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キミと始める再生の旅を、今ここから  作者: Jint


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第105話 交錯する思い

「そして父は魔族だ」


 部屋の中は静寂に包まれた。リーンリアの言葉を聞いて時が止まってしまったかのようだ。誰一人として身じろぎもしない。それだけリーンリアの告白には衝撃的な内容が含まれていたということだ。


 人族にとって魔族は不倶戴天の敵であることは今も昔も変わらない。人族の地に攻め入り、多くの人々をさらってきた。その人族と魔族が子を成す。それは人族側から見てもこれまでの常識を疑わされる内容だ。どうして人族の娘と魔族の男は子を成すことになったのか。リーンリアはどのようにして暮らしてきたのか。そして何故、リーンリアは王国にいるのか。疑問は尽きることなく、次々に溢れ出してきた。その答えを知る者は目の前にいる。だが、その前に片付けなければならない問題が横たわっていた。


 リーンリアは本当に仲間なのか――。


 少し考えれば答えの出る問いだ。フェレイドン将軍が後見人となり、軍学校に通っている。学長であるナーデレフとも懇意にしている。これまで幾度も魔族と戦い、その侵攻を阻止してきた。彼女が魔族から送り込まれた間諜の類だったとしても、このタイミングで自らの出自を語ることは無意味だ。ならば彼女は人族の側に立っているのだろうか。そう言い切れるほどの材料がないのもまた悩みの種だった。


 リーンリアの発した言葉の意味がみんなの頭の中に浸透したであろうタイミングを見計ってナヴィドは口を開いた。

「リーンは魔族領を追われて王国へ亡命してきたんだ。両親は二人共、魔族によって殺されている。すでにこの地に骨を埋める決心をしているということだ」


 ナヴィドとてこのまま魔族との融和を目指すフェレイドン派閥にみんなを引き込みたいとの誘惑がないわけではなかった。だが、魔族と戦う兵士にそれを求めることはかなりハードルが高いだろう。先ずはリーンリアが仲間として受け入れられることから始めなくてはならない。そのための援護射撃ならナヴィドはいくらでも骨を折るつもりだった。。


「リーンにはもう帰る場所はここしかない。そして俺たちにはリーンの力が必要だ。これまでだって……」

「ナヴィド」

「……一緒に、上手くやってきたじゃないか」

「ナヴィド!」

 シアバッシュの制止する声が部屋に響いた。電流が走ったように一瞬だけナヴィドは身体を強張らせる。


「ちっと黙っててくれねえか。オレはリーンから直接、聞きてえんだ」

 若干、憤った口調で吐き捨てるとシアバッシュは鋭い眼光でリーンリアを射すくめる。

「シアバッシュ、私に何が聞きたい」

 真っ向からその視線を受け止めるリーンリア。二人の間で視線が絡み合い火花が散った。


「お前が人族と魔族のハーフだってことはわかった。王国に骨を埋めるってのもいい。だが、半分は同じ血が流れている魔族と戦うのに躊躇いはないってことでいいんだよな?」

 シアバッシュの問いには誤魔化しを許さないとの強い意志が込められていた。


「私は……、魔族を根絶やしにしたいなどという強い憎しみを抱いているわけではない。それでも仲間を守るために魔族と戦うことに一切の躊躇いはない」

 すでにリーンリアの中では何度も繰り返し自問自答した末の答えだ。シアバッシュに向ける目に迷いはなかった。


「それならオレから言うことは何もねえよ。これまで通りでいい」

 少し照れくさそうに視線を外したシアバッシュは髪を無造作にかき上げた。

「シアバッシュ、ありがとう」

 少し潤んだ瞳で見上げるリーンリアにシアバッシュはたじろいだ。


「わたしだってリーンのことを信じるわ。あなたが自分で選んだ道だもの」

 ヴィーダはリーンリアの両手を掴んで微笑みかけた。自分の思い通りの人生を歩んでいる者などほんの一握りだろう。多くの者は荒波に身を委ねたまま僅かな可能性を信じて必死に櫂を漕ぐしかない。これまでリーンリアの歩んできた道が細く曲がりくねったものであったことに同情するつもりはなかった。多かれ少なかれ誰もが何かを背負って生きている。だからこそこれから歩く道程を互いに励まし合うぐらいの協力はしてあげたいと思った。


