第十六話 もう一つの仕事
着替えた後、椅子に座る。
「じゃあ改めて私たちの仕事を説明するね」
向かいに座った朱音さんがファイルのようなものを取り出しテーブルに置く。
「まず、私たちの仕事は特異能力者の保護と、先史文明の遺産の調査と回収は説明したよね」
そう言って朱音さんはファイルの中から何枚かの資料とそれにクリップで止められた写真を取り出した。
その写真には発掘現場らしき場所とそこから出土したようにクレーンに吊り下げられた泥だらけの巨大な昆虫のようなものが写っていた。
直感というかなんて言えばいいのかわからないが……ただ、これはいてはいけないものだと感じた。
「それは一万年前に先史文明を滅ぼしたと思われている地球外の生命体、名前は『ヴェノム』。私たちの仕事にはそれの回収と封印も入ってるの」
ふみゅ、見た目は巨大な昆虫で、どこかとげとげしい。だが、
「なんでこんなものが一万年以上土の中で原型を留めているんですか?」
生物ならバクテリアや何やらで分解されてなくなるはずだ。こんなキレイに残っているとは思えない。まさか、どこぞの『あなたはそこにいますか?』なんて哲学的な質問をなさる地球外知生体と同じくシリコン生命体?
すると、朱音さんは頬をかきながら、
「理由はわからないわ。確かに彼らも炭素でできてるから強固な外郭以外は分解されていいはずなのに、ね。一説には星が拒絶しているとも言われてるわ」
星が拒絶? 意味がよくわからない。
「ヴェノムの生態はあまりわかってないが、発見された資料によると星に寄生する生物らしい。搾取するのにちょうどいい星に取り付きその星の生命力を搾るだけ搾り取ってまた別の星に向かうのを繰り返しているそうだ」
とアグニが付け足す。朱音さんが「横取りするな」とアグニの頭を叩く。
星に寄生するか。な、なんかスケールの大きな話だな。クロノトリガーのラスボスか?
つらつらとそんなことを考えてから、思い出した。
「アグニって防御システム持ってたんじゃなかったですか? 今日はなんでそんな風にひっぱたけるんです?」
先日、殴りかかった時、一発目を防がれたことを思い出す。今日はそれが一度もなかった。
ああっとアグニが思い出したように、
「修理中だ。先日ので回路のいくつかがダメになったからな。今度はもう少し面白いものにする予定だ」
「あの時は驚いたわね。君がスターダストなんていうレアスキルの能力者だったなんて」
スターダスト? レアスキル?
わからない言葉が出てきた。まあ、二つ目は珍しい能力だって意味だろうけどね。
よし、わからないものは聞くに限る。
「スターダストって何ですか?」
「スターダストっていうのは星から力を借りる能力。他の能力よりもずっと純粋な力」
私でもあまり知らないなと朱音さんが笑う。
うーんっと、よくわからないが……
「とにかく、すごく強力な力ってわけですね」
「まあ、そうね」
ふむ。そんな力を僕は持ってたのか。だけど……
「今までそんなの持っていた覚えないんですけど」
そう、僕はこの体になる前は、完全無欠な一般人だった、と胸を張りながら自信を持って言える。
それがいきなり能力者なんて言われてもな。
朱音さんはうんうん頷く。
「まあ、確かに君は普通の一般人だったんだろうね。でもさ、今は一般人じゃないんだよ」
まあ、そうだけど。
うーんっとそうだなあ、
「もしかして使えるようになったのって、一度死んでリミッターが解けたからとかですか?」
「死んだからじゃないけどまあ当たりかな」
朱音さんが苦笑いを浮かべる。あり? ちょいハズレ?
「正確には能力に耐えられる体になったからだね。前の体じゃ力が強すぎたはずだし、そのことを判断した脳がリミットを外す許可を出したんろうね」
ふむ。前の体だと耐えられなかったから使えなかったけど今の体なら頑丈だから大丈夫ってわけね。
そういえばこの体ってどのくらい丈夫なのかな? ちょっと気になる。
「能力の使い方も私がしばらく教えるから安心して。それとアグニ、今日の予定は彼の試験をするって言ってたよね?」
「ああ、機械天使の戦闘力を調べる予定だ」
アグニが頷くと「こっちだ」と言って立ち上がった。
刹:「おい作者」
鈴:「……なんだよ?」
刹:「風呂敷広げすぎないよう気をつけろよ」
鈴:「わかってるって」
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