不可解な幕切れ
*クロウ・ナガミネ(アルキュール王国王都ギメリア、北部住宅街、錬金術師アルベール邸地下)
肩に乗った蜥蜴がぐぃと鳴く。
合図だ。
地下の実験室へと飛び込むと同時に《光球》を使用。
使い慣れた魔術だけに発動は一瞬。
部屋が眩く照らし出される。
同時に部屋の反対側で魔術が発動する感覚。
おそらくマディンの《炎壁》だろう。
相当の熱量を感じるが、下水道側のドアを焦がすにとどめているところに彼の技量が表れている。
部屋の中を一目見ると同時に確信した。
マディンの推測は的中している。
部屋にいたのは、本の傍らで戦闘態勢をとっているスライム。
異様な体色と組織をしていた。
鮮やかな青と、ふつうありえない目のような構造物。
間違いない。
こいつは本を読んでいた。
それを理解すると同時に、僕の口は詠唱を紡いでいた。
信仰心を持つ身としては話し合うべきだろうか。
愚問だ。
知恵を持ち、魔術を行使するスライム。
こいつはあまりにも危険すぎる。
万が一のことを考えてここで仕留めておかなくてはならない。
「在ることはすなわち戦なり
戦が摂理たる所以はここにあり
摂理を見据え 摂理を愛せ」
僕の詠唱を聴いて察したか、ジョシュアが切りかかるのが見える。
戦神ベルガとの交神を開く言葉を必死に連ねる。
口の動きが泥のように遅い。
詠唱しながら接近。抜ける体勢に。
残りの部分を無理やり想像力で補い、詠唱を短縮する。
「絶えざる流転を踏み越えよ」
われらが刃は命なり」
《聖刃》が発動する。
戦神ベルガのもつ「武器」の概念を、僕とジョシュアの武器に上書きする。
ものを構成する精霊の働きを統制するもの。
それを「概念」と神聖魔術師は呼んでいる。
それはものの「かたち」。ものの「本質」。
ものの「何であるか」に他ならない。
もちろんものの「概念」は一つだけじゃない。
ものの中には様々な「概念」が乱立している。
それらが互いに働きかけあって、ものがこれからどのように移り行き、どのように機能するのかが決まっていく。
《聖刃》は、乱立する概念の中から、「武器」という概念を強化することによって、「敵」を殺傷する性能を上げる魔術だ。
ごっそりと精神が疲弊する。
こんなことなら怠けずにもっと訓練をしておくんだった。
せめて詠唱文の練りこみと反復練習をやりこんでおけば。
いまさら言ったところで仕方ないことだけど。
ジョシュアの剣と僕の刀が白く光り輝く。
ちょうどスライムに触れていたジョシュアの剣が、スライムの体組織を目に見えて破壊し始める。
刀に左手を添え、体を右方向に捩じりつつ、踏み込み気味に抜く。
スライムの眼球部を狙う。
両断を確認――したところで、スライムの体が統率を失って崩れ始める。
……え?
あまりにあっけなさすぎる幕切れに、脱力を抑えて、むしろ警戒意識を向けてしまう自分はおかしくなかっただろう。
11/18 加筆しました。