第八話 見知らぬ天井だな
朝の陽射しが眩しくて眼が覚める。目に入ったのは見慣れた家の天井じゃなく見知らぬ天井。
あれ? うちの天井と違う。うちはもう少し色がくすんでいたはずだ。疑問に思いながらもベッドから降りようとして、壁にぶつかった。
「っ〜!?」
あれ?ベッドは左が壁際だったのに、なんで右に壁が?!
痛みで、鮮明に思い出した。
そ、そうだ。僕は爆発事件に巻き込まれて、死にかけたところを朱音さんとアグニが脳を女型アンドロイドに移植されて助けられたんだっけ。それで、朱音さんの家に居させてもらうことになったんだ。
頭を振る。うん、今の僕は女なんだ……
改めて白くて細くしなやかな指と膨らんでいる胸を見て少しガックリする。ちょっとだけ、一晩見た変な夢であることを期待してたんだよ……
だけど、起きてもそのまま。認めようこれが現実なんだ。
しかし、そこで好奇心が湧いてきてしまう。じっと自分の胸を見る。主観的かもしれないけど、一般的なのよりも大きいと思う。うん、きっと大きい。
ゆっくりと手を近づける。ゆっくり、ゆっくり……
あと少しで指が触れ……
「やっほー、圭一くん起きた? ……って何土下座しているの?」
部屋に入ってきた朱音さんが不思議そうに聞いてくる。僕の目線は伏せられてるからどんな表情をしてるかわからないけど、きっと驚いているのだろう。
「いえ、その……すいませんでした」
こうして、僕の非日常二日目が幕を開いた。
寝間着を脱いで朱音さんが用意してくれた服を着る。自分の下着姿にドキドキしてまた自己嫌悪。
そして、朱音さんに手伝ってもらいながら服を着る。
しかし、これは……
「ゴスロリ……」
姿見の中の自分を見て、思わず呟いてしまった。
ふりふりひらひらなレースやフリルを多用したドレスチックな服で、夏に着るには暑そうである。
「あーん、やっぱり似合う〜!!」
朱音さんが目を輝かせながら僕に抱きついてきた。えっ? えっ?
朱音さんがすりすり頬ずりしてきた。
「うんうん。寝ている姿見てずっとシミュレートしてみたけど、やっぱり予想通り……ううん、これは予想以上かも!」
朱音さんが嬉しそうに頷く。もしや……
「まさか、僕にこんな格好させるためだけに家に連れ込んだんですか?!」
思わずそんな疑問をぶつける。しかし、朱音さんはいやね〜、と手を振って否定する。
「違うよ。それは理由の半分くらいだから」
それでも、そんなこと考えてたんですね。じとっと朱音さんを睨む。
「実際のところ、君にもうどうにもならないって認識を強く持ってもらおうと思ってね」
……どういうこと?
朱音さんの言葉の意味を完全には読み取れず首を捻る。
「つまり、女の子らしい格好をさせたりしてその気にさせようってこと」
なるほど、なんとなく言いたいことはわかった。でもなあ……なんか悲しいものがあるよ。
僕はスカートの端をちょこっと摘んで一回転してみる。スカートがふわっと広がって、まるで花が咲いたようだ。
なかなかかわいい衣装で、ちょっといいか……いやいやよくない。
隣で朱音さんが「やーん、かわいい!」って悶えてるが無視しとこう。
その後、朱音さんにいくつかこれからの生活の説明を受ける。
「これから一、二ヶ月は女の子らしく振る舞えるように私が訓練させるから。学校もそれから通わせてあげられるけど、残念ながら前とは違うところだから」
まあ、贅沢はバチが当たるよね。それに、前と違う学校の方が都合がいい。前の学校だとボロが出そうで怖い。
朱音さんがさらに続ける。
「それと、しばらくしたらだけど、私たちの仕事も手伝ってもらうから」
朱音さんの仕事? ああ、
「神無でしたっけ?」
僕が言った名前に朱音さんが頷く。その顔はよくできましたと生徒を褒める先生のよう。
「私たちの組織『神無』では主に旧文明の遺産の管理と研究を行ってるんだけど、君には機械天使関係の仕事を手伝ってほしい」
機械天使関係か……やっぱり機械天使がどんなことができるかとか、発掘したものやデータから再現した武装の性能評価テストかな? 少し面白そう。
「いいですよ」
「たぶん、危険な眼にはあう……えっ?」
朱音さんが僕の返事に眼をパチパチ瞬かせる。どうしたんだろう?
「ほ、本当にいいの? 危ないし、やりたくないって言えばやらずにすむかもしれないんだよ?」
と、朱音さんが言う。自分で勧誘したってのに何で? 僕は首を捻る。
「いいですよ。面白そうですし、こっちは助けられた身ですから」
僕が事も無げにそう答えると朱音さんは目頭を抑えた。どうしたんだ?
「何というか……私は妙な人間を味方に引き入れている気がするよ」
なんだかひどい言われようだな僕。
鈴:「すいません。少し更新遅くなりました。ごめんなさい」
刹:「それでも読んでいただければ幸いです」
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