第1章 1話
ここから転生後の世界での物話が始まります。
思いの外ストーリーのペースが遅い気がしますが気長に読んでください。
ある日の朝、僕は朝食のいい匂いで目が覚めた。
上体を起こし匂いの方向を向くとそこには、朝食の乗った皿をテーブルに運ぶ、腰まで届きそうな長い黒髪をたらした、エプロン姿の女性が見えた。
「あら、おはよう。よく眠れた?」
「おはよう母さん。うん、よく眠れたよ」
僕は朦朧とした意識の中、目を擦りながら答えた。
「もうご飯できてるから、早く顔洗ってきなさい」
「はーい」
僕はすぐに洗面所に向い、鏡の前に立ち、蛇口をひねった。
毎日が楽しい
朝起きるのが楽しい
ご飯を食べるのが楽しい
誰かと話をするのが楽しい
とにかく、この世界の全てが僕は楽しくて仕方がない。なぜ、このなんでもない日常がこんなにも楽しいのか、自分でも分からない。
おっと、自己紹介がまだだったね……
僕の名前はラルス=フォーセル、今年で7歳になる。さっきの人はカルラ=フォーセル、僕の母さんだ。
……と、こんな感じかな?後は……僕の家は男爵家、一応このテュエリア王国の貴族だ。一応貴族だけど、僕の家の持つ領地は国土のほんの僅か、領地の中には村が一つあるだけ。だから貴族の中では一番下っ端なのだ。
自己紹介の間に洗顔を済ませ、ダイニングに向かった。
扉を開けると、そこには母さんの他にもう一人、肩に当たるぐらいの母さんと同じ短い黒髪の女の子が増えていた。
「おはようございます。ラルス兄様」
「おはようリノア。昨日はよく眠れたかい?」
僕は母さんの真似をして聞いてみた。
この子はリノア=フォーセル、今年で5歳になる僕の妹だ。ちなみにリノアと僕は年は離れているが誕生日が同じだ。それを聞かされた時はすごく驚いたが、もう慣れた。
「はい。兄様が本を読んでくれたおかげで、ぐっすり眠れました」
「それは良かった」
「さあ、リノアも早く顔を洗ってきて。ご飯冷めちゃわよ?」
「はい」
リノアが顔を洗い終えて戻って来た後、3人で朝食をとり始めた。
「そういえば母さん、父さんと兄さんは?」
すっかり忘れてた。僕の家は5人家族だ。僕と母さんと妹、そして兄のライト=フォーセル、歳は16、そしてフォーセル男爵家の現当主で僕の父さんのライル=フォーセルこれで全員だ。
「お父さんは朝早くに王都に出かけたわ。ライトは今日の夕方あたりに父さんと一緒に帰ってくるって」
父さんは貴族家の当主なので、月に一度、王都にいる国王と上位貴族に報告しに行くのだ。兄さんは王立の魔法学園に通っている。普段は王都にあるフォーセル家の別荘で一人暮らしをしているが、月に一度か二度、こっちに帰ってくる。今日がその日なのだ。今年で3年生なので卒業したらすぐにフォーセル家の当主になると、父さんと約束したらしい。
とまあ、少し変わったところもあるが、それ以外は極々普通の家庭だ。
普通の家庭なんだ……が、一つだけ変わり過ぎていることがある。
「兄様兄様、またアレをやってください」
「いいよ。それじゃあ……よっと」
僕は両手に力を込めた。すると、僕の周りに薄紫色の発光体が集まり始めた。
「何度見ても綺麗です」
「相変わらずすごい魔力ね」
この世界には魔法というものがある。その魔法を使うために用いるのが魔力だ。魔力の量は、その人が生まれた時に決まっている。魔力の量は人それぞれだが、貴族はその中でも、魔力量が一般の人より多いと伝えられている。僕も生まれた時からそこそこ多かったらしい……が、僕は最初から魔力が多かったにもかかわらず、日に日にその魔力が増えていった。その理由が今やってることにある。今集まって来た発光体は空気中に僅かにある魔力の元、『マナ』だ。僕にはその僅かなマナを集めて体に取り込むことができる不思議な力がある。そのため、僕の魔力は増え続けている。だが1日に取り込めるマナの量が限られていて、毎日少しずつマナを取り込んで今に至る。
「これはやっぱり才能があるわね……今度ライトに魔法を教えてもらいなさい」
「そうだね。明日は兄さんも休みだって言ってたし、明日にでも教えてもらうよ」
