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キミと始める再生の旅を、今ここから  作者: Jint


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第89話 語り合うのに言葉はいらない

 ――アルフレートを倒しただと、この新兵たちがか?!


 イレアナの眼前に対峙しているのは、どう見てもまだあどけない少年少女たちだ。王国軍の兵士の中には歴戦の猛者もいたし、老獪な古参兵もいた。だが、それらの強敵をアルフレートと二人で葬ってきた。少なくともアルフレートはこんな新兵に後れを取るような軟弱な男ではなかったはずだ。ならば認識を改めなければならない。目の前の新兵たちが強者であるということを。


 イレアナは自陣へ帰り着くまで戦い続けられるように温存していたマナを解放した。身体を覆っていた倦怠感が嘘のように消え去る。荒かった息が整い始め、早鐘のように打ち鳴らしていた心臓の鼓動が落ち着きをみせた。イレアナは凛とした顔に微かな笑みを浮かべる。それは魂を地獄へ送る死神の微笑みだ。


 ――さあ、かかって来るがいい。私に触れる者は皆、死出の旅路に出ることになるだろう。


 水先案内人であったアルフレートがいない今、イレアナは自陣へ生還することを諦めていた。そして自分が倒れるまで一人でも多くの敵を倒すことを決意した。相手をしなければならないナヴィドとカランタリの分隊には不運なことだったが。


 ブロードソードを構えたアタッカーが鋭い気合の声を上げるとイレアナに向かって突っ込んだ。ナヴィドとカランタリはアタッカーの背後から射線を交差させるように援護射撃を始める。だが、イレアナはその場を一歩も動かずに光弾を武器で弾き、上体を振って避けた。


 それでも撃ち続ければ、意識を割かざるを得ないし、防御のための動きも必要だ。その隙にアタッカーの刃がイレアナまで届けば彼らの勝利だ。ナヴィドは攻撃の手を緩めずにその時を待った。


 アタッカーが上段からブロードソードを振り下ろす。気合は乗っているが軌道が丸わかりの稚拙な攻撃だ。それでもナヴィドとカランタリの援護射撃を合わせれば必殺の一撃となるはずだった。左右のどちらに避けようとも、三方からの攻撃は避けきれない。


 イレアナはブロードソードに剣を合わせて受け流すと、中段蹴りでアタッカーを蹴り飛ばし、カランタリの射撃をダガーで弾いた。ナヴィドの射撃はアタッカーの背中で止められている。背中に開いた穴から大量のマナが漏れ出たアタッカーは塩の柱となって崩れ落ちた。


「くそっ、すまん!」

「気にするな、相手が一枚上手だっただけだ」

 顔を顰めたナヴィドが謝罪の言葉を口にするが、カランタリはそれを聞き流した。温い攻撃であれば、苦も無く対処されただろう。フレンドリーファイアーと紙一重の際どい場所に撃ち込まなければ、イレアナには傷一つつけられない。


 攻撃の手が一枚減ったが、攻勢を緩めるわけにはいかない。ハルバード持ちの二人が同時に仕掛けた。重い刃にスピードの乗った威力のある振り下ろしだ。前後を挟まれて逃げ場のない攻撃もイレアナにとっては大した脅威ではない。腕を交差して頭上に掲げると、剣とダガーの刃で攻撃を逸らせた。


 ハルバードの重い刃は破壊力が抜群だが、振り切ってしまえば次の攻撃までの隙は大きい。オルテギハとアタッカーはイレアナの前に無防備な姿をさらしていた。イレアナはどちらでも倒す相手を選べる絶好の機会だ。


 その時、オルテギハの股の間から滑り込んできた者がいた。アルフレートを倒して、急いで戻ってきたリーンリアだ。イレアナは危険を察知してすかさず片足を上げるが、ダガーの刃が足首を浅く切り裂いた。傷口から淡くマナの光が漏れ出す。しばらく地面を滑ったリーンリアは横転した後、四つん這いになってイレアナを睨み付けた。


