アビゲイルと友人達
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授業が終わり、
「ううう……」と机に突っ伏してあたしは唸り声を上げる。
謹慎明けの訛った状態に実技の訓練はなかなかこたえるものがあった。
「アビー、大丈夫」
心配気に声をかけてくるクレアに対し、
「平気……」
と応えるが、その声は自分でもあまり大丈夫そうには聞こえなかった。
それでも今日はこれで授業も訓練も終わりである。やっと一息といったところだ。ただし、あくまでそれは必修教科でこの後、各自に任された課外活動となる。
こちらの方は参加しなくてもさほど問題はないのだけれども、ほぼすべての生徒が何らかの活動に参加しており、かく言うあたしも警邏隊の業務を手伝わさせて貰っている。
ただ――
「ちょっと気が重いな」
あたしはそう言い、思わずため息をついてしまう。
すると何を思ってかクレアが
「重いのはおっぱいじゃなくて」
と言ってきた。
「いやいや、あたしは普通だから」
あたしがそう否定する。しかし、クレアは何やら納得行かない表情で、
「それはボクをバカにしているのかい?」
と、無茶ぶり。
「何でそんな風になるの。クレアも普通の範囲でしょ」
「範囲……」
あたしが呆れながら言うと、クレアはなにか言いたげにそう口にする。
「だいたい大きいっていうのはアニスみたいな人のことでしょ」
「いや、あれはもうこの世の摂理から外れているから、おかしいから、あっちゃいけないことだから」
「うーん。そこまで言うほどかなぁ。あのくらいならいく人はいくと思うけどな。
あたしなんかあまり大きくなると邪魔だろうからって大きくならないようちょっと調整してみたぐらいだしね」
「アビー……今の発言でどれだけのかわいそうな女の子を敵に回したか気づいているかい」
「?」
クレアの恨めしげな発言にあたしは首を傾げるしかなかった。あたしの地元ではこのくらいが普通だったし、アニスくらいの人も割といて現にあたしのお母さんや姉さんもそうだ。何かと邪魔そうにしていたので睡眠時間と胸の大きさの関係を聞いたあたしは睡眠時間を減らし、何とか大きすぎる事態は避けたのである。
「そうじゃなくて、上手く言えないけど、なんか行きたくないの」
冗談は置いておいてあたしは胸の内をクレアに伝える。
行かなきゃとも思うし、やる気もあるのだけどどうにも憂鬱なのだ。
「まあ、アビーの人とは思えない調整した発言については後で徹底的に話し合うとして」
「いや、あたし何か悪いこと言った?」
「これは重傷だ。今晩は徹夜だな。
まあ、とにかくアビーの常識のない発言については夜に回すとして、アビーがやる気ないなんて珍しいね。久しぶりの訓練で疲れてるんじゃない」
「フラフラなのはいつもかな……いつも気の持ちようで何とかしている感じだし、訓練に比べたらこっちの方は割と平気だしね」
それにまがりなりにも警邏隊の任務の一部を手伝わせてもらっているわけだ。あまり無様な姿は見せられない。
「そうじゃなくて、この間、手伝っているにもかかわらず、ああいう風にお世話になっちゃったでしょ
ちょっと気まずくてね」
「なるほどねぇ。まあ、立場もあるから厳しく言われたのかもね。
でも、マリウスさんとかイーガさんとかどちらかというとアビーのこと誉めてたよ。見直したって
「そうなの?」
あたしは思わず、一オクターブ上がった声で聞き返してしまった。
「まさか、あのイーガ先輩がねぇ……」
イーガ先輩というのはあたしやクレアと同じく警邏隊の見回り任務に参加している一年上の先輩なのだけど、どうにも考えかたからなにからなにまで、あたしには合わず、なにかとめんどくさい存在なのだ。その上に学生の中では割と優秀なので正規の警邏隊の隊員受けもいいのだ。
「それじゃあ、まあ、行きますか」
イヤミの一つでも言われるのではないかと憂鬱であったのだが、そういうことならば話は違ってくる。先日のことでバツは悪くはあるのだが、仮に針のむしろだったとしても、もともと悪いのはあたしだ。いつも以上にがんばって汚名返上と行こう。
