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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

童話のようななにか

なっちゃんとお肉の秘密

作者: わだか

 

 なっちゃんとおかあさんはとっても仲良し。毎日ふたりは手をつないで保育園に行きます。おかあさんは一人でなっちゃんを育てている頑張り屋さんで、そんなおかあさんのことがなっちゃんは大好きです。


 ところで、おかあさんはすらっとした体を自慢に思っていました。

 でも、おかあさんは太っちょになりました。大きなお腹に抱きつくなっちゃんは嬉しそうでしたが、おかあさんはおなかのお肉を憎々しく思いました。このお肉がなかったらもっと自由に動けたのに。


 なっちゃんが保育園で遊んでいるあいだに、おかあさんはとうとうおなかのお肉を切り取ってしまいました。おかあさんはとてもスッキリしましたが、取ったおにくをどうしようか困ってしまいました。






「ママ。これ、なんのおにく?」


 その日の夕ごはん、なっちゃんはおかあさんに尋ねました。

 お皿の上には甘いソースのかかったお肉のソテー。おかあさんの料理はいつもどおりとってもおいしいのですが、お肉からは豚でも鶏でもない味がするのです。なっちゃんが難しい質問をしてもいつもおかあさんは一生懸命教えてくれるのですが、なぜか今日は笑うばかりで答えてはくれません。なっちゃんはおかあさんを見つめます。


「………?」


 おかあさんが少しだけ痩せたように見えました。それとなんだかとても機嫌がよさそうです。なっちゃんは首を傾げてから、再びお皿のお肉をみました。

 おかあさんと、おにく。


 お か あ さ ん 、の 、お に く


 このお肉が果たしてなんのお肉なのか、いいえ、だれのおにくなのか………なっちゃんは気が付いてしまいました。


「どうしたの、なっちゃん? 早く食べないと冷めちゃうわよ」


 静かに青ざめていくなっちゃんは、けれどニコニコしているおかあさんになにも言えません。以前おかあさんは言っていました。いつも毎日、なっちゃんのために働いて、なっちゃんのためにご飯をつくっているのだと。


「う、うん……」


 ぎこちなく頷いて、なっちゃんはナイフを手に取りました。手のひらは冷たく湿っていて少しでも気を抜くと滑り落としてしまいそうです。なんとかお皿のお肉を切り、口元まで持ってきたところで、手が動かなくなりました。


(おにく、たべたくない……)


 なっちゃんはお肉を食べなかったら、きっとおかあさんはなっちゃんにあれこれ聞くはずです。それでもお腹いっぱいでもう食べられないと駄々をこねれば、おかあさんも無理には食べさせようとしないでしょう。


 でも、一方でなっちゃんは思います。好き嫌いはいけないことです。それに、おかあさんを困らせた余分なお肉は今、お皿の上で美味しく焼かれたおにくになりました。


 おかあさんの余分なおにくは、お皿のおにくだけなのでしょうか。嫌いなものを残そうとしておかあさんを困らせる悪い子なっちゃんは、もしかすると、おかあさんの「余分なお肉」ではないのでしょうか。


 自由な時間は無いのよね。ずっと前におかあさんは一度だけそうぽつりとこぼしたことがあったことを、ふとなっちゃんは思い出します。


 なっちゃんはフォークでお肉をさしたまま固まっていた手をギギギと動かし、えいっ!とお肉を口に突き入れました。


 ふつうのおにく、これは、いつものおにく

 ふつうのおにく、これは、いつものおにく


なっちゃんは必死に心の中で唱えます。ですが、いつもじゃないお肉はいつも以上に絶品でした。柔らかいお肉は噛むごとに甘い脂が口の中にあふれソースと絡まりながら、喉を通り過ぎてゆきます。


「おかあさんの、おにく、とってもおいしいね…」


 泣きそうになりながら、なっちゃんは掠れた声で言いました。おかあさんはそのいつもと違う様子に気づくことなく「よかったわ」と嬉しそうに頷きます。


「だってママ、なっちゃんのためを思ってつくったんだもの」


 うふふと笑うおかあさんに向けて、なっちゃんも懸命に笑顔をつくりました。


 ある日の夜の平和な食卓。通りすがりの誰かが見たら、きっと母子の穏やかな風景に頬を緩めることでしょう。


 だけど、ふたりの心の内までは分かりませんーー。

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