第十七話 相棒との出会い
案内された場所は非常に広い部屋だった。天井まで小さなビルくらいの高さで、学校の校庭くらいの広さがある。
中に入るとアグニは入り口の側に置いてあった僕の身長より一回りでかいくらいの長方形の箱に近寄る。すぐにアグニは側面のパネルを跳ね上げ流れる動作で何かを打ち込んだ。
すると、ぱしゅっと空気が抜ける音がしてから蓋が開く。中に入っていたものは……
「剣?」
箱の中には機械でできたようなゴツゴツした大剣。
「君の躯体が発見された場所にあったものだ。おそらく機械天使用の装備だな。持ってみたまえ」
アグニに言われてからその剣を執ってみる。僕の身長より少し長いその剣は、持ち上げると意外と軽かった。ブンブン振ってみるとバットを素振りしている感じに近かった。思ったより軽い金属でできてるのか、単にこの体の力が強いからか、
「重さはだいたい百二十キロほどだったな」
断言しよう。この体が力持ちなだけだ、ってあれ?
「この体、リミッターつけられてるんじゃないんですか?」
確かそうやって普通の人間並みの生活を遅れるようになってるんじゃ? まあ、普段でも簡単に片手立ちができるんだから十分力持ちなんであろうが、
「武器を執ったらファーストリミッターが外れるようになってるの。セカンドからはこっちから許可出さないと使えないけどね」
と朱音さんが教えてくれる。
なるほど。そういえばいつもよりさらに体が軽くなった気がする。軽く飛び跳ねたり腕を振ったりしてみる。うんいい感じ。
改めて剣を見る。機械でできたという印象のある片刃の大剣で、側面にはサブグリップと剣を分割するように縦に一本の溝が走っていて、峰の方は複雑に何本もの溝が走っている。そしてグリップにはトリガーまでついていた。
「よろしく相棒」
『お久しぶりですね。マイマスター』
……なぜか返事が返ってきた。
朱音さんは目をへえっと軽く驚いた感じで、アグニはほおっと興味深そうに僕を、正確には僕の持つ剣を見る。
うん、よし。
「やっ、やあ、君喋れるんだ?」
『何を言ってるんですかマスター? 昔から私は喋ってましたが』
端から見たら持っている剣で腹話術する怪しい人に見えるだろうなと、他人事のように感じる。
さて、どうしたものか……
「僕にとっては始めましてかな?」
『? 何を言っているんですか?』
なんて説明しようかな……僕は剣に状況の説明を始めた。
十分後、朱音さんとアグニにところどころフォローしてもらいながら説明を終える。
『なるほど。あなたの体はマスターの体ですが、中身は別の人間なのですね』
あっさり理解してもらえた。あまりにあっさり過ぎて拍子抜けするぐらいに。
「う、うん」
『そうですか』
それっきり沈黙。ええっと……
「何かないの?」
『何かとは?』
不思議そうに剣が聞いてくる。
「だって、僕らは君のマスターを勝手に弄った挙げ句に知らない誰かの脳を入れたんだよ?」
そう、だから彼(?)はもっと怒ったりしていいはずだ。なのに剣はちっとも怒らない。
だが、返ってきた言葉は、
『私は道具です。道具に良し悪しを判断する必要はありません』
だけであった。
それが無性に悲しく思えて僕は何か言おうとして、
『それに、マスターは最後まで己の思いを貫きました。その意志をあなたが継いでいただけるなら力を貸しましょう』
うーん? なんか話がいきなりすごい方向に飛んだような?
だから、確認のために聞く。
「つまり、僕に君のマスターの意志を継ぐなら許すと?」
『そう解釈していただいて構いません』
ふみゅ、そうすればこの体の人も許してくれるのかな? そうだったらそうしたいな。
「この体の持ち主はどういう思いで戦っていたの?」
この体の持ち主が何を思っていたのか、何のために戦っていたのか? それはただの好奇心だ。何も知らないのに聞いていいのかわからないけど知りたいと思った。
そして、少しの間の後、
『マスターは、夜を護りたいと言っていました。月が輝く夜を』
夜?
『みんなに安心して眠れるようにと言うことだそうです』
僕の疑問に補足するように剣が言った。ふーん?
僕にはよくわからなかった。そのうちわかる日が来るのだろうか?
「僕がそれをできるかわからないけど、よろしく。えっと……」
『蒼窮です』
剣が応える。
「うん、よろしく。蒼窮」
評価、感想お待ちしております。