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ぎこちない宴席

*クロウ・ナガミネ(アルキュール王国王都ギメリア、ギルド「ロウキーパー」寮一階大食堂)





 宴席の賑わいが寮の食堂を満たしている。

 老若男女の笑い声と、楽師の爪弾き。

 板張りの床が足音で鳴らされ、ひとまとまりの楽曲のように感じなくもない。


 もう夕刻。

 「ロウキーパー」の寮食堂には多くの人が訪れる。


 まず、王都ギメリアで活動するギルドメンバーの多くが、寮食堂で一杯やっている。

 もちろん例外もいるが、料理は安くて、後片付けもしなくていい。

 上階に上がればすぐ寝床となれば、利用しないほうが損というものだ。


 それから、一般開放をしているせいで、町の人や商人たち、他のギルドの面々などもいる。

 依頼主との打ち合わせや相談。情報収集に顔つなぎ。

 最初からそういう用途を念頭においていたんだろう。

 話が聞かれづらい個室仕立ての場所も用意されている。


 ともかく大量の人が集まっていて、通路はいつも誰かが往来している。

 その間を猫耳のウェイトレスが、麦酒を持って器用に歩いているのが見える。

 あの人は先輩冒険者だったかな。


 特に仕事が入ってないときはここで働いているらしい。

 というより、この寮の食堂は料理長からウェイターまで全員が「ロウキーパー」の関係者らしいんだけど。



 「ロウキーパー」同士で囲んでいる卓も多い。

 そういう場合、卓の種類は概ね二つに分かれる。

 盛り上がって祝勝会をしている卓と、沈んだ気持ちを酒で紛らわしつつ反省会をしている卓だ。


 僕らの場合は後者。つまり、反省会をしているのだ。

 少し珍しいのは、同席しているメンバーが「ロウキーパー」に所属する冒険者だけではないということだろうか。



 「……しかし、困ったな。王都の全域が捜索対象となると探しきれないぞ。」


 こう発言したのは、騎士風の甲冑を纏った長身の青年。

 青い髪に比較的端正な顔立ち。大きな目と通った鼻筋が印象的だ。


 人によっては彼に育ちの良さを感じるかもしれない。

 けれど、見る目がある人物なら、まず彼の鎧に目が行くだろう。


 薄手の甲冑である。

 注目すべきは、鎧の遊び。

 体にぴったりと張り付いている。

 ふつう、店売りの甲冑はサイズが合わないものだ。

 ある程度大きめに作り、布などをかませて体に合うようにする。

 しかし、彼の甲冑にはそれがない。


 そして造形に目を向けてみれば、とりたてて美麗でも特殊でもないけれど、機能的で洗練されている。

 間違いなくオーダーメイドものである。

 ということは、彼は最低でも領地持ちの騎士爵の子弟ということになる。

 ふつうならば、そう判断されるだろう。


 じっさいには、この推測は少し間違っている。

 彼の名前はジョシュア・クリプトン。

 宮廷錬金術師アルザード・クリプトンの息子であり、錬金術と剣術を修めた珍しいタイプの冒険者だ。


 彼は触れた金属の形や硬さを操作できるタイプの錬金術師だ。

 手持ちの腕輪をいつでも長剣や盾に変形させられるし、簡単な金属扉程度なら破壊することも出来る。

 彼の鎧も、自分で操作して造形したというわけだ。

 操作できる量や種類、精度に限りがあるのを気にしているらしい。

 僕から見れば十分なんだけど。


 彼自身錬金術師だし、正義感が強いからか、今回の逃走スライムが引き起こした連続行方不明事件を早く解決したいという態度を露わにしている。



 「ロウキーパーの面々の手を借りては?」


 と金髪の若い魔術師が提案する。

 彼の提案は正しい。探索範囲が広ければ人員を追加するのが常道だ。

 ただし、捜索先が下水でなかったならば。


 彼……マディン・ソルネイルは後衛の魔術師だ。

 火属性の精霊魔術と召喚魔術を使うとのこと。

 いつも後衛で、この依頼を受けるまでは先輩方と王都外での討伐任務に就いていたらしい。

 だから、下水探索がどれほど面倒なのかをまだ実感できてはいないのだろう。



 「下水には明かりがないから、触覚で敵を捉えるスライム相手には不利。下手をすると被害が拡大する」


 あなたのように精霊と相性がいいなら別だけど、と情報を補足したのは、ブラックギルド「夜の刃」の少女、カタリナ・イスマイル。

 烏を思わせる黒髪黒瞳が印象深い。

 黒は黒でも濡れた黒、艶やかな漆黒を宿している。

 細身だが、線が細いという印象は一切ない。引き締まった体つきだ。


 ブラックギルドとは、冒険者に依頼を斡旋する「冒険者協会」に認可されていないギルドのことだ。

 その性質上、後ろ暗い依頼――諜報や暗殺――に使われると言われるが、詳しくは知らない。

 彼女に問いただす気もなかった。


 今回彼女が同行しているのは、彼女にギルドから割り振られた仕事が、僕たちの受けた依頼と繋がっていたからだ。

 僕たちの探す「脱走した実験用スライム」が、彼女が調査した「連続行方不明事件」の犯人だった。

 行方不明者はスライムに襲われ、消息を絶っている。


 僕たちと彼女は、捜査のなかで何かと行き会うことが多かった。

 そこで僕らと彼女が簡単な情報交換をした結果、ギルド同士の共同捜査とあいなったわけだ。

 ちなみに、彼女も「夜の刃」に入ってまだ半年程度らしい。


 スライムは強いモンスターではないし、探査魔術も組み込まれているため、それほど難度が高いとは判断されなかった。

 だから新米四人組で進める手筈になったのだが……。



 「まさか、知恵をもつスライムが自分にかかった探査魔術を解除するなんて誰も思いませんよね」


 と愚痴らせてもらう。

 言ったって仕方がないことだが、そもそも最初の依頼が「逃げた実験用スライムの捕獲」だったはずなのに、話が大きくなりすぎだ。

 しかも今日は依頼主までが殺される始末。

 かけつけた現場はひどいものだった。

 おかげで事件の顛末が明らかになったのだが。



 「しかも移動経路は下水。明らかに僕たちの手に負えることじゃありません。もう判断材料はマスターたちに送ったんだし、あとは上の人たちが考えることでしょう」 


 下水道は、王宮が手配した薄めた聖水がたえず流されている。

 だからいかに人造生物とはいえ、スライムが移動できるはずはないのだが……、

 そのあたりも知識でどうにかしたと考えるしかない。

 頭の痛い話だ。



 「件のスライムがどこか立ち寄る場所さえわかるといいんだが……」


 ジョシュアはまだ探索を諦めていないようだ。

 たしかに、出会うことさえできればなんとかできる可能性はある。


 魔術を使えるとはいえスライムだ。

 勝てない相手ではない。

 とはいえ、明るい場所で出会えればの話だ。

 無理に下水を探索すると言い出したら止める必要がある。



 「気になるのはわかりますが、明日を待ちましょう。明日になればシグルドさんからも連絡が戻ってくるはずです。」


 そういって、この場を解散することにした。


首都ラメディア→王都ギメリアに変更しました。

11/6 再構成しました

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