6.3 シーラリアへ
山を越えると道に3台の馬車が見えた、そしてどうやら盗賊に襲われているようだ。
サイパポールさんにはこのままシーラリアに行き兵を迎えに来させて欲しいとお願いしてガルダで移動を続けて貰った。
僕はガルダが馬車ぎりぎりで素通りするときに瞬転で降りて敵の前に移動した。
相手は、上を通ったガルダを見ようと見上げていたので下にいる僕には気が付かずあえなく一撃入れられダウン。
全部で50名近い盗賊団だったが最初に攻撃されていることに気が付く前に半数近くがダウン。
3台の高級な馬車は全て扉が開けられ、ちょうど盗賊が中の人を引っ張りだそうとしていた。
護衛らしき兵士は既に1人も立っていない。
強引に倒しに行くと中の人も傷つける可能性があったので神格化し言葉に力を込めて「ひれ伏せ」と命じる。
それで残りの大半が気を失い倒れた。
起きているのは馬車から離れたところにいた鎧を付けた5名だけ。
神格化を解除し、魔法で吹き飛ばす。マイボックスから縄を取り出し全員を捕縛した。
その間に治まった戦いに安堵したのか馬車から令嬢がぞろぞろと出てきた。
相手側に名乗ってもらうと、シーラリアに住んでいた侯爵家と伯爵家2軒の夫人と令嬢だった。
なぜ殆ど護衛も付けずに移動していたのか理由を聞いてみた。
「新しく来る領主が、40代の男でラルクバッハの若い女を脅し、召し上げた凶悪な人間と聞いております。主人の知り合いから私達を逃がすようにと言われて、逃げていた所を盗賊に襲われました」
なるほど。新たしい領主は僕の事のような気がするが、40代で女を召し上げたって誰の話と混ざったんだろうと疑問に思いつつ盗賊側にも聞いてみた。
どうやら、この盗賊たちは貴族に金になる女が護衛も無く走っているから捕まえて、令嬢たちを誘拐し身代金を取った後で奴隷として売りさばく予定だったらしい。
それを聞いてあきれた顔をする侯爵夫人。
一緒にいた少女達も含めて礼を言われた。そして私達を領主から守ってくださいとお願いされた。
うーん、たぶんその領主が僕なのだと思うけど。まあとりあえず名前を名乗った。
その場に居た全員が驚いて声が出ない。
後ろにいた令嬢から「ジルベール様はその成りで40代のわけないですよね?」
そう言ったのは食べちゃいたいと思えるような美人さんだった。
「正真正銘10歳ですよ。夏に11歳になります」
「そうですよね。では私たちは完全にだまされたと」
「まあそういうことじゃないですか」
そう答えて、現状の確認をする。馬車を運転していた従者は6名で、ギリギリ生きていたので回復魔法で治療した。
かなりの重症だったので回復はしたが暫くは気を失って動けない。
現状を良く見れば3台の馬車に18人の女性。侯爵夫人と伯爵夫人の2人が責任者として乗っていただけで後の16人は別々の家から集まった令嬢達だ。6人の従者と50名の盗賊。
これ全てを引き連れて移動する事は不可能だ。
先ほどガルダに乗ったサイパポールさんの連絡でこの場に兵士が来るまで待つしかない。
しかし馬車の中はトイレも無い。休憩所がこの先にあるがそこまでの移動もできない。令嬢たちをここで待たせるのは不便だろう。
とりあえずマジックテントを4つだしそのうち3つを令嬢達に貸し出した。
中はトイレもある。使い方を教えて令嬢たちは休憩をする。
残りの一つに倒れた従者を入れてしばし待ちだ。
僕は縄で捕縛した盗賊にもう少し詳しい話を事情徴収する。
シーラリアの中に仲間が居るのでそれを聞き出す。全てを話し逮捕に協力すれば命を助ける。情報によっては減刑すると約束するとべらべらとしゃべってくれた。
確かに減刑すると言ったけど、この盗賊はその程度でこんなにしゃべって良いのだろうかと思うぐらいに良くしゃべった。
結局シーラリアに駐在していたシドニアの兵士が馬でたどり着くのに2時間かかった。
予想よりは早い到着だ。
