第2話 Let’s Dance! ダンス大会にエントリー!
「みーゆー!♡」
朝からやたらと元気な声が飛んできた。
「ダンス大会に出場してみない?!」
ティナは両手を広げ、くるりと一回転する。
「魔族、エルフ、巨人族、ルナ族、龍族、ドワーフ、モンスター! いろんな種族が出る、世界最大級のダンスバトルコンテストなんだよ!!!」
「……ダンス大会?」
聞き返すと、ティナはスマホのような端末を操作し始めた。
「あ、予選は――明日! 駅前の平場が会場だって。勝敗はオーディエンス、つまり通行人のジャッジ。時間は十七時から!」
勢いだけで押し切るタイプだ。
断る理由は、なかった。
何より、この世界の人たちがどんなダンスを踊るのか、純粋に興味があった。
「……行く」
「そうこなくっちゃ!♡」
拳を突き上げるティナ。
同時にその大きな胸も揺れた。
「そうそう、ルールに“魔法使用可”ってあるけど、みゆは魔法使えないよね?」
「え? うん。……ダンスに魔法を使うの?」
「ダンスバトルだからね〜。ちょっと見本、見せてあげよっか!」
「え、今から?」
「もちもち! 今から!」
ティナは悪戯っぽく笑った。
「ちょっとその辺のモンスターに、相手になってもらお〜♡」
こうして二人は外に出た。
近くのコンビニの前。だらけた様子でたむろしているモンスターに、ティナは気軽に声をかける。
「ねえねえ、私とダンスバトルしない?」
「あー、いいよ」
返事は驚くほど軽かった。
みゆが一瞬ためらうと、ティナは肩をすくめた。
「大丈夫大丈夫。モンスターだし♡」
「……?」
「アハハ! この国じゃ、あの子たちに細かい権利なんてないの。便利でしょ⤴?♡」
場所を公園に移す。
ティナが一歩前に出た瞬間、空気が変わった。
「私はね、自分から半径4メートルを“自分の領域”に変えられるの」
「ステージに立ったことがある人なら、これがどれくらいか分かるわよね♡」
言葉と同時に、景色が歪む。
夜でもないのに、辺りはネオンに包まれ、床は光り、まるでナイトクラブのようになった。
「これが私の能力――
妖艶円舞曲」
ティナはポールに手をかけ、しなやかに舞う。
官能的で、視線を奪う動き。空間そのものが、彼女のダンスに支配されていく。
対するモンスターは、慌てて動き出した。
……なぜか、髭ダンスだった。
「全然セクシーじゃないわ」
次の瞬間、ティナの身体から光が放たれる。
「私のセクシービーム、いかがかしら?♡」
モンスターは固まったまま、微動だにしなくなった。
「どう? これがダンスと魔法を融合させたやつ」
いつの間にか、通行人が集まり始めていた。
みゆはその様子を、静かに見つめていた。
「私は魔法は使えないけど……」
ぽつりと呟く。
でも、身体の使い方なら、負ける気がしなかった。
………
……
…
ふと、昔の記憶が蘇る。
数年前。あるダンス大会で優勝した帰り道。
繁華街の高架下で、自分と同じ歳か少し上の若者たちが円を作って何かをしているのをを見た。
ストリートダンスのバトル。
初めて目にする光景だった。
先に踊ったのが赤いパーカーとワイドのカーゴパンツを履いた人。
次に踊ったのが白のタンクトップとストリート系のジャージの人だった。
激しく、荒々しく、魂をぶつけ合うようなダンス。
…
……
………
──あのときの私とは、もう違う。
──深く息を吸う。
「……私も、やってみる」
みゆは一歩、前に出た。
フリースタイル。
激しさと、しなやかさ。
身体が覚えているすべてを、解き放つ。
みゆがスマホのプレイリストから選んだ曲は低く、腹に沈むビートが流れ出す。
音というより、振動だった。
微動だにしない。
顔は横を向き下を向いている。
★ その瞬間、
足裏の感触が、さっきまでと違っていた。
地面が、わずかに柔らかい。
――いや、違う。
床の方が、こちらに合わせている。
★ 呼吸に合わせ、
空気が遅れて動く。
一拍遅れで、空間が揺れる。
★ もう一度、ステップを踏む。
音より先に、
観客の息が揃った。
ざわめきが消える。
拍手も、声もない。
ただ、視線だけが集まっている。
★ (……何?)
違和感はあるのに、不快じゃない。
むしろ、心地いい。
肩が、もう一度動いた。
今度は、自分の意思より先に。
★ リズムが、外から来ない。
身体の奥で鳴ったビートに、
世界の方が追いついてくる。
踏み出す。
すると――。
みゆの周囲、半径5メートルほどが淡く光り始めた。
一歩、踏み出した瞬間だった。
その場の雰囲気が変わった。
いや――世界の方が、私に合わせてきた。
次の瞬間、私の周囲が淡く光り始めた。
「……え?」
自分自身が、一番驚いた。
(これ……私の能力?
異世界だから、発動したの?)
答えは分からない。
ただ、踊り続けた。
動きに合わせ、光は色を変え、揺らめく。
その中にいる人々の表情が、少しずつ和らいでいく。
ダンスが終わった瞬間、拍手が起こった。
みゆは胸の奥が、じんわりと温かくなるのを感じていた。
それが能力なのか、
それとも、ダンスそのものの力なのか。
分からない。
――けれど、心地よかった。
明日、ダンス大会の予選が始まる。
世界は、少しずつ動き出していた。