詰め所の分室の一つに着き、あたしたちは着替える。
と、言っても支給されている腕章とベレー帽をかぶり、連絡用の機材を身につけるだけだ。元々騎士学校の生徒は(ここ何年かはそんなことは起きていないが)有事の際には戦場に立たねばならない。そのため騎士学校の制服には実戦にそのまま出られるだけの耐魔、耐刃処理などが施されている。
まあ、最もそれも活動の中で活かされることはめったにない。
基本的にあたしたちがやるのは治安の良い地区の交通整理や道案内などだからだ。警邏隊の任務の中には治安の宜しくない地区のパトロールや刑事隊の任務に協力し、何らかの事件の犯人を追い詰めることも含まれる。しかし、さすがに学生であるあたし達がそれらの任務に加わることはないし、仮にあっても本当に後方支援という取り決めがあるのだ。
あたしは旗を持って、そのことを少し残念に思いながら、黙々と交通整理をする。
ウィンディス市民の足は基本的に自転車と魔導機関を積んだ列車やバスである。少し前までは馬車もよく走っていたようではあるが、ここ数年の技術の発展と馬の餌や糞尿の問題から、バスや列車と言った交通インフラに力が入れられた。また、比較的裕福な人達の中には自家用の車を導入する人達も増えてきた。その為、交通についてはある程度ルール作りはされている。
しかし、一方で、それにはまだまだ十分に浸透していない部分や補い切れていない部分がある。魔導機関を積んだ乗り物の運転をするための免許を取る際にルールやマナーについて学ぶはずなのだが、特に自家用の乗り物の所有者には変な選民意識があるのかそれらを破る者が少なくない。そういった人達を取り締まり交通の混乱を防ぐのも警邏隊の任務の一部で、その一端をあたし達は任してもらっているのだ。
さて、交通の整理と言ってもただ単調に旗を振っていればいいと言うわけではない。
あたしは道行く人々の行動を観察する。
スリなどが行われていないか?
怪しい人間はいないか?
……まあ、滅多に問題らしい問題は起こらず、道に迷った人を案内したりするくらいだ。職務質問のようなことをすることもあり、時々挙動不審な人や妙に威張り腐った人もいてトラブルめいたこともあるが大事になることはない。
そんな感じであたし達が仕事をしていると遠くから大きな楽器の音と怒声のようなものが聞こえてきた。
「エメラルディアの陰謀にだまされるな」
「売国奴どもに鉄槌をくだすため、我々は立ち上がらなければならない」
「王を、我らが王をそそのかし、この国を乗っとろうとする輩からお救いするのだ」
内容を聞くからにどうにもどうにもエメラルディアとの和平に反対のする人達のようだ。
周囲の人が顔をしかめたり、目を合わせないようにするなどしているにもかかわらずお構いなしに騒音を撒き散らしていて迷惑この上ない。
もし、休戦となっているにもかかわらずエメラルディアがフローライティアにちょっかいをかけてきておるのであれば、彼らの言い分も(騒音であることは変わりないとはいえ)多少は理解できる。けれども、現在、両国間に大きな問題はなく、観光などによる一般人の渡航はないとは言え、一部の、王家に認められた企業の人達は海を渡り、エメラルディアと貿易も行っている。
そして今度の和平で、誰でもちょっとした手続きをするだけで自由にお互いの国を行き来できるようになるのだ。
このまま和平が成立してくれたら、エメラルディアに一度行ってみたいと思う。お金はたくさんかかってしまうだろうが、やはり一度行って、どんな人達がどんな町に住んでいてどんな食べ物を食べて、どんな音楽を聞いて、どんな風に暮らしているか知りたいと思う。また、許されるならばエメラルディアに留学して、彼女らの魔術も習ってみたい。
しかし、今回の和平がダメになったら、(まあ、金銭的事情からもともとすぐは行けないのだけれど、)一生その機会は失われてしまうかもしれない。
