第十四話 神無に行こう
目が覚めて一週間が経った。この身体にもだいぶ慣れてきた。風呂とかは未だ慣れぬが。だが、
「なんか不思議な感覚だな〜」
「何が?」
庭で逆立ちをしながら呟くと、食後の紅茶を飲んでいた朱音さんが聞いてくる。
「今までできなかったことをあっさりできることです」
そう答えて左手を地面から離して片手立ちになってその状態でバランスを取ってみせる。前はできなかったことである。その状態から軽く腕を曲げて飛び上がり、くるんと空中で一回転して着地する。まるで曲芸師のようなことを簡単にできてしまった。今では最初のころの身体のバランスの違和感もほとんど感じなくなってきた。
「……私にはその身体に柔軟に対応できる君の頭の方が不思議なんだけど」
なんか、前も似たこと言われたなあ。
まあいいやと朱音さんは飲み終わったカップをシンクに出す。
「出かける用意してね」
出かける用意?
「今日神無の本部に行くから」
いきなりすぎますよー!!
一時間後、朱音さんの車の中で僕はそわそわしていた。
『神無』朱音さんから聞いた限りでは先史文明の残した技術の調査及び特異能力者の保護を中心に活動している特務組織らしい。それはいい、それはいいのだが……
調査と評していろいろされるのでは? なんて考えてしまう。たとえば耐久性を見るためにすごい勢いで硬い壁に叩きつけられたりとか、「銃弾の雨を浴びさせられたりとか、他にもあんなことやこんなことされるんでは?!」
「あのさ、君が思ってるようなことされないと思うよ。たぶん」
と、朱音さんが言ってるが……ってあれ?
「僕、口にしてました?」
「うん。「銃弾の」のところから」
お恥ずかしい……
「大丈夫だよ。それにしばらくは私が訓練や監督を受け持つ予定だから」
なら少し安心かも。すくなくとも朱音さんはそこまで無茶なことをさせないと思うし。うんきっと大丈夫。
そう考えてるうちに車はどんどん進んでいき、
「さ、ついたよ」
そう言って朱音さんはあるビルの地下駐車場に入る。入り口横にはビルの名前が書いてあった。う〜ん、なんか今へんなものを見てしまったような……
「あの、朱音さん?」
とりあえず、朱音さんに確認を取る。
「なに?」
「今、FUGAKUコーポレーションって書かれていたんですが?」
聞いたことのない会社名だ。というか僕ら神無に行くはずでしたよね?
「そうだよ」
と、朱音さんはあっさり答えた。
「あの、朱音さんこの会社って?」
エレベーターの中で朱音さんに聞いてみる。
「FUGAKUっていう会社はね『神無』の存在を一般にカモフラージュするために戦後建てられた医療機器の専門メーカー、株式会社富嶽医療が前身なの。だけど得られた技術をフィードバックしていった結果、世界でもトップクラスの最先端特殊医療機器メーカーFUGAKUに成長したの。まあ、医療機器って普通の人にはなじみが薄いから知らなくても無理ないね」
他の企業の一部も似たことをしていると朱音さんは言った。僕はもうスケールの大きさにためはあ、と頷くしかなかった。
そして、チンと電子音が鳴ってエレベーターが止まる。そこはビルの最上階だった。
エレベーターを降りてから少し歩く。外を見ると海のすぐそばであった。そして一つのドアの前に着き、朱音さんがドアを開ける。
「社長、天野朱音、ノエル・テスタロッサをお連れしました」
朱音さんに続いて中に入ると……
パンと大きな音が立った。空中にひらひらと紙吹雪が舞う。漂ってくる火薬臭どうやらクラッカーのようだ。長身で細みの男が満面の笑みで立っていた。
「ようこそノエルくん。我がFUGAKUへ! 私が社長の富嶽 正輝だ」
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