6.17 突入
突入の準備を整える中でアレクサンドロ公爵が僕に話しかけてきた。
「ところでお主、本当に大丈夫なのか。死んで生き返るなど流石にありえんぞ。それが普通なのかお前の」
「え、流石に死んで生き返るのは普通では無いですよ。初めてですから。思ったよりも痛くて復活に時間がかかりましたし。それに今日の事件はスザンヌが未来視で予知していたので、あらかじめはった罠です。相手の出方を全て把握したかったから準備した術ですよ。普段は殺されたら死んで終わりですよ。もちろん」
「うむ、説明されてもさっぱりわからん。まあそのままで突入できるなら良い。途中後に皇帝を無力化できたなら後の交渉は私に任せてくれ」
「はい、では突入準備のできた人は並んでください。安全の為に、一度だけ魔法や物理攻撃をすべて無効化する絶対防御の魔法を付与します」
「絶対防御は聖女が持っているスキルだろう。なぜお主が使えるのだ」
「えっと、ゴブリン退治の時から使えるようになりました」
「それは時期だな。なぜお主が使えるのだ」
「スキルを奪い取る能力があるから、ゴブリンキングから奪いました」
「スキル奪取か、危険なスキルを持っているな、信じられん。お主はもうなんでもありだな。女神に愛されているし。そろそろ自浄しないと、気が付いたら半分ぐらい人間じゃなくなっておるのではないか」
そう言われて、鑑定でスキルを確認したら種族はちゃんと人だった。
「ステータス上はまだちゃんと人族です」
「そうか、良かったな」
無駄話をしながら、隊員達に絶対防御の呪文を使う。そして全員にかけ終わり、突入が始まった。
まずは、エルドラ王国の騎士が先発した。一番前に剣帝、そして剣王が二人続き、その部下たちが並んで入る。その後をシドニア王国、アルフォンス王国、ラスク王国の騎士たちが、その後を僕らが入り、最後に我が国の騎士達周りを固めている。
突入と同時に少し派手な音が聞こえたが僕らが交渉の間に入った時には剣の音も無く制圧が終わっていた。
交渉の間では、数名の行政官と思われる人と護衛騎士たちがすでに捕まえられていた。
中で一番偉そうな人が、声を上げた。
「我々グランスラム帝国の使者に何たる暴虐、即刻解放せよ」
「この部屋に入る前で我々を殺そうとしていたくせに、よくそのような態度がとれるな」
アレクサンドロ公爵があきれたと言う感じで答える。
「さて、皇帝がいるはずではなかったか、どうなっている」
「神たる皇帝がこのような場に降りられるわけが無かろう。皇帝に会いたくば、さっさと膝を付き皇帝陛下への敬意を示すが良い」
「もうすでに対等な立場での和平は交渉できぬ。何を言っておるのだ」
その時に、前に壁が動いて奥が開かれた。完全に隠された部屋になっていたようだ。
「グランスラム帝国皇帝の御前である。皆頭を垂れよ」
中から声が聞こえてきたが、我々はグランラムの部下ではない。すでに敵対する事がさっき決定的となったので、当然ながら全員がいつでも攻撃に移れる体制で頭は上げたままだ。
「お主らはこの部屋の前で我らを殺そうと襲ってきたのだ、敵対勢力に対して頭を下げる理由はない」
アレクサンドロ公爵が言う。
前に見えた皇帝を確認した。立派な椅子に座っている皇帝はどう見ても僕と同じぐらいの子供。そして鑑定で確認したところ皇帝は本物ではない。
「アレクサンドロ公爵、あの皇帝は人形です。後ろの魔道士が遠隔通信をサポートしているようです」
後ろにいる魔道士はかなりの高レベルで、スキルを確認したところ空間魔法を持っているようだ。
それを聞いてアレクサンドロ公爵が言葉を続ける。
「そちらの意志を確認したい。先ほど我々を殺そうとした貴方の忠実な兵士達がいたのだが、我らと和平の交渉をする気があるのか。あれは兵達の暴走なのか、真意なのかどちらだ」
皇帝の隣にいた魔導師が少し動いて答えた。
「貴様皇帝陛下の許しもなく直答するとは無礼な」