だから和平の反対する彼らの存在はそういった意味でも迷惑だと思う。そして人波を押しのけ、威嚇するように行進する彼らの存在はあたしにとっては嫌悪の対象でしかない。
ただ、どうしたものかと思うとあたしはため息をつくしかできない。
エメラルディアとの和平に反対する運動は騎士団の人間を中心に行われていることがほとんどなのだ。
うるさいからとか通行の邪魔になっているからなど言っても、まだ騎士学校の一年目、つまり、騎士団という縦社会の一番底辺のあたしが何か言ったところで、立場を利用されて強引に和平への反対活動を認めさせられるのは目に見えている。
また、手に負えないような問題が起きた時はあたし達を指導してくれている警邏隊の正規のメンバーに報告することになっているが、この件に関しては動いてくれたためしがない。
「おい、アビー。どうした、ぼーっとしているな」
あたしがデモ隊の方を見ていると、イーガ先輩が気安げな調子なのにどこか威圧的に言ってきた。
「すみません。いくらなんでもあれは他の人の邪魔になっているなと思いまして」
あたしはそう言い、パレードのようにグルグルと動き出したデモ隊を指さした。
「ああ。熱心なのはいいが、さすがにあれは邪魔になるな――しかし、それならば注意しにいけばいいだろ?」
「そう言われましても……」
あたしは口ごもる。
何とか出来るものならどうにかしたいし、そもそもそれがあたし達の役目だ。しかし、あたしではどうにもならない。
「なら、俺が行こう」
あたしが心の中でため息をついていると、彼は不愉快そうにそう言いデモ隊の方に向かって行った。そしてデモ隊の参加者の一人を捕まえて、中心メンバーのところまで案内させ、なにやら話し込んで戻ってくる。
そして
「見ろ。話せば分かるだろう」
と、得意げに言い。周りの状況などそっちのけ、交通整理の役目のことなどすっかり忘れて何やらあたしに説教し出す。
「騎士として(云々)」
「責任(云々)」
「誠心誠意、話せばわかりあえる」
本当にそうならば誰も苦労はしない。いがみ合い憎しみ合いが起きてもすぐに解決する。
話して分かるならば、あたしだって注意ぐらいしに行った。実際、数週間前、同じようにデモ活動の行き過ぎた行動を注意しに行ったのだけど、囲まれ、女であることやまだ一年であることを理由に馬鹿にされ、罵られてどうにもならなかったのだ。
「それはそうと次の休みは空いているか?」
「なにかあるのですか」
「質問に……」
「すみません。その日は友人と約束しています」
何となく嫌な予感を感じてあたしはとっさに予定をでっち上げる。
しかし、それにしても質問で返されたくないのならば趣旨の見えない質問はしないで欲しいものである。
「そうか。次の休みに彼らが主催する講演会がウィンディス第四聖堂前であると聞いてな。
かのエメラルディアがいかに非道な国か知るに良い機会かと思ったんだが……」
残念そうに言うイーガ先輩。
彼らというのは反エメラルディアの人たちのことだろう。とりあえず、その日は間違っても第四聖堂。いやいや、聖堂地区には近づかないようにしようと思います。
「そうだ。もし、良かったら、その友人を誘ってみるのはどうだ」
「そうですね。考えておきます」
もっとも、考えるまでもなく答えは出ている。
答えがでていることについて「考える」と言って一瞬でも考えてあげる優しい時代はすでに過去のものなのである。多分、十数年前
まあ、まじめな話。行くだけ無駄なのである。
確かにモリガン一世の頃のエメラルディアが周囲の国に侵略戦争をふっかけて領土拡大をしていたのは事実なのだが、侵略された国の大半の国はエメラルディアからの魔導技術の導入により、各種技術や生活のレベルは侵略以前によりも大きく向上した国が大半と聞く。それ故にむしろ自らエメラルディアの軍門に降ろうとした国も出てきたぐらいだという話だ。そしてまた、モリガンニ世が国を引き継いでからは、先代が行っていたような苛烈な侵略行為は無くなり、なかなか居心地のいい国となっているらしい。
対してあたしたちの国フローライティアはどうだろうか?
