第二十二話 能力を使ってみよう
カプセルから出てきた女の子はすぐに医務室に運ばれた。
医者の柏木先生とアグニはあの子の症状は「カプセルの中とは環境が違ったための一時的なもの」と診断した。しばらくしたら目が覚めるはずらしい。よかったあ。
それで、僕と朱音さんはその子を医務室に預け、今日の目的である訓練室に向かう。その途中、
「あのさ、ノエル、さっきあの子がなんて言ったかわかった?」
「へ?」
いきなりの質問だった。う〜ん、あの子が言ったのは確か……
「『ママ』だったと思います」
思い出しながら答える。うん、確か『ママ』だったと思う。
「そう、あれそういう意味だったんだ。ありがと」
「はあ」
突然の質問と、朱音さんの言い方に若干引っ掛かるものを感じながら僕は朱音さんについていくのであった。
そして、案内された訓練室は、狭かった。
僕は首を傾げる。
「すいません、朱音さん。ここって訓練室なんですよね?」
「そうだよ」
……ダメだ。どうしても納得ができない。
「だってスペースがないですよ?」
部屋の広さはだいたい学校の教室程。その真ん中に台があってそこに水晶が一つ置いてある。とてもじゃないが動き回るほどのスペースはない。
しかし、朱音さんは、
「ここにあるよ」
そう言って水晶を指さす。
……からかわれてるのか?
僕はジト目で見るが、朱音さんは気にせずそれに触れる。
「それでは一名様ご案内〜♪」
そう言った途端部屋に光が満ちた。
「わっ!」
いきなりのことで視界が真っ白になり、思わず目を瞑ってしまう。そして、再び目を開けると光が収まっていて、
「うそ……」
目の前には先ほどの狭い部屋はなく人の気配がないビル群だけがあった。
「今日は他に訓練所使う人いないから貸し切りだよ」
朱音さんが楽しそうに笑うけど、僕はただ呆気に取られていた。だって、いきなり狭い部屋からこんな場所に移ったんだよ?
周りは雑多のビルが立ち並んでいるが、そこに人の気配なんてなくまるでゴーストタウンのような印象をうける。空にはちゃんと雲や太陽があるからここは地下でなく屋外かな? まあ、もしかしたらモニターで空を映してるだけかもしれないが、
「どうなってんですか?」
僕はついついそう聞いてしまう。
すると、朱音さんは楽しそうな笑みで、
「あの水晶の中はね圧縮空間になってたの」
圧縮空間?
「簡単に言えば縮めた空間を水晶の中に封じ込んであって、私たちはその空間に入ったの」
ふーん? 便利なものだ。これがあれば住宅事情も一気に解決じゃん。
「しかも、時間の流れも外とは違って二十四倍の早さ、つまり一時間で一日分の訓練ができるの」
おおっ、まるでドラゴン○ールの精神と時の部屋みたいだ。まあ、あっちは一日で一年だけど。
そんな風に僕が感動していたら朱音さんがぱんぱんと手を叩く。
「それじゃあ訓練を始めるよ。まずは能力の使い方から。早速使ってみて」
「待ってました!」
僕はワクワクして朱音さんの次の言葉を待つ。しかし、朱音さんは何も言わない。
……あれ?
すると朱音さんは首を傾げて、
「なんで能力使わないの?」
ええっ?
「いや、アドバイスとか待ってたんですが?」
「できないよ」
あっさりおっしゃった!
朱音さんは腕を組んで、
「能力の使い方は人それぞれだからね。私の感覚を伝えて先入観持たれても困るし」
そういいながら朱音さんは手を差し出し、ばちばちと放電させる。そういえば、朱音さんは雷を操る能力って言ってたっけ。
つまり、能力の使い方は個人のフィーリングってわけですか……
僕はちょっと悩んだけど、言われた通り能力を使おうとしてみる。
まずは人差し指を一本立ててみる。そしてそこに力が集まるイメージを思い描く。すると指先に青い光が宿った。
よし、さらにその光が指から離れて一つの球ができるのをイメージしてみる。するとさらに指先の一点に光が集まって指から離れた。やった、できた!
「どうですか?」
朱音さんの方を見る。朱音さんは満足そうに頷く。
「もうつっこまないから」
……どういう意味ですか?
さらに朱音さんの指導の元、四時間かけて能力の訓練を行う。
内容は精製した球を自在に動かすこと。
朱音さんはどんな姿勢でもいいと言ったので僕は座り込んで球を動かすことに意識を集中した。能力にもよるが、これくらいなら発動できる人間ならちょっとやればすぐにできるそうだ。
パイロキネシスなら、炎を操る訓練、サイコキネシスなら物体を動かす訓練を最初にして感覚をなれさせるらしい。
それと、蒼窮にも能力の補助システムを昨日のうちに組み込んだらしく、ちゃんと使えればもう少しくらい余裕ができるだろうとのこと。
「にしても綺麗だね。君の能力光」
同じように座り込んでいた朱音さんが僕の作った球を見ながら呟いた。
「そうですか?」
僕は座り込んだまま振り返る。
「うん。優しくて澄んだ綺麗な光りだよ」
朱音さんが微笑みながらそう言ってくれる。な、なんか嬉しいな。
ちょっと頬が赤くなる。そして、朱音さんはふふ、と笑って腰を上げる。
「じゃあ、この訓練はここまでにして休憩してから次に行こうか」
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