正直、僕も魔法を使ってみてたかったし、いい機会だ。
僕にはそんな不思議な力がある……がそれだけではない。僕には、一部ではあるが前世の記憶が残っている。たまに断片的に記憶が頭に浮かんでくる。だが、どれも自分のことではなく、前世に生きていた世界の記憶だけだ。前世で自分がどんな人間だったのかは全く分からない。
だけどそんなのはどうだっていい。今、僕が生きているのはここだ。今が楽しければそれでいい。
そんなことを考えていると、1日に取り込める分のマナを取り込んで、僕の周りからマナの光が消えた。
「あーあ、もう終わってしまいました」
リノアが残念そうにうつむいていた。
「また明日やってあげるから」
と言うと、リノアは顔を上げ、にっこりと笑った。
朝食をとった後すぐに、僕の家が持つ領地にある村に出向いた。村の人達に挨拶をしに行くためだ。こんなことするのは貴族の中でも僕の家だけだ。でも僕の家では、父さんの方針でこれが日課になっている。
村に着いて早速、村の中央にある広場に村の人達を集めた。
「皆さん、おはようございます。今日も良い一日にしていきましょう」
「「はい」」
村人達が声を合わせて返事をした。
本来ならば、この挨拶は現当主である父さんかもしくは、次期当主である兄さんがやるのだが、あいにく今日は二人とも不在なので、母さんがやることになった。
そして何やら、朝の準備体操みたいなことした後、僕らは家に戻った。
家に戻ってからは、兄さんと父さんが帰ってくるまで、母さんは夕食の支度をし、僕はリノアと遊んで過ごした。
前世では、御飯は一日三回だったが、この世界では一日に二度しかない。
最初は驚いたが、すぐになれた。昼は母さんがおやつを出してくれるので、全然不満はない。
そして夕方の6時頃に兄さんと父さんがほぼ同時に帰ってきた。
「今帰ったぞ」
「ただいまぁ」
父さんは結構元気そうだが、兄さんは声のトーンが疲れを証明している。
「お帰りなさい」
「お帰りなさい兄様、父様」
「お帰り、兄さん随分疲れてるね」
「あぁ、今日の授業が魔法の連射でね……もう魔力が殆どないんだよ」
「ああ、なるほど」
この世界では魔力は体力そのものだ。それが少なくなると当然疲れが出てきてしまう。一晩寝れば魔力は回復する。
「さあ、早く着替えて手を洗って来なさい。夕飯できてるから」
「「はーい」」
皆揃って洗面所に向かった。
そして家族全員が準備を終え、テーブルに着いた。
「それでは皆さん、いただきます」
「「いただきます」」
一斉に合掌してから、料理に手をつけた。
前世にも同じ風習があった。命を奪う側として、命をいただく生き物、そして野菜などを作ってくれた農家の人達に感謝を込めて、いただきます。
僕もみんなと少し遅れて料理を食べ始めた。
「そういえば、兄さんに話があるんだけど」
「ん?何だ?」
「えっと、その……僕に魔法を教えて欲しいんだ。だめ……かな?」
さっきの疲れた様子を見てたので、少しためらってしまったが、まあ駄目なら駄目でいいやと思い、聞いてみた。
「何だ、そんなことか……いいよ。明日にでも教えてやるよ」
あっさりオッケーを貰った。これは想定外だったな。
「え?でも兄さん疲れてるんじゃ?」
「別に一晩寝れば回復するし、それに……可愛い弟の頼みならしょうがないだろ?」
少し照れながら言った。どうやら兄さんはブラコンらしい。
「ありがとう兄さん」
「……おう」
また少し顔が赤くなった。
「そ、そうだ。リノアにも教えてあげるよ」
「ほ、ほんとですか⁉︎ありがとうございますライト兄様」
「……うん」
どうやら兄さんはシスコンでもあるらしい。いや、もうその発想から離れよう。
「じゃあ、明日の朝に裏庭集合な?」
「「はーい」」
やった。やっとこれで僕も魔法を使えるんだ。夕食を食べてる間、ずっと一人でそんなことを考えていると、すでに夕食を終えて、僕は布団の中にいた。とりあえず考えるのを止め、目を閉じると、すぐに眠気が襲った。
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