第二十四話 僕が母親?
アルトちゃんによる突然の爆弾発言により僕らの時が止まった。そして……徐に朱音さんが肩を叩いてきた。困惑しながらも朱音さんの方を向くと、
「ノエル、まさか君に隠し子がいたなんてね……で、パパは誰なの? それともママ?」
「朱音さん!?」
いきなり何を!
しかし、文句を言うその前にアグニが優しく、苛つくほど優しく肩に手を置き、
「言いたくなければいいんだ。このことは俺たちの胸の奥に仕舞っておこう」
「だから違う!」
思わずアグニを張り倒してしまう。そんな僕を尻目にアルトちゃんは「ママ〜」っと嬉しそうにしがみつくのであった。
「まあ、要するに刷り込みだな」
十分後、からかうことを止めて椅子に座ったアグニがそんなことを言う。
「刷り込み?」
僕はベッドに腰掛けながらアルトちゃんを膝の上に座らせてアグニの説明を聞く。
刷り込みってあの、ヒナが親鳥を見てそれが自分の親だと認識するあれ? 人間でも有効なのか?
「恐らくこの子は資料にあった自立成長型の機械天使の後期型だな。自立成長型はマスター認証した相手と常に一緒にいることで相手の癖や思考を覚え息のあったパートナーになるのを目的に創られたそうだ」
骨格は他の機械天使と違うため人間と同じように成長し、なんてアグニが説明を続けるが、僕はまったく聞いてなかった。
息のあったパートナー、ね……僕を見て説明が難しかったからかうとうととし始めたアルトちゃんを見る。
なにか面白くない。子供まで戦わせるなんて、そこまで追い詰められてたんだからしかたなかったんだろうけど、一発、制作者を殴ってやりたくなった。
朱音さんは、ただじっとアルトちゃんを見ている。そこにいかなる感情が込められてるのか判断できないけど、僕と同じようなことを考えているんだと思う。
「まあ、育成に時間がかかることや、確実にパートナーになるかどうか問題で数体しか作られなかったはずなんだが……」
いつの間にか説明を終えたアグニはじっとアルトちゃんを見る。そして、ため息をつく。
「まあ、その子と意志疎通できるのはお前しかいないし、完全に懐いてるみたいだから、お前が引き取ってくれ」
……へ?
アグニの言ったことを少しの間理解できなかった。引き取る? この子を? 誰が? それはもちろん僕で……
やっと意味を理解して……いや無理でしょ!? 僕、子供の相手なんてどうすればいいのか分かんないんだから! だけど朱音さんも「ナイスアイディア!」とアグニをほめている。いや、止めてくださいよ!
「無理だよ! 僕まだ十五だよ! 引き取るって無理だから!!」
「大丈夫、お前の歳は一万歳以上だから」
それこの身体の歳〜〜!!
ええっと、どういう反論しようか……少しの間考えて、朱音さんの顔を見たら閃いた。
「そ、そうだ! 朱音いいんですか? 僕、今あなたの保護下なんですから、この子の面倒も入っちゃうんですよ?」
ナイスアイディアって、言ってはいたけど、さすがにそこを考えてくれれば……
「ん? 別にいいんだよ? 部屋まだいくつか余ってるし」
朱音さ〜ん!!
だが、さらなる反論を用意しようとして、
「あのさ、ノエル、ちゃんと見なよ」
見る? 何を……あ、
見れば、アルトちゃんが悲しそうにうるうると目を潤ませながら僕のことを見ている。
「ママ、ママはアルトいない方がいいの? アルトのこと嫌い?」
ああ、見ないでくれ。そんな捨てられそうな子犬がするような悲しそうな目で僕を見ないでくれ……
もう詰みだ。腹をくくるしかない。
「わかりました。この子は僕が預かります」
こうして僕が折れると、アグニと朱音さんはハイタッチを決めるのであった。