名目こそとエメラルディアに侵略される国への支援であったが、その実態は軍事支援を口実にその国の土地を借りるという名目で、実際には奪ったり、魔導技術の共有と理由づけて一方的に研究内容を奪ったり、より詳しい研究のためと成果そのものの権利を奪うこともあったそうだ。
この辺のことはジュニアスクールの頃にちょっと調べた限りなのだが、我が国のことながらなかなかひどいもんである。
まあ、ここ数年はうちの国の動向も大人しいし、他の国も特に何か言ってくる風もないので、このまま当たり障りなくうやむやのままであってくれればなと思う。我ながらろくでもない感想ではあるが。
「あれ。ひょっとしてアビー?」
「はい」
ふいに聞き覚えのあるような無いような、声で呼び止められ、あたしは返事をする。その時、出た声は少し間抜けだったかもしれない。
振り向くと二人の少女。片方は見知った顔で、もう一人は誰だか分からないがフードを被ったシスターが立っていた。声の主はシスターの方なのだがあいにくシスターに知り合いはいない。
「お。やっぱりアビーだ。久しぶりだねぇ」
あたしが戸惑っていると今度は知った顔の方が声をかけてきた。
「謹慎食らったんだってアニスから聞いたんだけど、原因はやっぱり居眠り?」
「うんうん。アビーならありえる。何せ寝たことがない教科はなかったよね」
「その割には何かと上手くごまかしていたのわよねぇ」
「アビーは何気に黒いからね」
なにやら楽しげに失礼なことを言う彼女達。それに美術の授業だけはさすがのあたしも寝なかったぞ。
いや、そんなことは置いておいて。
「いや、レジーには先々週会ったと思うんだけど」
シスターのほうが誰だかわからないので、とりあえずあたしは顔見知りのレジーこと、レジーナに話しかける。
「酷いな。ミドルスクールの頃は毎日愛し合った仲なのに。おねぇちゃん、悲しいよ。二週間もあっていないのにこの物言い」
「あー、はいはい」
わざとらしい嘘泣きを始めた彼女にあたしは適当に相槌を打つ。ちなみに彼女とはジュニア時代から友人で同じ年なのだが、まあ、反応だ。
「おー、よしよし」
と、わざとらしく言いながら、レジーナの頭をなでるシスターを半目であたしは見ながらふと思い出し、
「あれ?ひょっとして、あなた、ミニョ?」
と問いかけた。
「うん。そうだよ。アビー、改めて、おひさ~」
クルッと陽気に回って応える「ミニョ」ことミニョン。
「おひさ~って、どうしちゃったの?シスターのコスプレなんてしちゃって」
「いや、ちょっとカミサマのコエをキキマシテって言ったら信じる?」
「新しい悪さを思いついたと思うかな。自首するなら詰め所までつきあうけど?」
「ヒドいな。ユウジンをアビーはナンダト思ッテイルンダロウ」
「ヤダナー。ダイジニタイセツニオモッテイルヨ」
そう互いに言うと互いに張り付けたような笑みをあたし達は浮べ合う。
しかし、ミニョはすぐにふざけた調子を一転させ、
「まあ、家のことで色々あってね。まとめてなんとかするのには修道院はいるのが手っ取り早かったから出家しちゃったの」
と、声だけは明るく言う。
「特に親が勝手に決めてきた縁談があってね。あたし一人じゃどうにもならなかったんだ」
「そうなんだ」
そういえば昔「愛のない結婚なんて身売りと同じ。死んだ方がましだね」とミニョは言っていたっけと思ったが……ただ、出家を決めた時の彼女の気持ちは相当辛いものだっただろう。彼女は特に父親のことを目標にしていて、将来手伝いたいと彼の事業について、学校の勉強そっちのけで勉強していた。また、ミドルスクールの頃から気の早いことに彼女は見合いを親からさせられていたとはいえ、「もし、惚れちゃったらそれも縁だよね」なんて言ったりして親のことを信頼していて、さすがに無理に結婚をさせられているようには思っていなかったようだ。
