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現代社会の魔法学。その3

 腕を水平に振ると真っ直ぐに名刺は目標目掛けて飛んでいった。


「何度やっても同じ事! ……無駄だと思わないのかぃニーチャン!」


 奴の言う通りだった。

 遠くから投げた名刺は奴の身体を動き回るテニスボールくらいの大きさの光球こうきゅう二つが弾いてしまう。

 弾かれた名刺はそのままユラユラと地面に落ちていった。


「ブッヒャヒャヒャヒャ~ お前の様な脆弱な技なんか効くかよぅヴァーカ」


 ―――光球はコイツの魔法なのか?


 目の前の警備服を着た男の口元が醜く歪む。

 普段使う名刺なら距離と精度は上げられるが、今手持ちの名刺そうびは朱柏の名刺と昨年度の手帳だけだった。

 それに警備員の制服には攻撃力を落とす加護がプラスされてる為直接的なダメージは入らない。


 ―――それに奴の肉体は肉弾戦ファイターに向いている……。


「完全に手詰まったかな……」






 何故こうなったのか話を少し戻しましょう。


 1時間前。


 昨夜に仕掛けた『私のじゃないから大丈夫』作戦が上手くいったのか朝方には下着は無くなっていた。


「カメラの映像でる?」

「まって、ウチ観るよ」


 この部屋には高田 英子は二人存在する。

 双子でもドッペルさんでも無い、仕訳後の本人なのだ。


 勘定科目で仕訳た為か人格も若干違いがある。

 セクシー担当はやたらと紫朗にベタベタ触り一人称は『ワタシ』。

 高田 英子からエロを抜いた残りの一人称は『ウチ』である。


 勘定科目というより感情科目なのだろう……普段の彼女オリジナルを知っていたら納得と思うのだろうが紫朗は彼女達(?)の事はよく知らなかったというより本人オリジナルも全く知らない。


「映像は?」

「紫朗さん出ましたよ」


 紫朗の判断は正しかった。

 定点1から定点2にハッキリ小嶋が映っていた。


「紫朗く~んやったじゃん」

「まだだ!」

「この映像でウチもいいと思うの」


 高田達はこれで訴える事が出来ると息巻いていたが紫朗は首を左右に振って彼女達を制した。


「これだけでは小嶋が映った映像でしかない」

「なら本人に聞けばいいんじゃない?」

「なんだ?その筋肉シンキング的発想は……」


 側に寄ってもう一人の高田が紫朗に耳打ちをした。


「いいのか?」

「ウチに任せて!」

「アタシだけ除け者? 虐めはんたーい!」


 彼女達はそれぞれ紫朗の背中を叩いた。



 下に降りると、既にいないと思っていた小嶋がまだいた。

 しかも、堂々パンツを握りしめていた。


「……小嶋。お前少しは隠せよ!」


 凄く呆れた。

 しかし小嶋は両手にパンツを握りしめ小躍りしながらまっていた。


「オレに何か用か?ニーチャン!」


 紫朗は間髪入れずに左右の腕を交差するように二枚の名刺を飛ばすが軽くかわされる。


「ダッサ!見え見えだぜ!」

「……どうかな?」


 紫朗が指を鳴らすと、小嶋の後方にいったはずの名刺が回転しながら警備員こじま目掛けて戻って来た。


 紫朗から小嶋の背中は見えないが確かに名刺は小嶋の背中を突いた!


「……うっ……ふうぅぅアブねえ!アブねえ!死んじゃうじゃねぇか!ウヒャヒャヒャ」


 小嶋の背中から前へ光球が一つ名刺を運んできて紫朗の見える場所で名刺を吐き出すように落とす。


「オレ様のガードシステム最っっっ高ぅぅぅぅにCOOOOOOLクールだろぅ?」








 回想おわり。



「諦めたらどうだ?ニーチャン……ウシャシャシャ」


 小嶋はユックリ紫朗に近付く、まるで声の出るサンドバッグを殴るのを楽しみで仕方無いと。

 光球の一つが小嶋の右拳を包み込むように薄く伸びる。


「今度はこっちの番だ!いい声でぇ鳴いてくれよぅニーチャン」


 小嶋は紫朗の間近まで来ると右腕を大きく振りかぶり打ち付けるように降り下ろす、まるでガードしてくれとばかりにユックリとだ。


 紫朗は目より少し上で腕を交差してガードをするが、相手の体重の掛かったパンチはバスケットボールをパンチングするみたいに大の男を跳ね飛ばした。

 殴られた力を逃がすためとはいえ大きく吹き飛ばされた紫朗は高田達の場所まで転がった。


「………痛ててて」


 何とか反動が治まり起き上がる紫朗に心配する声はかからなかった。


「とんだ喰わせものだったわね!」

「やっばりウチが殺るべきだったかな?」

「なんなんだよ!」


 いきなりの仲間割れに小嶋の動きも止まる。


「ロクデナシに強力頼むのが間違いだったわ」

「ごめんって」

「死んだら?ウチの為に!」

「淋しい事になるじゃん!」


 流石に無視され続けた小嶋は紫朗の側まで来る。


「お前ら……」

「「「いいかげんにしろ!!」」」


 見事にハモった後、紫朗は手帳を右掌で隠すように小嶋の鳩尾に当てる。


「なんの真似だ?ニーチャン」

「ゼロ」


 紫朗の手帳から赤い光が漏れると小嶋の背後からもう一人の紫朗が現れて警備服の背中に連続で名刺を撃ち込んだ。


「こんなの……効く………か…………よ…………」


 紫朗は前向きにた折れ込む小嶋を避ける。

 警備員が倒れると土煙が上がる。


「やるじゃん!」

「ウチの作戦勝ちだね!」


 高田達はそれぞれの紫朗に抱きついた。


「カウトダウンを口喧嘩でやるのは始めてだからキツいよ」

「でも、小嶋こいつ動かないけど死んだ?」

「いや、去年の手帳スケジュールと得意先の名刺だからね」

「勿体ぶって何よ?」

「一年分の疲れを送り込んだからな……暫く寝てるだろ」


 エロ高田が小嶋を突こうとする。


小嶋そいつを起こさないでくれ……相手にするのは死ぬほど疲れるから」

「「わかった」」


 紫朗の頬っぺたに軟らかい感触が伝わる。

 すると紫朗の目の前が真っ白になりもやみたいのが消えた。


「おーっほほほっ 私参上ですわ」


 ―――誰だ?この女は


 高らかに笑う女性に思い当たる節は……あった!


「高田 英子………?」

「とぅぜんじゃない! 分かりなさいよね!」

「貸借対照表は?」

「紫朗!私の貸借対照表ものにしてあげるから感謝しなさい♪ おーっほほほほほっ」


 この性格をどう仕訳ればあの二人になるのだろうか?


 ♪♪♪


 突然『断頭台への行進』が流れる。

 タイトルの割に軽やかで元気になりそうな曲だ。

 着信画面には、『あなたの課長♪』と出ていた。











次回で魔法研修は終わります。


その前に、設定説明。


加護について。


警備員や警察官とかの危険が伴う職種では制服に防御の加護があり対物対刃たいぶつたいじんの魔法が練り込まれています。

だから筋肉回答おばかさんの方でも魔法で守られます。

※魔法の精神系や妖術の一部は物理攻撃でないので素通ししてしまう。



では次回。

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