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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

デスゲームに負けた俺は、何故か転生して畑を耕しています

「もうすぐ終わるね」


「ああ・・」


 世界は破壊の嵐により、端からめくり剥がされバラバラに引き裂かれる。

 遠くの山々は引き裂かれ塵となり、青く澄んだ海は虚無の彼方へその水を落とし、空は引き裂かれる。

 この世界は死のうとしていた。

 俺たちを巻き込んで。





 事の始まりは1本のゲームから始まった。

 世界に最新鋭のバーチャルリアリティ、いわゆる仮想現実を実体験できる施設やゲーム機器が流行って5年。

 VR技術を用いたゲーム機器は5年経っても品薄で、その中でも最新のヘッドギアを装着するだけでゲーム世界に仮想ダイブできるタイプは、コネ無しでは手に入らないとまで言われていた。

 そんな中、それを先着1万名で格安で売っているサイトを見つけ、おもわず買い込み。

 付属のゲームを起動したのが今から約1万時間前か、いや現実時間だともっと少ないのかな。

 だが、それももうどうでもいい。

 結局のところ、あのサイトは罠で。

 疑いもせず、ヘッドギアを装着した俺たちは全員、デスゲームへと叩き落されたわけだ。

 ルールは2つ、1万時間以内にこのゲームを攻略すること、出来ない場合は全員死ぬ。

 もう1つはモンスターに殺された場合も蘇生できず、死ぬ。

 ただ、これだけだ。



 そんな中、俺は始まりの町で畑を耕す。

 攻略には行かないのか、って?

 途中までは俺も攻略に参加したさ。

 でも運動神経も、上手く立ち回るゲームセンスも無い俺は、早々に攻略を諦め、レベルを少し上げて町まで戻ってきた。


 それからは生産系に必要なスキルとレベルだけ上げて、農業を楽しんでいる。

 俺みたいに攻略を諦めて、後方でのうのうと楽しんでいる人は結構居て、全体の3割ぐらいかな。

 攻略組からは卑怯者とか役立たずと言われているが、少し参加してわかってしまったのだ。

 自分には攻略する力は無い。


 俺は主人公にはなれない。


 この罠に足を踏み入れたところで自分の命脈は尽きたんだ。

 後は攻略組がクリアーしてくれることを祈るぐらいしか出来ない、ってね。


 だが、それも無理だった様だ。

 時間はもう無い。






 畑へと鍬を突き入れ、耕していく。


「ふぅ・・、これでいいかな?

 後は種を撒いてと・・」


 畑へと種を撒き、さらに生産系スキルを使う。


品種改良Lv10(ハイ・ブリーディング)! 耐病領域Lv10(ファームバリア)!」


 品質を良くし、病気に強くなる農業魔法を撒いた種に掛けていく。


「後はうさ子を呼ぶか。・・うさ子ー、今いいか?」

 音声でメールを作成、送信。

 すぐに返事が返ってきた。


「よし、じゃあ呼ぶぞ。仲間召喚サモン・フレンド!」

 俺の目の前に魔方陣が現れ、光り輝く!


「タイチ、やっほー! うさー」


 光が収まり現れたのは白い人間大のうさぎだ。

 彼女はうさ子、これでもプレイヤーだ。

 このデスゲームは自由に自分のアバターをいじれるため、動物の姿でプレイする人も少ないながら居た。

 うさ子は共に畑を耕すパートナーだ。


「うさ子、良く来てくれた。これを頼む」

 そう言って、畑を指差す。


「成長促進だね? 種はなんだい?」


「にんじんだよ。ようやく品種改良Lv10(ハイ・ブリーディング)を覚えたんだ。

 今日のは自信作だぞ。」


「お! にんじんかい♪ それなら私も頑張らないとねー♪

 成長促進Lv8(グロー・アップ)! 栄養補給Lv8(サプリメント)


