ようこそ!庶務課補佐代理第二支部奥付へ♪
闘う目的は会社の為かそれとも愛する家族の為か!
理由なんかどうでもいい!
名刺を持って戦え!
明日を生きるために………。
13時にクライアントと待ち合わせで現場に向かう僕の足を一枚のカードが停めた。
「飛び込み営業か!」
空から輝く物が見えた、バックステップで回避する。
カカカッと足元に三枚のカードが刺さる。
「……おいおい!アポは取らなきゃ駄目だろ?」
そんな僕の前に1人の戦士が立ち塞がる、手には先程地面に刺さったままのカードと同じサイズの物を両手に持ち真っ直ぐ腕を伸ばしている。
「おはようございます!生憎ワタシは飛び込みが得意なんですよ!」
「貴方のその姿勢嫌いでは無いですが認める訳には行かないんですよね!」
僕は懐から一枚のカードを取り出す。
真っ直ぐ飛び込む営業を紙一重で避けてすれ違い様に相手の背中にカードを突き立てた。
ネクタイを締め直すと地面に落ちた鞄を拾うと後ろで倒れる音がする。
「………せめて担当の名前だけでも。」
「背中のカードに僕の連絡先があります。次からはそちらからアポをとってください。では、お先に!」
男が最後に手にしたのは一見ただのカードに見えるが見事なまでの一刀彫の名刺だった。
サラリーマン…最前線で闘う戦士。
営業成績だけが競争社会で生きる希望。
持つ武器は名刺。
己を売り込み仕事を取る!
明日を生きる為に闘う戦士……その名はサラリーマン。
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皆さんは知ってますか?
童貞のままで三十路を迎えると魔法使いになれるって都市伝説。
でも、魔法が使えたら何がしたいですか?
大空を羽ばたきたいですか?
それとも富や名声に溺れたいですか?
意中のあの娘のハートを射止めたいですか?
急にどうしたとか言わないでくれ。
魔法使いになる条件って30才まで童貞が条件だろ?
僕はまだ20代前半だよ?
でも、僕の手にはエアメールがあるんだ。
それは、今日のお昼に立ち食い蕎麦屋でカツ丼を食べている僕に郵便配達人が『郵便でーす。』と届いたロリッコアイランド王朝からの謎のエアメール。
「ロリッコアイランドって何処の国籍だ?」
疑問は調べるより思い出すのが脳には良いのらしいが知らない事は思い出すことは出来ない。
しかし、どこを調べてもそんな島も国も県や市や町や村すらヒットすらしなかった。
仕方無いので手紙を読む……日本語翻訳ソフトを使ってるらしく所々おかしな単語が含まれてるが読めないことは無かった。
『――――親愛なる魔法使い候補の皆様。
突然の話で戸惑っている事とお悔やみ申し上げます。
明日は貴様の誕生birthday有ろう事ばっかりでご飯は食べる事でしょう。
今夜の0時は貴様を運ぶ車を手配。
あまり、グログロ動かさないで困るから居る場所に行くと待て。
魔法は貴方を歓迎しました。
ロリッコアイランド 魔法教会っ娘支部。』
「……………つまり、今夜の0時に僕がいる場所に車が来るから乗れと書いてあるみたいたな。だからグログロ動かさないでって何のことだ?」
遅くなったけど僕は、四紫朗入社3年目になる営業職だった……ほんの二時間前まではね。
今は、庶務課補佐代理第二支部奥付と謎の部署に配属になった。
「もはや何をして良いか解らない場所に配置されたな。」
庶務課補佐代理第二支部奥付は会社の地下2階に位置している。
光すら無い部屋にはまだ見ぬ課長とあと同僚の女子社員が1人の三人態勢でやってる部署だ。
「お昼終わりました。」
「ちょうど良かった。課長~新人帰ったよ。」
この人はこの部署の先輩社員の加島 柚希。名刺は配属直ぐに貰ったが役職には企業戦士とある……気のきいたジョーク名刺だ。
「新人。何処まで飯に行ったんだ?」
入口近くの応接スペースにあるソファから声だけ聞こえた。
「うほっ!」
「どうした新人!いい男でもいたか?」
「うわっ!誰です………か?」
無人のソファからムックリ起き上がったのは一見風俗に勤めるお姉さんと思えるほどのピンクのスーツを着た女性だった。
彼女はユックリと背伸びをするかのように立ち上がって振り返る。
ふらぁ~っ。
ピンクのスーツの女性はふらついた足取りでそのまま僕の胸に飛び込んできた。
「……何すんのよ………このスケベ!!!!」
気付くより先に地面は背中、目の前のピンクのスーツの真ん中には白い何かが見える………これは俗にいう生パンってやつだろうか?
