第162話「崩壊」
時事ネタ?社会風刺?いずれにしろ、この作品はフィクションであり、実在の企業・団体・個人とは一切関係ありません。キリッ
2030年11月。
南シナ海。第二艦隊。
かぐつちの艦橋から黒田が命じた。
「発艦開始」
すさのおの電磁カタパルトが唸った。T-5FCが次々と射出された。いざなみからZ-1FCの群れが飛び立った。
MAGIが全機に目標を割り当てた。
海南島南方。楡林海軍基地。
鬼頭班の隊員が稜線からレーザーを照射した。
誘導爆弾がレーザーに吸い込まれた。
格納庫が崩壊した。ドックが炎上した。停泊中の潜水艦に直撃弾が入った。
龍坡海軍基地も同様だった。Z-1FCの群れが対艦ミサイルを放った。岸壁に係留された艦艇が次々と爆発した。
広東省。湛江海軍基地。
南海艦隊司令部だった。
鬼頭班の別動隊が市内の高台からレーザーを照射した。
T-5FCの第8飛行中隊が降下した。精密誘導爆弾が次々と落ちた。
司令部庁舎が崩れた。ドックが炎上した。停泊中の艦艇が沈み始めた。
東沙島。
「ASM-3、発射」
対艦ミサイルが飛んだ。東沙島の滑走路に連続して着弾した。コンクリートが砕けた。
続いてT-5FCが爆撃に移った。Z-1FCが後続した。
滑走路の30%が崩れ、海に落ちていった。
中国が埋め立てて作った島が、もとのサンゴ礁と2つの小島に戻っていった。
「東沙島、無効化完了」とMAGIが記録した。
香港沖150キロ。
「大型艦艇、2隻。空母と確認。山東・福建です」
「確認した」と黒田は言った。「射程に入ったら撃て」
かぐつちが前に出た。あめのかがみ、あめのひなどり、かなやまひこ、さむかわひこ、たけはづち、やましろひこが続いた。
「砲撃開始」
レールガンが火を噴いた。
弾丸が音速の7倍で飛んだ。
山東の艦橋に命中した。鋼鉄が蒸発した。
次弾が飛行甲板に入った。格納庫に入った。また格納庫に入った。
甲板がスポンジのようにへこんでいった。
「喫水下を狙え」と黒田は言った。
弾丸が喫水線下の船体に入り始めた。海水が入った。
山東がゆっくりと傾いた。
福建にも同様の砲撃が続いた。
2隻がゆっくりと、静かに沈んでいった。
北京。中南海。
「日本が海兵勢力を揚陸したようです。機動旅団のようで展開が早い。宜蘭攻略部隊は劣勢です。銃砲を持たない部隊が山から打ち下ろしてくる形になっています」
「東海艦隊の潜水艦は」
「すでに70%が消息不明です。やつらは潜水艦の位置が分かっているようで——手に負えません」
「SOSUSラインで常時監視していたということか」と別の幹部が言った。
「浮橋は橋上に部隊が乗るたびに攻撃を受けています。補充の艦も間もなく尽きます」
「那覇、馬毛島、築城へのミサイル攻撃をもっと増やせ」
「戦術核を打ち込んでは」
総書記が振り向いた。
「馬鹿か。ロシアを見ていなかったのか。それをやったら終わりだ」
「我々は中華4000年の歴史を守らなくてはならん。戦略核・戦術核部隊の統制を強めろ。何があっても使用してはならん」
「了解しました」
「人民解放軍の士気が非常に低下しています。福州では政治局員による敵前逃亡への銃殺が増えており、一部情報は民衆にも漏れているようです」
「はやく台北を抑えるのだ。FEPAの第二艦隊が行方不明だ。時間は敵に味方するぞ」
「東海艦隊に那覇・奄美を攻撃させますか」
「許可する」
台湾。台北郊外。
「こちらは砲が届かない。周辺の山から打ち下ろされている」
「中隊が吹き飛ばされた。再先任は曹長だそうだ」
「とにかく迫撃砲で煙幕を打ちまくれ。一旦下がるぞ」
東海艦隊。旗艦。
「補給中の艦も出撃を命令していますが、将兵が集まりません。今出港できている艦で再編して那覇を目指しましょう。いざとなれば遼寧が盾になりますよ」
「遼寧が沈められたら儂は物理的に首だよ」と司令官が言った。「自衛艦隊の位置は分かっているのか」
「ほぼ全艦がステルス艦ですから、おおよその位置しか分かりません。北斗が使えないので密集して移動する必要があります」
「我が海軍なんぞ、北斗がなかったらどこに向かっても不思議ではないぞ。泳げないやつの方が多いくらいの航法音痴揃いだ」
「ですが、出ないわけには……」
「分かっている。目視距離での艦隊行動とする。衝突に注意させろ」
北京。中南海。再び。
「南海艦隊の基地が攻撃を受けています。東沙島は水没し、湛江の本部は全て使用不能です。それと……」
「それとなんだ」
「空母機動艦隊と連絡が取れません。福建・山東共にです」
「なんだと?」
「敵の航空機は全て第六世代機です。レーダーに映らないんです。J-20で稼働可能なのは1桁で、それ以外の機は落とされる前に任務を達成できるかどうかのレベルで——空軍基地でもボイコットが始まっており、政治将校による銃殺と政治将校の殺害が急速に増しています」
「FEPAが来たのか。日本軍はそんな余裕はないだろう」
「少なくとも10日ほど前には黒海で確認されています」
「ならまだ早い。一部の小艦艇だけかもしれん。パキスタンに領空監視を徹底させろ。ステルスは無理でも給油機は探知できるだろう」
中国。各地。
官製メディアは勝利を伝え続けていた。
「人民解放軍は台湾解放作戦において輝かしい戦果を挙げています——」
上海。ある夫婦のアパート。
母親がスマートフォンを握りしめていた。
息子から最後にメッセージが届いたのは11日前だった。
「元気にしてる。心配しないで」
それ以来、既読がつかなかった。
息子は一人だった。
WeChat。非公開グループ。
「台湾に行った息子と連絡が取れません。同じ方いますか」
翌朝、返信が127件あった。
「うちも9日間連絡なし」
「夫が福建省の部隊にいます。基地に電話しても取り次いでもらえません」
「一人っ子なんです。他に子供はいないんです」
微博。
投稿が次々と削除されていた。しかし削除より速く広がった。
「【拡散希望】台湾派遣部隊員の家族へ。情報を共有しましょう」
1時間で3万件リツイートされた後、アカウントが凍結された。
別のアカウントが同じ内容を投稿した。また凍結された。
また別のアカウントが立ち上がった。
WeChat。別のグループ。
「公式発表の戦死者数:47名」
「でも私の市だけで帰ってこない子が23人いる」
「うちの市も20人以上」
「47人という数字はおかしい」
「台湾軍の戦死者はニュースで出てる。それでも我々より少ない」
「つまり、台湾を守った側より、台湾を攻めた側の方が多く死んでいる」
「消されるから気をつけて」
「消えてもいい。息子のために書く」
広州。
一人の男性が路上に立っていた。
手に紙を持っていた。
「息子を返してください」と書いてあった。
警察が来た。男性が連行された。
しかし立ち止まった人々の何人かがスマートフォンを向けていた。
北京。ある団地。
玄関に白い菊の花が置かれていた。
隣の家も。その隣も。
団地の廊下が、白い花で埋まっていた。
誰も何も言わなかった。ただ花を置いた。