 畑に青と緑の光のシャワーが注ぎ込まれていく。

 光が落ちた場所からはニョキッと芽が出て、それがグングン成長して行き、あっという間に畑は緑であふれかえった。


「あいかわらず、うさ子の成長魔法はデタラメだな。

 お、これが良さそうだ、1本抜いてみるか」

 手前のにんじんを抜く、その身は土で汚れているが赤く透き通り、輝いていた。


「おお! すごいじゃないか! これは何て言うんだい?」


「良し! ルビーキャロットだ、やっと出来たぁ・・」


 タイミング的にはギリギリだった、もう時間が無いのだ。

 空を見る、空には赤く巨大な魔方陣が禍々しく光を放っていた。


「うさ子、あの場所へ行こうか」


「うん・・」


 畑のにんじんを収穫ハーベストの魔法で全て採り、アイテムボックスに送る。

 そして、俺たちは畑の近くの丘へとやって来た。

 丘の上にはベンチが1つ置いてある。

 ベンチに二人で座り、短くなった地平線の向こうを見る。

 破壊の嵐はもう、すぐ近くまで来ていた。




「他の人たちはもう居ないのかな?」


「うん。みんなは最後の悪あがきだって言って、ちょっと前に攻略に参加しに行ったよ」


「そっか・・。じゃあ、残ったのはもう俺たちだけなんだな」


「みたいだね」


 二人の間に沈黙が落ちる。

 聞こえるのは遠くから近づいてくる破壊の地鳴りのみ。


「さ、さっき採ったルビーキャロット食べようか?」


「そ、そうだね! うわぁ♪ ワクワクするなぁ♪」


 アイテムボックスからルビーキャロットを全て取り出し、浄化クリアーの魔法を掛けてきれいにしていく。

 そして、生のまま噛り付いた!


「うわ! コレめちゃくちゃ甘い!」


「ホントだ! しかも甘いだけじゃないよ! 濃厚なバターのような旨みが口の中に広がり、喉を越すと今度は爽やかな青い香りが突き抜けていく。

 ふわぁぁ・・♪ 美味しいよぉ♪」


 うさ子と一緒に競うように次から次へとルビーキャロットの山を平らげていく。

 山が無くなる頃には二人のお腹はパンパンだ。


「うー・・、もう食べられないー」


「ハハ! 俺もだ、うっぷ・・」


「最後に最高のにんじんをお腹一杯食べられて、私は幸せだよ。

 ありがとね、タイチ」


「ああ、俺の方こそ。

 最後まで俺の畑に付き合ってくれて、ありがとうな」


「くすぐったいね。私はにんじんの為なら命を懸ける女なのさ、うさー」


 破壊の嵐はもう二人のいる、丘の近くにまで迫っていた。

 町はもうすで飲み込まれ始めていて、町の外壁はバラバラになっていく。


「最後におねがいがあるの、うさー」


「なんだ?」


「手握ってもらっても良い? ・・怖いんだ」


「ああ、俺もだ。頼む」


 うさ子の毛で覆われた柔らかい手を握った。


「私たち死んだらどうなるのかな?」


「さあな、輪廻転生とかじゃないか?」


「転生しても、また友達になってくれる?」


「当たり前だろ。こちらこそ頼むよ。

 俺、友達少ないんだ。」


「ふふ、だろうね。しょうがないなぁ」


 破壊の嵐はもう目の前まで迫ってきている。

 怖いので目を閉じ、待つ。

 握った手から伝わる暖かみに、泣きそうになる思いを押し込め、すがる。

 本当にこれでいいのだろうか?

 まだ1つ言い残したことが・・


「うさ子、俺・・」




 バラバラになった。











 暗転、暗い場所から出たと思ったら何故か泣き出してしまった。

 そのまま意識を失う。


 目覚めたら、目の前には茶色い天井。

 自分が寝ている場所も白と茶色。

 目がぼやけててよくわからない。

 また意識を失う。


 何度か睡眠と目覚めを繰り返してわかった。

 俺は今、赤ん坊のようだ。

 転生したのだろうか?

 何故、前世の記憶を覚えているのだろう?




