第45話「貴子の暗躍」
時事ネタ?社会風刺?いずれにしろ、この作品はフィクションであり、実在の企業・団体・個人とは一切関係ありません。キリッ
大変申し訳ありません。42話が抜けてました。以降順次スライドします。 7/27 19:30
2026年4月8日。永田町。
佐藤貴子の執務室。
橘慎一郎が入ってきた。
「佐藤さん、少し時間があるか」
「あります」
橘が椅子に座った。
「国民が混乱している」
「そうですね」貴子は静かに言った。「09式対空管制車両200両、はやぶさ改50隻。予算に入ったはいいけど、誰も中身を知らない」
「知らせる必要がある」
「政府からは言えませんね」
「そうだ」
貴子が橘を見た。
「どうしますか」
橘は立ち上がった。
机の上に、書類を一枚置いた。
「忘れ物だ」
橘が部屋を出た。
貴子は書類を見た。
09式の概念図だった。
その下に、はやぶさ改の仕様書の一部があった。
貴子は少し笑った。
「うっかりしてますね、橘さんは」
翌日。
貴子はスマートフォンを持って、永田町のカフェに入った。
向かいに座ったのは三十代の男だった。
チャンネル登録者五十万人の軍事系YouTuber。
「防衛省ウォッチャー」という名前で活動していた。普段は真面目な装備解説で知られていた。
「お時間いただいてありがとうございます」男が言った。
「こちらこそ」貴子は静かに言った。「いつも拝見しています。先日の護衛艦の解説、よかったです」
「ありがとうございます。今日はどんなお話ですか」
貴子はコーヒーを一口飲んだ。
「最近、09式対空管制車両という名前が予算に出てきましたね」
「はい。調べようとしたんですが、情報が全然なくて」
「そうですね」貴子は静かに言った。「防衛省に問い合わせても『お答えできません』でしょうし」
「そうなんです」
貴子はバッグから封筒を出した。
「これ、うちの事務所に届いた資料なんですが——」貴子は封筒を見た。「差出人が書いていなくて。どう処理しようか困っていたんです」
「見てもいいですか」
「私には判断できないので、詳しい方に見ていただこうと思って」
男が封筒を開いた。
09式の概念図が出てきた。
はやぶさ改の仕様書の一部が出てきた。
男の目が変わった。
「これは——」
「私には専門的なことは分かりません」貴子は静かに言った。「でも、国民が知る権利はあると思って」
男は資料を見たままだった。
「使っていいですか」
「差出人不明の資料をどう扱うかは、あなたの判断です」
貴子は立ち上がった。
「コーヒー、美味しかったです」
二日後。
「防衛省ウォッチャー」のYouTubeチャンネルに動画が上がった。
タイトル:「【緊急解説】09式対空管制車両とはやぶさ改——日本が密かに進めていた防衛力整備の全貌」
サムネイルに09式の概念図が映っていた。
動画の冒頭。
「みなさん、こんにちは。防衛省ウォッチャーです。今日は緊急解説です。先日の予算に突然登場した09式対空管制車両とはやぶさ改について、入手した資料をもとに解説します」
「まず09式対空管制車両ですが——これ、名前に騙されてはいけません。移動式レーダーの補助車両という説明でしたが、実態を見てください」
概念図が映った。
「35mm機関砲が載っています。さらに——短距離対空ミサイルのキャニスターが後部に搭載されています。しかもAESAレーダーまで統合されている。これ、レーダーの補助車両じゃなくて——」
男が少し間を置いた。
「世界最高水準の複合対空システムです」
「さらに——」男が声を落とした。
「搭載されているキャニスターですが、11式短距離地対空誘導弾かと思いきや——資料をよく見ると違います。三菱重工がSM-3 Block IIAの技術を転用して開発した新型BMDキャニスターです」
「SM-3といえば弾道ミサイル迎撃ミサイルです。その技術を09式サイズに収めた——つまりこれ、移動式の弾道ミサイル防衛システムでもあります」
「大泉防衛大臣が『自衛手段は持っています』と三回繰り返した理由、これで全部分かりましたね」
「次にはやぶさ改——500トン型の高速艇です。主機はLM2500ガスタービン。最大速力50ノット超。これ、ただの巡視艇じゃないです」
「短距離SAMを4連、対艦ミサイルを2連搭載できる仕様になっています。50隻を国内配備する計画です。さらに——」
男が声を落とした。
「情報によると、海外拠点への展開も視野に入っているようです」
動画は投稿から六時間で百万回再生を超えた。
コメント欄が爆発した。
「マジか。日本こんなもの作ってたのか」
「大泉の『自衛手段は持っています』の意味がやっと分かったw」
「レーダーの補助車両とはwww」
「これ、中国が輸出規制した理由じゃないか」
「与那国と尖閣、これで守れる」
貴子の執務室。
貴子はモニターで再生数を確認していた。
百二十万回。
スマートフォンが震えた。
橘からだった。
「忘れ物、見つかったか」
貴子は少し笑った。
「さあ、誰かが拾ってくれたようです」
「そうか」
「百二十万回再生です」
しばらく間があった。
「止まらないな」
「止まりません」
電話が切れた。
貴子はモニターを見たままだった。
コメント欄がまだ流れていた。
「日本、やるじゃないか」
「中国が焦るはずだ」
「防衛費9兆円、文句なしだ」
貴子は小さく頷いた。
情報は隠すより、見せたいものだけ見せる方が効く。
それが広報畑で学んだことだった。
スマートフォンを置いた。
コーヒーを一口飲んだ。
冷めていた。
「橘さんと同じ飲み方になってきたな」
誰もいない執務室で、貴子は小さく笑った。
同じ時刻。永田町。望月邦彦の事務所。
秘書が入ってきた。
「望月さん、YouTubeで09式の動画が百万回再生を超えています」
望月は新聞から目を離さなかった。
「誰がやった」
「貴子ちゃんではないかと——」
望月が新聞をめくった。
「また貴子ちゃんか」
「またです」
「橘君と組ませたのは正解だったな」
秘書が頷いた。
「事務所でも『貴子ちゃん』で通ってますから」
望月が少し笑った。
「そうだな。貴子ちゃんでいい」