どうやら僕は理不尽にも投げ飛ばされたようだ。
「ごめんなさい。私ったら気が動転してたわ。」
彼女は立ち上がるのを手伝ってくれたが、お礼を言うのはおかしい気がして僕は戸惑った。
「僕は四 紫朗です。本日から配属になりました。」
「……君は、エアメールを受け取ったのかね?」
「エアメール?今日の昼休みに手渡しで貰いましたが。」
「………なん……だと?」
目の前の女性は加島先輩に視線を合わせると首を縦に振る。
「その手紙………見せてくれないか?」
「見せるも何も日本語としては変ですよ?」
「それでも構わない!見せて欲しい。」
僕はピンクのスーツの女性に封筒を渡した。
――――よく見ると、なんて我儘ボディなんだ!
「……おい!加島これを見ろ!」
「課長~ど~したの~?」
封筒を受け取った加島先輩の目の色が変わった……気がする………多分。きっと。だろうか?
「課長!本物なのでしょうか?」
「信じられないが我が部署に魔法企業戦士っ娘が誕生するかも知れない!」
「すみません!何の話ですか?」
課長と呼ばれていたピンクのスーツの女性は僕を見る。
「四君だっけ?以前は何処に所属していた?」
「以前は営業二課 小鳥遊班でした。」
「……営業二課で間違いないな?」
「だったら何なんですか!」
すると、二人の女性は僕の身体を前と後ろに陣取り熱い視線を送ってきた。
「しかし!ワタシは信じられません。」
「営業二課は頭脳部門だから今回のケースもあり得なくはない。」
営業は会社の花形部署で一課から四課までで編成されている、そして各課によって得意分野が変わってくるのだ。
紫朗がいた二課の扱う物は企業用の会計ツールやDPS等を扱い社内ネットワークや会社間ネットワークを必要に応じて提案したり企画する頭脳系の部署だった。
その中でも小鳥遊班は、営業成績は長年トップを飾っている精鋭揃いの班で紫朗もその中で末端とはいえ他の班ならトップを取れるだけの成績は持っていた。
紫朗はその中で働ける事が誇りだったし、休日返上しても遣り甲斐のある仕事に不満は無かった。
それに小鳥遊班長は恩人でもあり、生きた教科書でもあった。
班長から教わった事は紫朗の自信に繋がったのだ。
「四君は今……スッゴい失礼な事考えてないでしょうね?」
「いいががりですよ課長。」
「小鳥遊は自由な時間を削って成績を作る謂わば動の営業……でもね、人間それだけでは駄目なのよ!」
「……なん………だと?」
小鳥遊班長の教え『営業道』では自社に居て売上は計上されることは無い!先ず外に出ろそこから世界は広がる。
それは動き続ける事が会社の為だと信じていた紫朗には課長の言葉はピントがズレている気がした。
「―――気がした。」
「って先輩何やってるんですか?」
「だって、四君は課長と仲良しだから淋しくてつい……。」
「そう怒るな。これが加島の能力『三分間スピーチ』なんだからさ。」
課長の隣で誇らしげにふんぞり反る加島先輩。
「そんなことより配属早々悪いが今日は業務終了だ!」
「課長♪やるんですね!やっちゃうんですね!」
「加島…待たせたな!そして、四君配属おめでとう。では行くか♪」
課長の掛け声とともに何処かに行くことになった。
「四君が来ないと始まらないじゃないか!」
「……何が始まるのですか?」
情報量で勝負は決まる。
それは、ホワイトカラーである僕の武器になる。
「君の歓迎会じゃないか!」
課長は振り返りながら笑顔で答えた。
「歓迎会?」
耳を疑った。
真っ昼間からしかも課業中に宴会を開く社員が居るとは常軌を逸している。
「四君は歓迎会を知らないんだな。これから闘う歓迎会…マラソン宴会を始める!」
「そうだぞ!四君は今夜から実習に出るんだから♪前祝い♪♪」
「実習ってなんですか?僕聞いてませんよ?」
話してる間に僕は課長と加島先輩に挟まれる形になっていた。
タイプの違う胸がそしてバストが左右から攻めてくるのは男として最高の常態だと思う。
「今更なんですが、課長の名前を聞いて無かったのですが……。」
「私の秘密を知りたいなんて……エッチなのね。」
腕に身体を預ける様にしながら顔を覗きこむアーモンド型の瞳が魅力的な課長は年上とは思えない可愛らしさだった。
用語解説。
ホワイトカラー:高卒以上の正規雇用の給与所得者を指し主にサラリーマンを意味する。対義語にブルーカラーがある。
サラリーマン:役職を持たない正規雇用社員の男性をサラリーマンと呼ぶ。タイプは体力系・頭脳系・魔法系がある。
OL:オフィスレディの略。正規雇用の女性職員を意味する。
企業戦士:正規雇用職員が最前線で闘う者の事を指す。同義語に首輪付きと呼ばれる事もある。