暗渠探索
*カタリナ・イスマイル(アルキュール王国王都ギメリア、北部住宅街、地下下水道)
下水道に広がる無音の闇。
光が欠けている。けど、それだけじゃない。
壁面からじわりと染み出してきている聖水のせいか。
あるいは壁材に仕掛けがあるのか。
殆ど匂いがなく、音が響かない。
湿気とゆるやかな水音。
自分の衣擦れと息遣い。
石床を踏みしめる感触。
余りに感覚の種類が乏しく、数日いたら発狂してしまいそうだ。
備え付けの灯りは認可が下りていないので点けられない。
だから、ここにいるのは私とマディン。
それから急遽助力を願った先輩冒険者のイリーナさんだけだ。
精霊と相性がよければ、精霊を介することで感覚を拡張できる。
たとえば風の精霊なら、空気の流れを精密に感じ取れるようになる。
同じように、マディンは少しでも火の精霊がいれば、暗闇でも熱を視ることができる。
実は私も火の精霊と相性がよく、同じことが出来る。
イリーナさんはもともとの感覚が鋭敏なタイプだ。
猫の獣人で、ごくわずかでも光があれば暗所を見通すことができる。
そもそも下水道のような空気の密度の高い場所なら、光がなくとも十分戦闘できるらしい。
それを思い出して、急遽助力を頼んだのだった。
暗闇で前衛が私だけでは、万が一の事故が起きかねない。
目的地に向かって暗闇を歩く。
と、イリーナさんが足を止める。
私とマディンも遅れて察した。
どうやらマディンの読みは正解らしい。
地下水道の水温が下がってきているのが視える。
アルベール邸の方から流れてくる水が冷えているのだ。
…そうか。
下水道の聖水をどう回避したのか。
クロウが頭を悩ませていたが、種を明かせば簡単なことだったようだ。
おそらく、件のスライムは下水を凍らせ、乗り物を作ったのだ。
いちど氷の船を作ってから何かを敷いてしまえば、聖水に触れることはない。
ともあれ、これでもくろみ通り進められそうだ。
あとは、あの二人がうまくやってくれるよう期待するだけ。
一話~五話までを加筆、書き直ししました。
11/9 再構成しました。