第120話「新年」
時事ネタ?社会風刺?いずれにしろ、この作品はフィクションであり、実在の企業・団体・個人とは一切関係ありません。キリッ
2029年1月1日。
首相官邸の記者会見室には、年始恒例の花飾りが据えられていた。高道香苗総理は落ち着いた紺のスーツ姿で演台に立ち、穏やかな笑みを浮かべたまま一礼した。
「昨年は国民の皆さまのご支援のもと、多くの成果を上げることができました」
手元の原稿には目もくれず、彼女は語り始めた。
「税収は115兆円を超え、本年より国債の償還を開始いたします。国民負担の軽減という、かねてからの公約を履行できることを、心より嬉しく思います」
弾道ミサイル防衛の実績。しらね・くらまによる北朝鮮発射弾の全弾撃墜。ドールA・タココの社会実装による生産性向上。法人住民税の地方分配による地域経済の活性化。実質賃金の大幅上昇。
実績を並べるたびに、会見室の空気がわずかに変わった。反論の余地がない、という静けさだった。
「本年は、これらの成果をさらに発展させてまいります。地方創成の加速、産業基盤のさらなる強化、そして安定した安全保障環境の維持——」
淡々と、しかし確実に言葉を積み上げていく。
民放NHKの中継ブースでは、キャスターが原稿を手に困り顔を作っていた。
「以上、高道総理の年頭会見でした……なお内閣支持率は現在、各社調査で——」
短い間があった。
「九十二パーセントを記録しており……詳細については、後ほど改めてお伝えする機会を設けたいと思います」
画面が切り替わった。続きはなかった。
同じ頃、北京では定例の記者会見が開かれていた。
「日本は軍拡路線を継続しており、アジア太平洋地域の平和と安定にとって重大な脅威となっています。我が国は引き続き、強い懸念を表明せざるを得ません」
報道官は用意された原稿を読み上げながら、その声に昨年ほどの勢いがないことに自分でも気づいていた。
経済成長率3.2パーセント。これが今年公式に発表できる数字の上限だった。実態がどうかは、報道官自身も深く考えないようにしていた。
アンコーナ。
「我々は昨年、歴史的な転換点を迎えました」
デローニ首相は地元のマスコミを前に、満面の笑みを見せた。FEPAの基地が根を張ったこの港湾都市は、2年前とはまるで別の顔をしていた。雇用。電力の安定供給。関連産業の集積。観光客の増加。
「アンコーナは今や、ヨーロッパにおける新たな成長の象徴です」
支持率62パーセント。政権発足時の33パーセントから、ほぼ倍増だった。首相の笑顔には理由があった。
ワシントン。
ドランプ大統領の執務室では、年始から重い空気が漂っていた。
「日本のあのロボット——アテンドールだか何だか——あれを民生品として輸入できないのか」
補佐官が首を振った。
「管理体制が極めて厳格で、輸出先の政府・企業に対してUSCとFEPAの監査が入ります。製造ラインそのものをジブチとアンコーナ以外に移す許可が出ません」
「じゃああの蜘蛛型は」
「タココについても同様です。警察庁仕様は日本国内専用で、技術移転は全面的に制限されています」
「……MAGIの利用権だけでも」
「月額課金ベースで利用は可能ですが、中核技術のライセンス供与は対象外となっています」
大統領は窓の外を眺めた。横須賀の新ドックで建造中のDDG(X)は12月に就役する。その技術を使ったのは日本側だ。佐世保沖に展開する「くらま」のレールガンが北朝鮮のミサイルを叩き落とすたびに、米軍の同種の能力との差が話題になる。FEPAの空母が就役すれば、その差はさらに広がる。
「日本とは強固な絆で結ばれた、力強いパートナーです」
年始の会見で大統領が言えたのは、それだけだった。
【掲示板:日欧共闘】
ID:Toshi_k9
120話投下。年始の世界情勢まとめ回です
ID:8vYnKp2A
民放NHK支持率92%で詰まった草
ID:mJ3kPp7T
中国の軍拡批判に対して作中で誰も反論しないの逆に怖い 事実として3.2%が全部語ってる
ID:k4RrQw2X
デローニもウハウハすぎて草 アンコーナに全部持ってかれたなEU
ID:vLx3Nn8A
ドランプが欲しがっても全部管理されてて草 USC課金するだけで技術は渡さないの橘の設計美しすぎる
ID:Toshi_k9
vLx3Nn8A ありがとうございます、そういう構造にしたかったんですよね
ID:8vYnKp2A
「力強いパートナー」ってヨイショするしかないの草生える生える
去年の「日本に多大なる恩恵を与えてやってる」はどこへ




