プロローグ
今日も大学で学生の論文をチェックしていた。最終電車ギリギリまで勤務し、ギリギリで最終電車に乗り込む。電車は遅れることなく順調に駅に到着。先ほど駅を出て徒歩で自宅へ帰宅中に、ちょうど人通りが少なくなるところに差し掛かった時に気が付いた。
今日はなぜか前方に女性が1人。私の方が歩き方が早いのだろういつの間にか距離が縮まった。明るい色の服、若い子が着る服だ。もうしばらく行くと道が暗くなる。この時間このあたりの暗い道を女性が歩くことはない。そこの手前の家なのだろうか。それなら良いのだが。
暫く歩く、女性が街頭がまばらなところにさしかかる。
ふと、私に気がついたのか女性が突然少し早歩きになった。少し距離が離れた。近づこうとするが更に女性の足が速くなる。ストーカーと思われたかも知れない。だがこの辺は危ない地域だ。こんな時間に若い女性を一人にするとまずい。
ちょうどまばらな街灯のあるところ。私は思い切って声をかけた。
「お嬢さん、この辺は危ないから私からあまり離れないほうが良い」女性はこちらを振り返って私を見た。私はそのまま続けて声をかける。「私は横浜○○大学の教員です。安心してください」
そのまま近ずくと、あちらから声がかかった。
「先生!」
顔が見えた。すごい美少女だ。
ふと思い出した。確かに去年教室で見た。その時はもう少しおとなしめの顔だった。大学では化粧をしていないのだろうな。
「えっと生徒かな?」
「はい、昨年数学を1年間」と少女は静かにうなずく。
「そうか、と言うことは現在2年生か。と、それはおいておいて、どういう事情かは知らないが、この通りはこんな遅い時間に一人で歩いて良い場所ではないよ。つい少し前に事件が起きたばかりの場所なのだから。この辺に住んでいるなら知っているよね?」
「はい。今日に限って駅前にタクシーがいなくて。暫く待ったのですが、週末はタクシー待ちがすごくて。でも先生で良かった。さっきから嫌な予感がして怖かったんです」
嫌な予感って解ってるなら気をつけるだろ。ほんとに。
「まあとにかく君の家はこの先なのかね?」
「はいこの道を後500mほど進んで左に曲がるとすぐの家です」
「解った。私の帰宅途中にある家のようだからこのまま送ろう」
「ああ良かった。正直怖かったから助かります。先生なら大丈夫ですね。よろしくお願いします」
丁寧にお辞儀をされる。
暗いとはいえ、車が全く通らないわけでもない。一緒にいる姿をちらりと見られただけで噂になるのも厄介だ。多少の自衛もしなければと気が付く。
「私だから大丈夫って信用されるの嬉しいけれど。....まあ良いか。
それでも他人が見ると変な誤解をする人もいるから、少し前を歩きなさい。私はすぐ後ろを歩くことにするから」
少女はうなずき歩き出した。
10mほど歩くと後ろを振り返り私がいることを確認し、安心したのかそのままのペースで歩き出した。それから近くの交差点を過ぎ200mも歩いた頃、後方から車の爆音が。それはものすごい勢いで車が走ってきた。
嫌な予感って言ってたけどもしかして! 私は少女に向かって走り出す。少女も車の爆音に気がつきこちらを振り返る。そしてびっくりしたのか立ち止まってしまった。車は一直線に彼女に向かっている。
車がぶつかる直前に彼女を押して車との接触を避ける。私はそのまま車に弾き飛ばされる。
わき腹が痛いがまだ生きている。
道路に横たわったまま首を持ち上げ車を確認した。
車は少し進んだ所で急停止したと思ったが、信じられないことにそのまま躊躇なくバックしてきて再び私をひきにきた。体が動かない。その後、何度も体の上を行ったり来たり。
何回目か解らないがそのまま意識がなくなる。