メルミーナ公爵の訪問
本来登録申請の不備は手紙で済ませる案件だ。しかし今回は公爵家が関わる案件。
そのままミスで済ませることはできない。したがってライラが直接確認に行く必要がある。
が、なにせ場所が遠い。馬車で急いで片道1週間。道も悪い中1日10時間も馬車に乗れるわけも無くおそらくは2週間はかかる工程。転移門がなければ、ほかの仕事がとまってしまう。ライラなどの下級文官には、おいそれと転移門の申請は使えない。
そういう経緯もあり、ジルベールの金眼の件はメルミーナ公爵に伝わった。
そして、メルミーナと部下のライラが確認に行くことになった。
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2人の公爵が来たが、その後トラブルもなく3ヶ月が過ぎた。リリアーナはもう大丈夫だろうと安心しきっていた。まさかそこにメルミーナ公爵自らが乗り込んでくるとは思っても見なかった。
昨日、役所に勤めているメルミーナ様から借りている部下が明日メルミーナ様が来訪されると連絡が来た。明日は1日家で待つようにと。
リリアーナは、突然の来訪に驚いた。
そして、当日。午前の終りぐらいにメルミーナ公爵が訪問してきた。家の者総出で出迎え、中へ入ってもらう。
メルミーナからの挨拶があった。
「久しぶりですねリリアーナ。文官を辞めて、10年ちょっとかな」
「はい、もう13年ほどになります」
「このたびは、子どもが生まれたそうでおめでとう」
「ありがとうございます」
「解っていると思うけど子どもを見に来たんだ。戸籍の申請があったんだよ2枚も。
それが内容が一致しなくてね。確認に来たんだ」
やはりか。2枚の申請が来ても、なんとなく領地の兼ね合いからハイルデン公爵家側になるだろうと予測していたので、メルミーナが直接確認しに来たのは予想外だった。部屋に案内しないのは不自然なので、ジルベールの元へ連れて行く。
ジルベールは、いつもどおり、寝ていた。しかし、なんとメルミーナ公爵は両目を強引に開けて確認した。そして、「両目か」とつぶやく。
毎度毎度ですがこの頃のジルベールは良く寝る子です。
近くにいた文官のライラに向けて左右金眼に修正するが、しばらく話があるから外で待つように指示。
そして、リリアーナのほうを見て
「貴方の意図は解っています。王宮で働いていた時から見ていますかね。ところで、この子の本当の母親も会わせてもらえないかな」
文官をまとめるメルミーナ家は、ほぼ全ての領地に自分の配下の役人を送り込んでいる。管理能力の高い文官のニーズは高くメルミーナに情報が筒抜けになっても欲する領主が多い。悪いことをしていなければ、メリットが多く。メルミーナへの文官の手配の依頼はよく来る。
もちろんこの領地にも以前からメルミーナの配下の部下は勤めている。それもリリアーナを慕ってもともとリリアーナの部下だった文官も含め数名の人が勤めていた。
メルミーナは、リリアーナが文官をやめて結婚後も領地経営でその能力を発揮していることを知っていた。
女性が頑張る領地として、王妃も注目していた地であり、メルミーナは沢山の文官を送り、リリアーナを手助けしていた。そして、ここに来る前に妊娠していたと思われる期間も変わらず領地経営ができていたことも把握していた。さらに彼は、自分の配下からリリアーナが妊娠してない事を上手に聞きだしてからここにきている。もちろん、それが回りに広がらないよう手も打って上でだ。
彼は、両公爵からの報告を見て、リリアーナの性格を把握した上で最初から両金眼の子と想定し行動している。
リリアーナが驚いた顔をしたが、メルミーナは平然と言い放った。
「この子の母親があなたでないことは解っています。ここに来る前に役場の部下から話を聞いてきています。そして口止めもしてきました。安心しなさい。さて、とても優秀だったあなたがおばかな他人の子を我が子とするとは思えない。この子の母親もあなたに近い才能があるのでしょう。
この子の案件は、非常に難しい。このままでは、この子は幼いうちに殺される可能性もある。それは解っているね。
そこでだ。
両金眼と知っている私がこの子の後見人となろう。そして、将来は公爵を継がせようと思っている。
それを決めるためにも、母親に会わせてくれないか?」
リリアーナは、【公爵】の言葉に、驚きを隠せなかった。
「【公爵】ですか……それは………………」
「私の子供には、男子がいない。直系の親戚含め、良いと思える後継者はまだ見つけられていない。
知っている通り、我が公爵家の跡継ぎは実力主義だ。建国から300年、国の土台を支えてこれたのは、単なる世襲ではないからだ、国の中でもっとも優秀なものが後を継ぐ。実際、私の父は養子だ。
ただし、後見人の候補は他に2人いる。あと3人たてて、5人の中から選ぶつもりだ。
今回、後見人になる事がすなわち公爵ではないが、解ってくれるかね?」
リリアーナにその覚悟も伝わったので、アメリを呼んだ。アメリは、リリアーナが直接教育を施した弟子でもある。同じ血筋だからなのか、非常に賢かった。知識をどんどん吸収し、リリアーナ以上に賢いのではないかと思ったぐらいだ。実際、彼女は、アナベルが亡き後、現在は領地経営を手伝ってくれ、その実力も発揮していた。
非常に優秀な彼女ならば、メルミーナの審査を簡単にパスするだろう。特に心配することなく、リリアーナは侍女にお茶の用意を頼んだ。
そして、結果を待つ。