 漏れ出るマナを止める術をイレアナは持たない。これで彼女の行動には時間の制限がついた。のらりくらりと時間を使えば、勝利は転がり込むだろう。だが、ナヴィドたちには攻撃の手を緩められるほどの余裕はなかった。


 舌打ちをしたイレアナは剣を構えて駈け出した。これまで受けに回っていたが、時間がないとなれば、自ら動いて状況を作り出すしかないだろう。後衛に向かって駈け出したイレアナの前にシアバッシュが立ちはだかる。盾を構えて姿勢を低くし、やがて来るだろう攻撃に備える。


 トップスピードに乗ったイレアナは肩から盾にぶつかる。強い衝撃を受けたシアバッシュは後ずさりながらも持ち堪えた。だが、彼女は肩を起点に身体を回転させてシアバッシュを抜き去った。


「うおっ、ってマジかよ?!」

 ここから剣を交える気でいたシアバッシュは虚を突かれた。あっという間に後ろに置き去りにされる。ナヴィドとカランタリはイレアナに向かって迎撃するが、剣とダガーで光弾を弾き飛ばされた。


 目の前まで迫られたヒーラーはありったけのマナを注ぎ込んで分厚い障壁を張るが、剣の一振りで砕け散った。怯えた顔で固まったたヒーラーの胸にダガーが吸い込まれる。ヒーラーは塩の塊を残して消え去った。


「ヴィーダ、プランBだ」

 ナヴィドの指示にヴィーダがすかさず反応した。あらかじめ決めておいた障壁のパターンをナヴィドの周囲に張り巡らせる。イレアナはナヴィドの意図を読んで、剣を下段に構えたまま突っ込んできた。剣から伝わる感覚で障壁を破壊しながらであっても少しもスピードを落とさない。


 カランタリはイレアナの足を止めようと銃を撃ち続けるが、光弾はダガーによって弾かれている。ナヴィドは障壁の配置を頭に思い浮かべて数発の光弾を撃った。単純な射撃では防御を崩せない。現に命中しそうな光弾は全てダガーによって弾かれている。だが、完全に外れたと思われた光弾が障壁で跳ね返り、イレアナに向かって軌道を変えた。咄嗟に首を傾けて直撃を避けたが、数本の髪の毛と一緒に尖った耳を削り取られた。


 ――まったく次から次にやってくれる。発想の柔軟性は若さの特権か?


 削り取られた耳からマナを垂らしながら、イレアナは苦笑した。自分もイオン宰相などから若輩者扱いされる歳であることは棚に上げている。真っ当な戦い方をしてくる古参兵よりも、弱者であることを認めて戦い方を工夫する新兵の方がよっぽど戦い難い。


 ――しかし、私も新兵に金星を献上するつもりはないのでな。


 イレアナはもうナヴィドの目の前まで迫っている。ナヴィドは腰だめに銃を撃つと、光弾を追いかけるように走り出した。イレアナが光弾をダガーで弾いた隙を狙って銃剣を突き出す。だが、近接戦の技量においてナヴィドとイレアナの間には天と地の差があった。


 イレアナの剣はナヴィドの銃剣を易々と逸らし、返す刀で左手首を斬り落とした。手首から大量のマナが噴き出し、辺りに飛び散る。ナヴィドは慌ててバックステップで距離を取ろうとした。追いすがろうとしたイレアナはカランタリの懸命な援護射撃によって押し止められる。


「ナヴィドくん、無茶です。一旦、下がってください」

 ヴィーダの回復呪文によってナヴィドの傷は塞がったが、失った左手が生えてくるわけではない。とりあえずマナを垂れ流して枯渇する事態だけは避けられた。ここは仲間の助けで命を拾ったことに感謝すべきだろう。ナヴィドは短い礼の言葉をヴィーダに返した。


 追いかけてきた前衛たちがイレアナの周囲を囲んだ。ぶつかり合った結果、お互いに戦力を削り合ったが、どちらもまだ戦意を失ってはいない。ここからが第二ラウンドだ。


 ――さあ、お前たちの魂の輝きをもっと見せてみろ。その上で私が叩きつぶしてやろう。


 強敵と認めた相手を前にしてイレアナの気分は高揚していた。





 


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