それを横から止めたのが皇帝だった。
「良い。それは我が望んだわけではない。勝手に動いたのだ。我は和平を望む。話し合いがしたい。捕まえた兵士はそなたらの好きにせよ」
その答えを聞いて、捕らえた兵士に得るどらの剣王が話しはじめた。
「だとよ。聞いたか。あんたらは切り捨てられたぜ、さてどう調理しようかな」
相手を見て笑ってみせた。
「陛下、我らは貴方様の命令通りに動いたのに、我らを見捨てるのですか。これほど忠義を尽くしてきたのに。どうか命だけはお助け下さい。陛下の為に陛下の為に尽くしたのです」
まあ、部下からすれば当然の言葉。おそらく徴兵によって集められた兵士が多いのだろう、周りもざわつく。
「我々は言われたとおりに魔道具も使い確かに一度はあの化け物を殺したのです。ですが生き返ったのです。それにアロノニア神まで出て。どうかどうか。お助け下さい」
「正直な部下を持ったねえ皇帝」
剣帝が大きな声を話して笑い始めた。
その時だ。皇帝の後ろに控えていた魔導師が急に兵士へ向けて魔法攻撃を開始した。
突発攻撃であったが絶対防御が効いたのかだれも怪我をしなかった。
「ダメだ、殺させない」
僕がそう声を出したと当時に魔法使いの前に瞬転で移動した。そして手に持っていた神石を埋め込んだ杖で殴った。
相手は、瞬転で僕の後ろに回る。なにか攻撃をするつもりだろうが、それを無視してそのまま皇帝の人形を殴りつけた。皇帝の人形の頭に杖があたる。ばこんと音がして頭が転がって落ちた。
その直後に僕の後ろから攻撃が来た。瞬転で横にずれる。少しかすったが絶対防御の能力で無効化された。
何のダメージも与えられないまま皇帝の人形を壊れ、驚いている。
ダブルの能力を活用し、魔導師から転移魔法の奪取を仕掛け、防御系の魔法を展開する。
魔導師は続けて攻撃をしてくる。魔法を次々の防御しながら転移のスキルを奪う。
すでに僕が転移の魔法を持っているせいで奪えない可能性があった。
奪取は1回失敗するとそこそこの精神ダメージを負う。数回は大丈夫だろうと防御をしながらチャレンジを続けた。そろそろ負荷が高くなり、最後のチャレンジを仕掛けたところ、相手の転移魔法がスキル欄から消えた。
10回もやってしまったので、しばらくインターバルが欲しい。空間魔法で逃げれなくなったはずなので、瞬転でエイミーの近くに移動した。
「エイミー、コハク、交代して転移の魔法を奪ったから逃げられないはずだから」
そういって二人と一緒に転移して僕は後ろに下がった。
二人とも絶対防御の効果が継続中なので、攻撃を受けるまでは休憩。
コハクがエイミーの前方に魔法結界を作りだし、それと同時にエイミーが突撃した。
魔導師はあわてて火魔法を撃つがコハクの防御系結界で魔法が小さくなる。小さくなった魔法をエイミーが振り払いそのまま突撃して魔導師を切り付けた。
最初の一撃で杖を手放し、続いた2撃目で首に下がっていた魔道具らしい首飾りが飛ぶ。そして顔の前に剣を突き付けらた。
「降参しないとこのまま刺すよ」
「く、このままで済むと思うなよ」
そう言ったが、何も起きない。不思議な顔をしている。
「なにかしたのか、くそ転移ができない。ならば」
どうやらエイミーに精神攻撃による洗脳を使ったみたいだ。
精神魔法など剣王クラスの精神力の高い者には聞かないが、絶対防御が反応して無効化されたようだ。
コハクが続けて魔法効果軽減魔法を使う。
エイミーはこのまま放置はできないと判断して魔導師の腹を殴り気絶させる。
別の剣王がさっき入手した魔法を封じる魔道具を持ってきて無力化した。
安全になったので、スタータスを良く見たところ、この魔導師は転生者で、称号が勇者になっていた。
「こいつ、勇者だ」
その声で、魔道具を持ってきた剣王がローブを剥いだ。
黒髪。そして見えたその顔。見覚えがある。
その顔は忘れようとしても忘れられなかった顔。前世で僕をひき殺した男だった。
もうじき終わりです。