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第156話「撤退」

時事ネタ?社会風刺?いずれにしろ、この作品はフィクションであり、実在の企業・団体・個人とは一切関係ありません。キリッ


2030年11月。韓国デフォルト宣言から12時間後。


 ソウル。


 銀行のシャッターが降りていた。全店舗。全支店。


 ATMは電源が落ちていた。画面は真っ暗だった。


 スマートフォンの決済アプリが「サービスを一時停止しています」と表示していた。カカオペイもサムスンペイも同じだった。クレジットカードの端末も動かなかった。


 証券会社のアプリを開いた男性が画面を見つめていた。保有していた国内株の評価額がゼロになっていた。米国株のETFも持っていたが、国内証券会社経由の口座ごと凍結されていた。技術的にはどこかに存在するはずの資産だった。しかしアクセスする手段がなかった。


 スーパーマーケットに並んでいた人々が、レジで止まっていた。


「カードは使えません。電子マネーも使えません」


「現金で」


「ウォンは受け取れません」


「なぜ」


「価値がないからです。ドルかユーロか円があれば」


 列が崩れた。




 ソウル北方。


 砲声が聞こえた。


 遠かった。しかし聞こえた。


 北朝鮮の砲兵が動いていた。弾道ミサイルも戦闘機も枯渇していた。しかし砲兵は残っていた。38度線に沿って1万門以上が並んでいた。それは変わっていなかった。


 最初の着弾から15分後、ソウル全域でパニックが始まった。


 地下鉄の入口に人が殺到した。しかしICカードは使えなかった。改札が開かなかった。




 龍山。米韓連合軍司令部。


 在韓米軍司令官が電話をしていた。


「退避命令が出ました。全要員、日本への移動を開始します」


「韓国側との調整は」


「……現在、韓国政府の指揮機能が著しく低下しています。通告のみで行います」


 輸送機が次々と離陸した。




 東京。首相官邸。


 高道香苗総理は報告を受けた。


「在韓邦人は」


「推定1万8千人です。ソウル周辺に集中しています」


「救出機を飛ばしてください」


「韓国政府への事前通告は——」


「します。了解は待ちません。水原以南の空港を使わせてください、と伝えるだけです。飛ばします」


 政府専用機2機とC-2輸送機20機が羽田と小牧を離陸した。


 水原空港。金海空港。大邱空港。


 次々と着陸した。


 領事館のスタッフが大声で呼びかけた。


「日本国籍の方、政府の救出機が来ています。荷物は最小限にしてください。並んでください」


 日本人が走ってきた。一部に家族連れの外国人も混じっていた。


「日本国籍以外の方は確認が必要です。並んでください」




 対馬。厳原。


 市の臨時施設に難民キャンプが設置された。


 C-2が着陸するたびに人が降りてきた。入国審査官が一人ひとりの身元を確認した。


「パスポートを見せてください」


「なくしました」


「他に身分証明になるものは」


 列は長かった。しかし審査は続いた。


 審査をパスした人間のみ、成田へのフライトに乗ることができた。審査を通過できなかった人間は対馬に留まった。食事と医療は提供された。ただし国内への移動はできなかった。




 成田空港。第3ターミナル。


 臨時の区画が設置された。


 米国大使館の出張窓口。英国大使館の出張窓口。インド大使館の出張窓口——在日各国大使館が出張所を開いた。


「パスポートをお持ちですか」


「米国籍です。これが証明書です」


「こちらへどうぞ。帰国便の手配をします」


 韓国を脱出してきた外国人が、それぞれの国籍地へ送還されていった。





 東京。防衛省。


 城島剛一が橘慎一郎に電話した。


「アスタコシリーズの派遣許可をお願いしたい。技本が仕上げた最新型です。AI自律制御で——」


「不可です」と橘は静かに言った。


「しかし朝鮮半島の状況では——」


「城島さん。日本がAI自律型致死兵器を世界で初めて実戦投入する国になるわけにいきません」


「……AESAの轍、ということですか」


「それだけではありません」と橘は言った。「一度使えば、他の国も使い始めます。その議論を日本が先に開いてはならない。アスタコシリーズは今は眠らせておいてください」


「では西普連に何を持たせますか」


「タココを。有人遠隔操作の範囲内です。後方支援にドールIとドールNを許可します」


「ドールNは医療支援専用ですが——」


「それが後方支援です。戦闘支援ではありません」




 西部方面普通科連隊。長崎。


 出動準備が始まった。タココが積み込まれた。ドールIが梱包された。白い外装に赤十字のマークを持つドールNが並んだ。


「ドールNは初めて見た」と隊員が言った。


「手術もできるらしい」と隣が答えた。


「戦場じゃ医者が足りない。それだけのことだ」




 対馬。夜。


 難民キャンプにランタンの光が灯った。ドールAが食事を配っていた。子供がドールAの手を引っ張った。ドールAは引っ張られるままに動いた。


 対馬の島民が毛布を持ってきた。


「寒いでしょう。使ってください」


 韓国から来た女性が頭を下げた。


「ありがとうございます」


 島民が戻っていった。遠く北の方向から砲声がまだ聞こえた。





【国内情報スレ】


1 名無しさん

韓国で銀行が全部閉まってATMも落ちてるって現地の知人から連絡来た

電子マネー全滅・カードも使えない・ウォン現金すら店で断られてるって


2 名無しさん


>>1

国内証券もゼロになってるらしい

米国株も国内証券会社経由だと口座ごと凍結で触れないって

一夜にして全員無一文じゃないか


3 名無しさん

NHKが速報出した

北朝鮮が砲撃開始したって


4 名無しさん


>>3

ミサイルも弾道も枯渇してたからな

砲兵だけは残ってた


5 名無しさん

在韓米軍が撤退してるって在韓日本人から情報が来てる


6 名無しさん

C-2が韓国方面に飛んでるって目撃情報が複数出てる

小牧から出たって


7 名無しさん

対馬に何か施設ができてるって地元の人が言ってる

人がたくさん降りてくるって


8 名無しさん

成田第3ターミナルに見慣れない窓口がいくつも並んでるって

外国語の案内板が急に増えてる


9 名無しさん

対馬の島民が毛布持って行ってるって話が出てる

日本人だなあ

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