第1章 2話
翌日の朝、僕はまだふかふかのベッドの中にいた。
「おい!ラルス、起きろ。魔法教えて欲しくないのか?」
「……ッ!」
僕は『魔法』という単語に反応し、目を閉じながら上体をさっと起こした。
「そうだ。魔法、魔法を教えてもらうんだった」
「早く着替えて来い。リノアはもう待っているぞ?」
「うん」
僕はすぐに寝間着をベッドに脱ぎ捨て、僕の服がある母さんの部屋へ向かった。
部屋に入ると、もう既に母さんが用意したと思われる僕の服がベッドの上に綺麗に畳んで置いてあった。僕はすぐさまその服を着て、一直線に裏庭へと向かった。
「おまたせ兄さん、リノア」
「おはようございます」
「よし、それじゃあ始めるか」
「「お願いします」」
そして、待ちに待った兄さんの魔法講習が始まった。
「まずは簡単な炎魔法から行こうか」
「「お願いします」」
「まずは利き手を前に出してこう言うんだ……『燃え盛る炎竜の炎よ、今この手に宿り解き放て。ドラゴンファイア』!」
するとライトの手から拳二つ分ぐらいの火の玉が生成され結構な速さで真っ直ぐ裏庭にある池に打ち込まれた。
ドカーン!
水しぶきを上げながら、すごい音を立てて火の玉は水の中に消えていった。
「……す、すごい」
少し間が空いてから一言呟いた。
その一言しか出てこなかった。
「まあ、こんなところだ。早速二人もやってみるといいよ」
「うん」
すごいな。僕にいきなりあんなのが出来るのか?と思いつつもやってみようと決意した。そして妹のリノアは既に行動に移していた。
「『燃え盛る炎竜の炎よ……ドラゴンファイア』」
するとリノアの利き手である左手からは、兄さんの魔法の2倍はあると思われる火の玉が生成され、池に直撃した。
ズッドーーン!
兄さんの時よりも遥かに大きな音を立てて火の玉は沈んでいった。
「やはり、左利きはすごいな」
「何故ですか?」
自分でもすごく驚いているような顔をしているリノアがなぜと聞いた。
「左手は一番マナを放出する心臓に近いこともあるし、左腕は右腕よりもマナが流れる量が多いと言われているんだ」
そうなのか⁉︎すごいなリノア。僕も頑張らないと。
「よーし!僕も早速」
「ちょっと待った!」
兄さんが何やら焦った表情で僕を止めた。
「どうしたの?僕も早く魔法使いたいよ」
「……リノアでこれだと……少し場所を変えた方がいいな。よし、少し離れたところに大きな湖がある。そこに移動するぞ」
「なんでなの?兄さん」
「それはお前が魔法を使う時に分かる」
まあ魔法を撃つなと言っているわけではないし、いっか。
とりあえず兄さんに着いて行ってみる。
10分程歩いた先に、大きな湖が見えた。湖とはもう言えないぐらい濁っているが。
「よし、この湖に向かって魔法を撃ってみろ」
「分かった」
待ちくたびれた。でもようやく魔法が撃てる。そう思ったら一気に疲れが吹っ飛んだ。
そして僕の利き手である左手を突き出した。そういえば……僕も左利きでした。だから場所を移動したのか?でもこんなところまで来るほどなのか?そう思いつつも早速詠唱を唱えようとした……その時だった。
既に僕の左手にリノアのよりも遥かに大きな火の玉が出来上がっていた。自分の体の3倍はあった。
何が起きているのか分からなかったが、とりあえず湖に向かって撃ちだした。
ズッガーーン‼︎
爆発音に近い音が辺りに鳴り響いた。
それに驚き、三人とも目を瞑ってしまった。
音が止んだのでぐっと閉じていた目を開いてみる。すると……そこには思いもよらない光景が広がっていた。
「な、何だ……こりゃ」
隣でその光景を見ていた兄が震えた声で言った。僕もそう思った。一体何が起きたんだ?
