かして部屋を見渡してみた。僕が寝ていたのは清潔そうな白い壁と床の部屋で、病院の一室のようだ。
何でこんなところにと考えてからあの事を思い出して、勢いよく跳ね起きた。
そうだ、確か僕は突然の爆発に巻き込まれたはずだった。となると、ここは印象のように病院なんだろうな。
痛みもないから、あまり重傷ではなかったか、かなり時間が経ったのかな?
「にしても、なんだったんだろうなあの爆発は」
そう言って僕は頭をかいて……あれ?
今触ってる髪……すごく柔らかくてさらさらしている。そして、長い。僕の髪はこんな長くていいものではなかったはずだ。
恐る恐る視線を下に移す。
そこには白衣を持ち上げる二つの膨らみがあった。
パジャマから伸びる手も、細いしなやかな指に、白い滑らかな肌。どう見たって女の子の指。
「……」
無言で胸元に手を伸ばし、裾に手を掛ける。開いてから、すぐに閉じる。
…………うん。
「なんじゃこりゃ!?」
一瞬だけ松田○作の霊が自分に降りてきた気がした。
って、声も若い女の人のだ!
うそ、なんで!? うわ! 確認したけど下もないよ!!
「な、なんで女になってるの?」
鏡を見ようと慌てて立ち上がろうとして、体を支えられず崩れてベッドから落ちてしまった。
あれ?
肩が痛いけど、それより……
「足が……」
足にあまり力が全く入らない。もう一度立とうとしたけどダメだった。ぜんぜん立てない。
うう、だれか来てくれないかな? それで、状況を説明してくれないかな? あと、立つのも手伝ってもらいたい。
と、そこで、神さまに願いが届いたのか目の前のドアが開いた。誰かが部屋に入ってきて、
入ってきた人は女の人。しかも、すごい美人。
柔らかそうな長いピンクの髪、紫色の綺麗な瞳に通った鼻梁と柔和な顔立ち。大人の女性と感じさせるすらった背が高く、抜群のプロポーションを誇る体は漆黒のように黒い服に包まれていて、その貫けるように白い肌と相まって彼女の存在感を引き立てる。
静かで、優しげな雰囲気で、なんというか、彼女のことを一言で表現せよ。なんて言われたら、天使と答えてしまうと思うぐらい。
「よかった。起きたんだね」
声も鈴が鳴ったような透明で綺麗だった。もうずっと聞いてたいと思うほどの。
じっと彼女に見惚れていたら彼女は突然笑みを深くした。
「ふふ、私の顔に何かついているのかな?」
「あ、いえ」
自分の顔が赤くなるのがわかった。
僕はしどろもどろながら言葉を捜す。だけど、何を言ったらいいかわからない。いろんなショックで思考が纏まらないのだ。
「そんな、不安そうな表情をしないでほしいな。私の名前は天野 朱音。よろしく。草薙 圭一君」
「あ、こちらこそよろしくお願いします」
とっさに頭を下げてから気づいた。
彼女は僕の名前を知っていた。なんでだ?
「まあ、いきなり目覚めたら女になってたんだから驚いてるだろうけど、大丈夫、君は草薙 圭一という人間だよ。ちゃんとどうしてそうなったのかも説明するよ」
ええ、まあ。そうしていただきたいかと。
にしても、彼女を見ているとなんだか安心できた。
こんな風に現状――自分が女になってしまっていることも些細なできごとに感じるほど。
それから彼女に手を貸してもらってベッドに座る。
「あの、僕の姿って……」
「はい」
すぐに朱音さんは鏡を貸してくれた。
「ありがとうございます」とお礼を言ってから鏡を覗き込む。
そこに美少女がいた。まあ、朱音さんを見てしまったから自信はないが。
正確には少女から大人に成長する間かな?
美人というよりはかわいい顔立ち。朱音さんが美術品なら人形のような感じ。
腰に届きそうなサラサラの金髪とぱっちり綺麗な瑠璃色の瞳。すっきり通った鼻梁に、貫けるような白い肌。それらが見事なバランスで配置されている。
うう、完全に女の子だ。胸がある時点で諦めてはいたけど、現実として突きつけられるのはねえ? てか……
「えるふみみまであるし……」
そう、頭の横、髪の中から長く尖った耳が突き出ているのだ。
特殊な趣味の方にうけそうではあるけど、僕にはうけん。
もう、何がどうなってるのやら。
そこでまた、ドアが開いた。
「どうも。目を覚ましたって聞いたけど、よかったよ。ちゃんと眼が覚めて」
入ってきたのは歳は二十代中ほどで中肉中背の黒い髪は割と丁寧に切り揃えた、メガネをかけている白衣を着た男だった。ぱっと見怪しいところはないが、ただ、その蒼い眼が少しだけ怪しい光を放っている。肌も色白なのか薄いだけなのかわかり辛い色で、白人なのか東洋人種なのか判断し辛い。
「本当によかったよ。もし、眼が覚めなくてもサンプルにはなっただろうけど、やっぱ生きていた方がいいからな」
何だろう、よくわからないが笑顔でムカつくことを言っていらっしゃりやがっているのだけはよくわかった。
はあっと彼女がため息をつく。
「アグニ、彼は目覚めたばかり。もう少し気を使ったことを言った方がいいんじゃないかな?」
アグニと呼ばれた男はふふんと笑う。
「そうしたいのはやまやまなのだが……朱音、俺としては実験が成功かどうかが一番気になるんだ」
断言しよう。この人はきっとムカつくやつだ。
天野さんは苦笑いをしながらこっちを向く。
「悪意はないんだけど、こういうやつだから、許してあげてくれ」
苦労してるんだな。彼女……
「悪意がない方が性質悪いと思いますけどね」
僕も苦笑で応えた。
鈴:「どうもおはようございます。鈴雪です」
刹:「刹那です」
鈴:「初めの部分ですので連続投稿です」
刹:「ちょっちテンポ早すぎるとおもうけどな」
鈴:「それは言わないで。まあ、できれば楽しんでいただきたいかと」
刹:「それでは〜、また次回に」




