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限界
プロローグ。
どうしたらいいのかわからなくて。
考えないようにしていた。
一人きりのときは頭を真っ白にして。
会社にいるときは仕事に没頭する。
考える暇なんて与えない。
あの時、俺は不安定だった。
彼女と過ごしたときと同じ夜風が肌をなでたから。
コンビニの袋の音がしたから振り返った。
義兄が部屋の、廊下の光の中に立っていた。
「なんだ、来ていたんですか」
「鍵がかかっていなかった」
「あれ、おかしいな。すみません。今度から気を付けます」
「良介、あまり無理をするな」
そのとき、何かがおかしくなった気がした。
「無理じゃないですよ」
笑おうとした。
「俺は、大丈夫です」
「――」
あの人は泣いた。
もう、嘘は利かなかった。
『肌をなでる風』の『裏話』第4弾です。
これだけでも、たぶんいけます!
よろしくお願いします。