そこには、水が完全に蒸発し、クレーターになった湖の跡が残っていた。
「何が起こったの?」
「俺にも分からん。多分、お前の魔法でこうなったのだろう」
嘘だろ⁉︎と思ったが、確かに直前に魔法を撃ったのは僕だ。そう考えるとこれは自分がやったのだと理解した。
「すごいです兄様!水が全部なくなりました」
さっきまで僕の後ろで縮こまっていたリノアがなぜか嬉しそうな表情を浮かべていた。
「ああ、これはすごいぞ!まさかここまですごいとは思わなかった。しかも無詠唱だったよな?無詠唱で魔法を撃つとか前代未聞だぞ?」
そうか。あれは無詠唱だったのか。てっきり暴発したのかと思った。そういえば、あの時兄さんの魔法を思い浮かべながら詠唱しようとしたら、なんかマナみたいなものが左腕に流れ込むのを感じた。
「無詠唱ってそんなにすごいの?」
「すごいなんてもんじゃない。無詠唱で魔法を使った人なんて、歴史上一人もいないと聞いている」
「そうだったんだ」
「兄様すごいです!」
「早速家に帰って父上に報告しなければな。よし、そろそろ帰ろうか」
もう少し魔法を使いたい気もするが、今はそれどころじゃないよね。でもその前にもう一つ試したいことが出来たんだった。
兄さん達が帰るのを見計らって、水の抜けたクレーターに左手を突き出し、水を思い浮かべてみた。すると、手から大量の水が出て来た。そして、みるみるうちに水が溜まっていき、さっきより遥かに綺麗な湖になった。若干だが辺りの空気が澄んだ気もする。
よし!成功だ。
どうやら僕は、思い浮かべるだけで魔法が使えるらしい。明日からどんどん試していこう。いや、今からどんどん試していこう。そして今日はとりあえず炎魔法を湖に撃っては水を溜め、撃っては溜めを繰り返した。そうしているうちにすっかり夕方になってしまったので、仕方なく帰ることにした。
家に帰ると、既に夕食の準備ができており、みんなテーブルに座って僕を待っている状態になっていた。
「遅いぞ、一体何処へ行っていたのだ」
聞いてきたのは父のライルだった。
「ごめんなさい。ちょっと珍しい鳥がいたから追いかけてたんだよ」
「嘘をつくなよ。ライトから話は聞いている。どうせ遅くまで魔法を使っていたのだろう?」
見苦しい言い訳は一瞬でバレてしまった。
「ごめんなさい」
僕は魔法を使っていたことを認め、ただただ頭を下げて、謝罪の意を表した。
「ん?別に怒ってはいないぞ?それよりラルス……お前無詠唱で魔法を使ったんだってな?父さんにも話してくれないか?」
なんだ、怒ってなかったのか。今になって、必死に謝っていた自分が恥ずかしい。
「うん、いいよ。あの時はねぇ……」
「……て感じかな?」
「……」
「あれ?父さん、母さん?」
母さんと父さんは口を半開きにしたまま沈黙していた。
そして僕の声に反応した父さんが半開きになった口を元に戻してから何か喋り始めた。
「……ラルス、お前魔法学園に入れ。お前には才能がある。いや、そんな次元の話じゃない。お前はおそらくこの国で一番強くなれる。そのためにお前には学園に通ってもらうことにした。そこで魔法は勿論、人間関係なんかもしっかりと学んで来ると良い」
「学園って、兄さんが通っているとこ?」
「そうだ。ライトは中等部から通っていたが、お前が14歳になったら高等部から入れる。それでいいか?」
まさか兄さんが通ってる学園に通えるなんて、夢でも見ているのではないだろうか。頬を少し抓ってみたら……痛い。夢じゃない!本当に学園に通えるんだ!
「ほ、本当にいいの?冗談じゃなくて?」
「冗談なわけがなかろう。だが、学費が結構高いこともあって、高等部からの入学になってしまうが」
「そんなの構わないよ。通えるってだけですごく嬉しいよ。ありがとう父さん」
「いやいや、嬉しいのはこっちだ。こんなできる子供達を持って父さんは幸せ者だ」
父さんがここまで言ってくれてるんだ。学園に通うまでにもっと頑張らないとな。
「そうだ。明日は父さんが剣を教えてやろう。これでも父さんは私立の騎士養成学校でトップだったんだぞ?」
「本当?ありがとう!」
母さんも子どもの頃、私立の魔法学園に通っていたらしい。僕の家は魔法一家だったんだな。
会話とともに夕食を終え、あとは寝るだけになった。
よし!明日からまた頑張ろう。
魔法を使い過ぎて疲れたせいか、昨晩よりもぐっすりと眠れた。
どんなことでもいいので感想をください。
これからの連載の糧にしたいんです。
好評でも批評でもいいのでとにかくコメントください。自己中心ですみません。