サイパポールさんが到着後に色々説明しすぐに騎兵が出発してくれたそうだ。
すぐに移動と言いたいが、馬たちの休憩も必要だ。最初に食事を済ませてからシーラリアへ移動を開始した。
盗賊たちは徒歩移動。
今日の夜中までに着くのだろう。
僕は移動しながら騎兵に情報を伝えた。そして色々しゃべって協力してくれたから約束なので減刑として命は取らないように伝えた。
つかまっていた盗賊たちはそれを聞いて安心したようだ。感謝されても、減刑であって解放されるわけじゃないんだけどな。
情報を伝えた後、部隊を分けて馬車組は先にシーラリアに移動した。
数名の騎馬隊が先行して戻った。盗賊から聞き出した仲間を捕縛するためだ。
シーラリア兵の中に裏切りがいるらしくもしかしたら到着した時に争いがあるかも知れない。
シーラリアの町に入ると案の定、シーラリアの街中で兵士同士の戦いになっていた。
ガルダの居場所を確認すると中央の広場にいたので、門の入り口近くに飛んできてもらった。そして上空ギリギリを旋回し争っている兵士を驚かせる。
続けて僕が音魔法を使って声を広域に伝える。
「今すぐに戦いを止めろ。敵も味方もわからない混戦は禁止だ。剣を持つ者は味方でも攻撃する、今すぐに剣を離せ」
広場の中の兵士は次々に剣を離した。
それでも剣を持つ者の背後に行き両者の剣を落とす。上空のガルダから剣を持っている人を伝えて貰い、次々に剣を落とさせ、無力化した。そして捕縛されていく。シドニアの兵士は鎧の色が違うがシーラリアの兵士は敵も味方もわからない。
とりあえずシドニアの兵士が大量の造反者を捕まえた。だが味方も間違って捕縛されている。慎重に取調べしないと。
なにが起きているか解らないままつかまった兵士も多く、とりあえず捕まえた兵士ちを広場に集めてもらった。
そのうちに、貴族の格好をした侯爵や伯爵たちも様子を見に来た。
シドニアの兵士がミレール・サイファト子爵を連れてきてくれた。
ミレールさんに状況を説明しこの場に来ている侯爵や伯爵などの貴族を呼び状況を説明する。
あらためて、先ほどの女性からも自己紹介があった。どうやら侯爵夫人はシーラリアを治めている領主夫人で伯爵夫人は副領主の夫人だった。
彼女らは元グランスラム帝国の貴族だ。このまま新しい領主の下で政治を行うように言われているらしい。
身分はそのまま継承され領地も最低限残ることが契約で決まっている。
皆は、状況を聞いて夫人や令嬢が襲われたが無事だったことを喜んでいた。
それにしても現状の混乱はまずい。
シドニア側も敵味方がわかっていない。
単に上司が反乱し、訳も解らず戦った部下。
突然切られそうになり自衛していただけの兵士。などなど様々だ。
とりあえず自己申告で分類し状況確認だけで許可が出た兵士を次々に解放したが、最初の絞り込みでは立場が不明な者たちがおよそ200名残った。
そして最終的には100名まで絞られた。
このシーラリアには400人の兵士が存在し、そこにシドニアから100人の兵士が派遣されている。
このシーラリアは、10万都市と言われているが、10万と言う数字は、周り全体を含め5万人以上住んでいれば10万都市と言われる。
この町だけなら人口は4万人程度だ。
周りの小さい町や村をかき集めてシーラリア全体で6万~8万人が住んでいる。
そして都市部だけに限定するとおよそ人口の1.5%が兵士だ。この土地の適正な兵士は500人から600ぐらいが適切だろう。
現状は、人口比で1%以下の兵士しか配属されていないらしい。
翌日、後から捕まっていた盗賊が街にひきたてられてきた。
捕まっているシーラリアの兵士たちに、今のうちに正しい自己申告をしたら、死刑にはしないと宣言した。
すると、減刑に呼応して情報が集まった。
はーどれだけの問題がこれで解るだろうか。
とりあえず今日はミレールさんが用意してくれた建て屋に行き、シドニアの兵が監視する中、疲れていたせいでぐっすりと寝た。