 それから10年が経った。

 俺は今、畑を耕している。

 俺の生まれた家は田舎の獣人の農家だ。

 正直言うと貧乏だが、そこは俺の能力でなんとかやっている。


 転生した俺は周りの人と違い、自分のステータスが見える。

 この世界にも、ゲームの様にステータスがあるのだが。

 それは神殿に行くか、特別な魔道具を使わないと普通は見えないのだ。


 見えるのには理由がある。

 ステータスを見ていたら、メールが届いていたことに気づいた。

 差出人は神様だ。

 内容はというと、あのデスゲームに巻き込まれ、悪意ある事故で死んでしまった俺たちは、天寿を全うできなかったらしい。

 その救済措置として、本人の望むであろう世界へと転生されたそうだ。

 ちなみに、あの事件を起こした奴は捕まり、死刑になったそうだ。

 その魂も神様に捕まり、地獄行きになったとか。

 そして俺が自分のステータスを見ることができるのは、あのデスゲームの中で死んだことで魂に、ゲームの設定が一部こびりついてしまったらしい。

 これは仮想現実の中で死ぬなんて、神様も予期してなかった為に起きたエラーだそうだ。

 その為、俺はゲームで使ってた魔法を一部だが使える。

 大幅に弱体化してしまったが、それ故に見逃されたように思える。

 これが俺のステータスだ。


 ステータス


 Name  ターシュ

 Age   10

 Lv   5


 Hp   50

 Mp   40


 Str    25 

 Vit    30  

 Mag   20 

 Agi    15

 Luk   50


 スキル


 ■品種改良Lv3(ハイ・ブリーディング)

 ■耐病領域Lv3(ファームバリア)

 ■収穫Lv5(ハーベスト)

 ■浄化(クリアー)

 ■仲間召喚(サモン・フレンド)


 ■アイテムボックスLv2



 覚えていたのは、ありがたいことに農業魔法ばかりだ。

 少ないMpをやりくりしながら、自分の家の畑に魔法を掛けたお陰で、うちの畑は毎年豊作だ。

 この力については家族にだけ話し、周りには知られないように気をつけている。

 魔法も使うたびに熟練度が上がり、少しずつだがLvが上がった。

 元々が低位の農業魔法である収穫はLv5だ。

 他は、元々が上位の魔法なので上がりにくい。


 そしてLvが上がるのは魔法だけではない。

 農作業などの力仕事をしても経験値が入り、自身のLvが上がる。

 今日、ようやくLv5になった。

 これでずっと使いたかった魔法が使える。

 仲間召喚(サモン・フレンド)は必要Mpが40の為、今まで試せなかった。

 それを今から行なう。


 無駄に終わるかもしれない。

 それでも、また会えるなら。

 不安にざわつく胸を押さえ、覚悟を決める。


仲間召喚(サモン・フレンド)!」

 俺の目の前に魔方陣が現れ、光り輝く!


 光が収まったとき、そこには・・


「ふぇ!? 何処ここ、うさ?」

 白い長髪のうさ耳美少女が居た。


「うさ子・・、なのか?」


「え!? うさ子って・・、もしかしてタイチ!?」


「ああ! タイチだ、今はターシュって名前だけどな」


「ええ! ケモ耳生えてるよー!」


「お前もな」


「・・、ふふ!」


「・・ハハハ!」


 陽気な日差しの中、二人は笑いあう。

 美少女になったうさ子にタイチは顔を赤くしながら、照れ隠しに言う。


「うさ子。畑、手伝ってくれないか?」


「お! もしかして、にんじんかい♪」


 二人の朗らかな声が穏やかな田園に広がっていく。

 これからも、きっと。



お読みいただき、ありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
[良い点] もふもふ [一言] もふもふ後続編楽しみにしてます。大事なことなのでもう一度、もふもふ。
2017/05/09 20:35 退会済み
管理
[一言] 面白かった。 この二人には今度こそ末永く幸せになって欲しいです。
[良い点] 短編なのが勿体無いけど何かホッコリしたw いつか連載版で読みたいですね!
感想一覧
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