新米冒険者の朝
*クロウ・ナガミネ(アルキュール王国王都ギメリア、ギルド「ロウキーパー」寮二階)
まず意識されたのは暗く眩い紅だった。
閉じた目を貫いて刺す陽光。
耳に入る小鳥の声に一瞬安堵したけれど、気怠い体を包む過度の暖かさに、時すでに遅し
という言葉が頭をよぎる。
体をよじらせて、目を開けると寮の安っぽい天井。いつもは薄く照らされるだけの灰色が、くっきりと陽光を纏う。
春先の朝は冷え、陽は儚い。こんなに暖かくなるのは昼過ぎになってからだ。
こまったな。
一階の食堂の朝食が片づけられる。
少し反動をつけて、ベッドから飛び起きる。
まだ肉類が残ってればいいんだけど、望み薄だろう。
寮の朝食も人気メニューがあって、なくなるのが早い。
昨日は紅鹿を沢山狩ってきた先輩たちがいたから、鹿だったかな。
僕の名前はクロウ・ナガミネ。
ここ、アルキュール王国の王都ギメリアで暮らす冒険者だ。
といっても、登録して半年くらいの新米だけど。
運よく王都最大のギルド「ロウキーパー」に拾われ、いまではギルドの寮で寝起きしている。
「ロウキーパー」は、ここアルキュールの老舗ギルドの一つだ。
多数の冒険者を擁し、社会的信用も厚い。
冒険者たちが150人ほども集っているといえば、凄さが伝わるだろうか。
ギルドマスターを筆頭に強力な冒険者たちがそろい踏みしていて、若い世代を育てる余裕もある。
時には王宮から直接依頼を受けることもあるらしい。
僕がいま寝泊まりしている寮も「ロウキーパー」が用意してくれたものだ。
地方から出てきた冒険者がこのギルドで一人前に育つまでの仮宿。
初心者の稼ぎだときちんとした宿は高すぎる。
とはいえスラム街の安宿は危険すぎる。
だから、ギルドメンバーに安くて長い間泊まれる場所を提供してくれているわけだ。
なにより有難いのは、格安で食事が食べられるところ。
先輩たちが直に食材を納入しているから、安いのに新鮮でおいしいものばかり。
こればっかりは役得だよなあ。
ただ、人気メニューの奪い合いは熾烈としか言いようがないけれど。
王都最大のギルド「ロウキーパー」の動員数をなめてはいけない。
なにせ総勢150人だ。
寮に常駐している人員は一部とはいえ、もう紅鹿、ないだろうなあ。
紅鹿はそこそこの高級食材で、あまり手に入らない。
あれを口にできないのは残念だな……。
頭を適当に回しながら身だしなみを整え、普段着に着替える。
さて、今日は朝食を食べてから「初心者向け」の依頼を確認して、午前中は稽古。午後からは逃げたスライム探しか。
首都ラメディア→王都ギメリアに変更しました。
8/27 「ロウキーパー」の人数を変更しました。
11/9 再構成しました。