「恩に着る、ヴィーダ」

 ヴィーダの温かな心遣いを感じてリーンリアは両手を強く握りしめた。


 その時、壁に拳を強く叩きつける音が部屋に響いた。

「アタシは……、アタシは魔族を許せない!」

 オルテギハは抑えようのない怒りを全身にみなぎらせていた。

「オルテギハ……」


「アタシのお母さんを、村の人たちを、ナヴィドの両親だって、奪ったのは魔族じゃない!?」

「その通りだ。この戦いの非は魔族の側にあるだろう」

 悲しそうに目を伏せたリーンリアにオルテギハは言葉を投げつける。

「それなら何故、魔族と、手を握らないといけないの!」

「私は魔族と手を握って欲しいと頼んでいるわけではない。私と手を握って欲しいのだ」

 リーンリアは胸に手を当ててじっとオルテギハを見据えた。


「今まで、黙っていたくせに、今更だよ」

 何かに耐えるようにオルテギハは両手の拳を強く握りしめた。

「すまない、私は怖かったんだ。みんなにどう受け取られるか、それを知ることが」


「それで、すっきりしたの? 胸につかえた秘密を話して」

「そうだな、今は晴れ晴れとした気分だ」

 屈託のない笑顔を返すリーンリアにオルテギハは濁った目を向けた。

「ふんっ、それって、ただの自己満足」

「どう捉えられても仕方ないな。私はそれが正しい道だと思ったのだ」


「それなら教えてあげる。アタシは、魔族を、皆殺しにするつもり」

「ほう、ならば魔族のハーフはどうするつもりだ?」

 挑発するような口調のオルテギハに対してリーンリアからも剣呑な雰囲気が溢れ出す。


「半殺しに決まってる!」


 オルテギハの右足が側頭部を狙って鞭のようにしなった。左腕で蹴りを受けたリーンリアはそのまま拳を放つ。頭を横に振って避けたオルテギハは伸びた腕を掴んで飛びついた。咄嗟に空中に身を躍らせて関節技を外したリーンリアは床を転がって立ち上がった。


「お、おい、二人とも止めろ」

 突如巻き起こった喧嘩を止めようとナヴィドは二人の間に身体を滑り込ませた。

「ナヴィド、邪魔」

「下がっていろ、ナヴィド」

 同時に二発の蹴りを喰らったナヴィドは壁に吹き飛んでベッドの上に落ちた。部屋の隅には枕を盾にしたシアバッシュがヴィーダを守っている。


「そのすまし顔、歪ませてみたかったの」

「ふん、いつになく饒舌じゃないか。もっと心の内をさらけ出したらどうだ」

 オルテギハが足元を払うような蹴りを放つと、リーンリアは飛び上がって天井に足を着いた。そこから天井を蹴って体当たりをする。軸をずらしたオルテギハは落ちてきた胴体に拳を振り抜いた。


 肩を強打したオルテギハも腹を打たれたリーンリアも同時に床に転がった。痛む身体を引きずって仰向けになるとお互いに笑い出した。二人の顔は幾分すっきりしたように見える。


「いいよ、認めてあげる。リーンは、アタシの友達だもの」

 オルテギハは陰のない笑顔を浮かべた。

「ありがとう、オルテギハ。私も誇れる友となろう」

 リーンリアはオルテギハに右手を差し出し、固い握手を交わした。


 ――もうやだ、この戦闘狂ども。話が通じない。


 ベッドに転がるナヴィドの心の声はどこにも届かなかった。





 


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