第二十話 ちょっとした要望
私は圭一が最後のガディを破壊したのを見て溜めていた息を吐き出す。
よかったあ、特に怪我しなかったみたいだ。横のアグニを見ると、彼は鼻を鳴らした。
「予想以下だな」
えっ? 予想以下?
「どういうこと?」
「圭一の経験不足を考慮しても予想より性能が落ちている。せいぜい三割ほどだな」
三割……っね。確かにオリジナルの戦闘力の半分程度は痛いかな。せめて六割なら。
私もそんな失望に似た思いを抱いたが……
「所詮スクラップ品か……」
その言葉にはあっとため息を吐く。
まったく、なんでそう言う風に言ってしまうのかしらね。
「これから大変だな。俺も彼も」
それからアグニは部屋の出口に向かう。
「まずは壊れたガディから使えるパーツを採ろう。こっちのよりは相性がいいだろうからな」
「最初からそのつもりでしょうに」
一度、ガディのパーツを使用することを進言したものの、大量に量産されていたけど神無でガディは貴重なサンプルであり戦力。機械天使が強力だとしても、それ一つに頼るということには社長以外の幹部が何人か反対。結果、現代技術のみで修復された。
でも壊れたなら足りないパーツを他から取って四体から数を減らすだろう。
そして余ったパーツは? もちろん予備として保管される。でもその時いくつかパーツがなくなっても気づく人間は少ないでしょう。そして、それが圭一の身体に使われたとしても機械天使について知っているのは現状は私とアグニのみ。証拠が見つかる可能性は極めて低い。
そのために模擬戦をさせたのでしょう?
「さあ?」
まったく……相変わらずだね。私は苦笑して圭一を迎えに向かった。
「でも、始末書ものだね」
先ほども言った通り、ガディは貴重である。それを四体も壊したのだから。
「…………そうだな」
若干アグニの肩が落ちる。どうやら失念してたみたいね。ご愁傷様。
シャッターが上がりアグニと朱音さんが入ってくる。
それを見て僕は、
「ていっ」
背中の羽でアグニを叩いた。
「な、何をするかね?」
アグニが叩かれた頬を抑えて抗議してくる。
「何も言わずに模擬戦をさせた罰だ! この程度ですんだことを喜べ!」
けっこう怖かったんだぞ。ちょっとばかしわくわくしたのは秘密だが。
その様子を朱音さんが面白そうに見ている。
「でもノエルかっこよかったね」
えっ? そうかな? ちょっと嬉しいかも。
「うん。これから君の二つ名は『金色の堕天使』かな?」
おお、かっこいい。でも堕天使なのね……ちょっと肩が落ちる僕であった。
元の部屋に戻った途端、膝がガクガクなって倒れかける。
「大丈夫? ノエル」
「は、はい。今さら緊張しちゃったみたいで」
なんとか椅子に座るけど震えは止まらなかった。
朱音さんはただポンポンと肩を叩いてくれた。それから戦闘中に思ったことを言ってみる。
「そうだ、この髪どうにかしてもらえないの? 戦闘中視界に入って邪魔なんだよね」
ばっさり切って視界を確保したいのが正直な意見だ。
しかし、アグニは首を振る。
「君は死にたいのかね?」
は? 死ぬ?
「えっとね、君、戦闘中どれだけ体温高くなってると思う?」
僕の疑問に気づいたのか朱音さんはそう聞いてきた。
へ? 体温が高くなってる? そんなの全然感じなかったよ?
「そういった感覚は調整してあるからな……炉心周りはかなり高い。およそ六十二度ほどだったな。かなり高いだろう?」
「まあ、そうだけど……それが死ぬのとどう関係があるのさ?」
はあ、っとアグニが嘆息する。な、なんだよ。
「君の脳はまだ生身のままだ。そんなものがそんな温度にさらされたらどうなる?」
……やばいよね? 人間の体温は約三十六度、高くても四十。そんな高温にさらされたら脳がたぶん大変なことになる。
「それと髪がどんな関係が?」
「放熱システムの一部だよ。髪を切ったらその分放熱がしづらくなるね」
へ〜、髪もそんな機能あるんだ。
「一応、余裕を持たせるために必要な分より多めみたいだが、ないよりはいいだろう?」
そんなこと聞いたら切るつもり完全になくなりました。
と言うわけで、邪魔にはなるので髪留めで纏める事にしますか。
「他にはなにか要求があるかい?」
アグニが聞いてくる。ん〜?
「要望としては……服のカラーリングかな? できたら白を基調に黒の線で」
「それならまだ楽だな。明日までにしておこう」
そう言って、アグニは頷く。
「じゃあ、今日はここまでにしようか」
朱音さんの言葉に僕は頷いた。
着替えて部屋に戻ると、設定し直すから置いとくように、とアグニに服を回収された。あと、微調整しとくと蒼穹も。
「じゃあ、また」
「また明日ね。アグニ」
僕と朱音さんは部屋を出る。
「気をつけて帰りたまえ」
アグニは画面に向いたまま手をひらひら振ってくる。
こうして、初めて神無に訪れた一日が終わった。
鈴:「やっと、神無編終了」
朱:「おつかれさま〜。でも、この後が大変だね」
鈴:「……がんばります」
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