「ところでアビーも今度の休み空いている?」
レジーが聞いてきた。
「うん。空いてるよ」
「いいね。まさか、ミニョもこっちに来ているとは思わなかったからね」
「あたしもまさかこんなになるとはね。今頃、地元の普通科に通いつつ面白おかしく暮らしているつもりだったんだけど」
「アビー。アニスとあんたの同室のクレアだっけ?二人も誘っておいてよ。オススメのカフェがあるんだ」
「へぇ、そうなんだ」
「ええ。時計台って喫茶店あったでしょ?あそこから豆仕入れているらしくてあたしのここ最近のお気に入り」
「いいね。それは行ってみたいかも」
あたしはそう答えた。あたしはコーヒーよりも紅茶の方が好きなのだけど、たまにコーヒーを飲むのも悪く無いと利用していた。
「むふふふー。やっぱりでかいパフェはあるかなぁ……
修道院のごはんって本当にちょっとでさ。食べたって気がしないんだよね。ダイエットには良いんだけどね」
そう言うとミニョは「はぁ」とため息をつく。
「パフェはないけど美味しいチーズケーキならあるわよ」
「でっかいの?」
「大きくはないけどおいしいわよ」
「むむむむ……育ち盛りのあたしとしては久しぶりに栄養をちゃんととれると思ったのだけど、それはちょっと残念」
「でも、デザートなら量より質じゃないかな?ねえ、レジー。ランチとかはどうなの?」
「そちらも期待して良いわよ。銅貨数枚でお腹いっぱい食べれるわよ。ステーキとかもおいしいの」
「おおー、ステーキ!って、あたしは戒律で食べれない」
ミニョはがっくりと肩を落とす。
「そうなんだ」
「アビーが他人事だからって冷たいよ」
「アビーが冷たいなんて今に始まったことじゃないでしょう」
……二人のほうがひどいと思う。ちょっと相づちを打っただけなのになんだろうこの扱いは?
いつものことだから馴れているけど、少し傷つく。
「しかし、昔から分からないのよね。安全なんだから食べたっていいだろうに戒律で食べないって」
「まあ、それはあたしも同意見だけどね。上の人等が色々うるさいのよ」
「でも、ミニョらしくないわよね」
「だよね」
レジーの言葉にあたしは同意する。
「いつものミニョなら隠れて食べてそうな気がするのに。ずいぶん変わったような?」
「うーん」
あたし達の言葉にミニョはなにやら複雑な表情を浮かべ、
「前に一度ね。こっそり食べたんだけど、その後、浄化のためとか言われて飲まされた雑草ジュースの味がね……うん。二度と思い出したくないかな。アビーのオリジナルブレンドのハーブティーよりもまずいって言えばレジーには何割か理解してもらえるかな?」
「え!?あれよりも」
ミニョの言葉に驚愕の表情を浮かべるレジー。
なんかまたヒドいことを言われた気がする。
「そっか、でも、魚は平気だったわよね?」
「そう。割と重要な逸話へのこじつけのせいでお肉はだめだけど、魚は平気だよ」
「だったら安心して魚料理もおいしくて、エスカベッシュとか白身魚のバターレモンソースとかもおいしいから楽しみにしていて」
「そうなんだ。それじゃあ、今度の休みはがっつり食べるぞー」
レジーの言葉にミニョが明るく返す。あたしもなんだか楽しい気分になってうきうきしてきた。
「楽しみだなぁ」
しかし、そんなあたしの幸せな気分を壊す野太い声があたしの背後から聞こえてきた。
「任務をサボって随分と楽しそうじゃないか、アビゲイル・テネブライ?」
イーガ先輩である。
「それはそうと次の休みの集会、行かないとは言わないよな?」
こうしてあたしは権力に屈し、行きたくもない和平反対者達の集会に行く羽目となったのである。
……あたしは和平賛成なんですけどねぇ。はあ、やれやれ、あたしのバカ。