第十一話 初着替えです!
なんとか風呂から生還した僕は先に出た朱音さんに渡された新しい下着を履いて、服を着替えようとする。だが……
「うーーむ」
洗濯籠の中にあるものを睨む。今までお世話になっていたものと全く違うデザインのそれと新たにつけることになったあれだ。名前はショーツとブラ。
男なら所持してるだけで犯罪だが、今の僕は女、責められる理由はない。だが……なんだろうこの後ろめたさは? 思わず挙動不審にきょろきょろ周りを見てしまう。
覚悟を決め先にショーツを取る。危険物を扱うように指先で。特に柄や装飾のない青い色のもので、今まで穿いてたトランクスに比べると布の面積が少ない三角形の頼りなさげな小さな布地。って、なにを事細かに詳細を観察してるんだ僕は? ま、まあこれからお世話になるものをちゃんと観察するのは大切だと思うからな。うん。(言い聞かせるように)
穿かないわけにもいかず、深呼吸して一気に穿いてみる。
……おりょ?
無心になってブラもつけてみる。こちらも下とお揃いの色で、柄も装飾もないシンプルなデザインであった。ここでも心に響く何かを感じてしまった。
……なんだろうこのフィット感は? 男では味わえなかったであろう驚くべき、そして形容しづらい感覚であった。今まで肩にかかってた重さまで感じなくなった。
試しに腕を動かしたり足を動かす。今までとは動きが全く違う気がした。う、動きやすい! 動きやすいですよこれ!
楽しくなってその場で準備運動しだして……鏡に今の自分の姿が映っていた。尖った耳を持つ金髪瑠璃色の眼の若い女が服を着ずに楽しそうに準備運動をしている。
うう、何してるんだ僕は? 恥ずかしい。ちゃんと着替えよう……
服を取る。今度のはさっきみたいな着替えにくいものじゃなくて、シンプルな黒いブラウスに胸元に小さなリボンがワンポイント入ったものと、ロングのスカート。
袖を通してリボンの下にあるボタンを留める……あれ? これボタンの位置が逆。あ、女物って位置が逆なんだっけ。それ以外は男の服とは特に変わらないみたいだ。
それからスカートを取る。たぶん朱音さんは女らしい歩き方を知らない僕に配慮してこれにしてくれたのだろう。これなら男っぽい歩き方でも少しはごまかせるだろう。たぶん。
足を通して持ち上げる。そして、ホックを留めて終わり。
靴下を履いてから鏡を見る。
「おお?」
思わず感嘆の声をあげてしまう。ガラスに黒いブラウスとスカートという格好の女の子、メリハリのある身体も相まって美少女という表現があっていると思う。自分だからちょっと客観的じゃないかもしれないけど。黒い服も白い肌を際立たせる役目まで果たしている。
耳が嬉しそうにぴょこぴょこ動いた。あ、動くんだこれ。
試しに……
両手を胸の前で合わせて可愛く微笑んでみる。
おお、なかなか様になってる。嬉しくなっていくつかポーズを決めていって……何やってるんだろう僕は。他の人からすればイタい光景でしかないだろう。耳もしゅんとうなだれている。いい加減風呂場から出よ……
にしても……スカートってなんか足元がスースーするなあ。これじゃ、なんも着ていないのと一緒だよ。
僕はスカートを押さえながらガニ股で歩くのであった。
「圭一、こっち来て」
風呂から出るとすぐに朱音さんに呼ばれた。
「なんですか?」
見ると朱音さんはすでに靴を履いて外に出る準備をしていた。買い物に行くのかな?
そして、朱音さんは靴箱から何かを取り出そうとしながら答える。僕の予想は当たっていた。
「これからの生活に必要なもの買いに行くから準備して」
ああ、なるほど、でも僕に準備なんてないと思うんだけどなあ?
朱音さんは靴を僕の前に置く。そして、僕の胸の真ん中を指で突く。
「いい? ここから一歩外に出たら君はもう『草薙 圭一』じゃない。『ノエル・テスタロッサ』なんだからね? 気をつけるように」
ああ、なるほど。朱音さんの言った準備ってそういうことか。心構えってことね。
僕が頷くと朱音さんがにこっと笑った。
「じゃあ行こうか『ノエル』」
「はい、朱音さん」
だけど……
「その前に、人前ではガニ股にならないでね。あと、スカートを押さえながら歩くのも変だから」
「スースーするんですよスカートって……」
車内できっちり注意を受ける僕なのでした。
鈴:「ごくろうさま圭一」
刹:「お前、なんであんなに事細かく描写したんだよ」
鈴:「もち圭一が恥ずかしがるように」
刹:「鬼だ……」
評価、感想お待ちしております。